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ぷちいやんな表現あり。
――殺してみせろ。
幾度も幾度も其の身を貫きながら、嘉弘は雪花の耳元で囁いた。
「この俺を、殺してみせろ。雪花」
まるで楽しげに、嬉しげに、うっとりと。
雪花はぼんやりと瞼を震わせ、日の光に朝を感じた。
天井を見れば離れのそれではなくて、主の寝間のそれだとうつろに気づく。生暖かい手ぬぐいで、ふと首筋をぬぐわれた。
「起こしてしまいましたね」
ミノは困惑の混じった声で言う。横に視線を向けると、ミノは枕辺で優しい眼差しを雪花に向けた。
「旦那様はもう出仕なさいましたよ。ああ、雪花さんは良いのですよ。今日はゆっくりと養生なさったほうがよろしい」
「……」
生きてる?
雪花は霞む頭でそんなことを思う。殺されてしまうのではないかと思ったのに。だというのに、生きている。
ただ体のあちこちが痛んで、あちらこちらがきしきしと悲鳴をあげている。
顔をしかめる雪花に、ミノも顔をしかめる。
「雪花さまははじめてなのだから、もう少し優しくしてさしあげればよいのに」
どうやら主への文句のようだが、雪花はそれ以前にミノの口調のやわらかさと――そしてその雪花さま、という聴き慣れぬ尊称に首をかしげた。
しかし相手は勿論気づかぬ調子で続ける。
「湯殿の準備はできていますけれど、体を動かすのはおつらいですか?」
其の言葉にじっくりと自分の体を思う。
昨夜は酷く触られ、舐めまわされたことを思い出し、体の痛みうんぬんよりも風呂に入りたい。この不快感を洗い落としてしまいたいと切に感じ、雪花は身をゆっくりと起こした。
体に掛けられた布団が落ちれば、いくつもの痣を持つ白い裸身があらわになる。
――噛み付かれたことも思い出した。
ミノは一瞬ぽかんと口をあけたが、慌てたように雪花の肩に単を掛ける。
「まったく旦那様ときたら!」
小さな声での罵りは、ミノらしくない口調だ。
雪花に手を添えて立たせると、雪花はその感触にうろたえた。
内股を、とろりとした体液が流れて落ちる。
わざわざ単を合わせてやろうとしていたミノは一瞬天井を見上げ、身を伏せて手ぬぐいで雪花の下又を流れたものをぬぐった。
なんとなく、かぁっと雪花の顔が赤く染まる。
なに、なに? なんなの?
「ぬぐってしまうのはもったいのうございましょうが、流れ出たものは駄目なのだと昔産婆も言ってましたしね?」
明らかに呆れたような調子だ。
意味が判らず首をかしげてみせる雪花に、ミノは苦笑交じりに、
「子種でございますよ」
と――さらりと言う。
さらりと言われても雪花にとってはそれはそれは衝撃なのだが。
「たんと子種を頂けたのですから、早くやや子が産まれるとよろしいですね」
ちっとも……よろしくない。
――ひどく他人事に響いた。