表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の棲む家   作者: たまさ。
9/52

8

ぷちいやんな表現あり。


――殺してみせろ。

幾度も幾度も其の身を貫きながら、嘉弘は雪花の耳元で囁いた。

「この俺を、殺してみせろ。雪花」

まるで楽しげに、嬉しげに、うっとりと。


 雪花はぼんやりと瞼を震わせ、日の光に朝を感じた。

天井を見れば離れのそれではなくて、主の寝間のそれだとうつろに気づく。生暖かい手ぬぐいで、ふと首筋をぬぐわれた。

「起こしてしまいましたね」

ミノは困惑の混じった声で言う。横に視線を向けると、ミノは枕辺で優しい眼差しを雪花に向けた。

「旦那様はもう出仕なさいましたよ。ああ、雪花さんは良いのですよ。今日はゆっくりと養生なさったほうがよろしい」

「……」

生きてる?

雪花は霞む頭でそんなことを思う。殺されてしまうのではないかと思ったのに。だというのに、生きている。

 ただ体のあちこちが痛んで、あちらこちらがきしきしと悲鳴をあげている。

顔をしかめる雪花に、ミノも顔をしかめる。

「雪花さまははじめてなのだから、もう少し優しくしてさしあげればよいのに」

どうやら主への文句のようだが、雪花はそれ以前にミノの口調のやわらかさと――そしてその雪花さま、という聴き慣れぬ尊称に首をかしげた。

 しかし相手は勿論気づかぬ調子で続ける。

「湯殿の準備はできていますけれど、体を動かすのはおつらいですか?」


其の言葉にじっくりと自分の体を思う。

昨夜は酷く触られ、舐めまわされたことを思い出し、体の痛みうんぬんよりも風呂に入りたい。この不快感を洗い落としてしまいたいと切に感じ、雪花は身をゆっくりと起こした。

 体に掛けられた布団が落ちれば、いくつもの痣を持つ白い裸身があらわになる。

――噛み付かれたことも思い出した。

 ミノは一瞬ぽかんと口をあけたが、慌てたように雪花の肩に単を掛ける。

「まったく旦那様ときたら!」

小さな声での罵りは、ミノらしくない口調だ。


雪花に手を添えて立たせると、雪花はその感触にうろたえた。

 内股を、とろりとした体液が流れて落ちる。

わざわざ単を合わせてやろうとしていたミノは一瞬天井を見上げ、身を伏せて手ぬぐいで雪花の下又を流れたものをぬぐった。

 なんとなく、かぁっと雪花の顔が赤く染まる。

なに、なに? なんなの?

「ぬぐってしまうのはもったいのうございましょうが、流れ出たものは駄目なのだと昔産婆も言ってましたしね?」

明らかに呆れたような調子だ。

意味が判らず首をかしげてみせる雪花に、ミノは苦笑交じりに、

「子種でございますよ」

と――さらりと言う。

さらりと言われても雪花にとってはそれはそれは衝撃なのだが。

「たんと子種を頂けたのですから、早くやや子が産まれるとよろしいですね」

ちっとも……よろしくない。


――ひどく他人事に響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ