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鬼の棲む家   作者: たまさ。
8/52

7

この回には多少大人な表現が含まれております。ご注意下さい。

機嫌の良いミノは主が帰宅した後も機嫌が良かった。

雪花には酒の酌のあとには風呂へと入るようにとしっかりと念を押し、さらに駄目押しのように風呂につかる雪花を見にも来た。

 随分と早い時間から嘉弘(よしひろ)の床は用意され、単だけの雪花はそこで暗くなるまで放置される。

 厚みのある敷布団の下、雪花は懐剣をそこに潜ませた。

抜き出しやすいようにと袋から出し、柄の部分を外側に向け、枕と敷布団の下に。

 心臓がとくとくと早鐘を打つ。


どちらかというと緊張というか、もう気持ちが悪い。

時の流れに、今ごろ嘉弘は夕餉をすませたころあいだろうかとか、風呂をあびたあとであろうかとか――無駄なことを考える。

 そもそも、何故自分はミノの言葉でこんな場所にいるのかだとか、もう頭はぐちゃぐちゃだ。

――本気で自分は嘉弘を殺したいのだろうか。

 それを考えなければいけないのに、考えたくないと拒絶する。

父を殺した男だと嘉弘は言う。それを憎んだ気持ちは無いとは言わない。父の罪がどんなものであるのか、雪花には判らない。当時は本当に小娘で、そんなことは感知するすべもなく、ただあの日……父が、すまないと、言葉を、落とし……――


 たんっと襖が開き、雪花はハッと息を呑み、慌てて三つ指をついて頭を下げた。

「……なにを、している?」

低く恫喝的な言葉で嘉弘は言葉を切った。

嘉弘自身、寝巻きである浴衣。肩に手ぬぐいをかけた様子は明らかに風呂上りの様相。

じろじろと雪花の様子を眺め、顔をしかめ、そして息をつく。

「ミノか」

ちっと舌打ちのように言う。

だがすぐにつかつかと雪花の前に立つと、乱暴な所作で――普段からやけに綺麗に動くこの男にしては乱暴な所作で、どさりと胡座をかいた。

 三つ指をついたまま頭を垂れる雪花の(おとがい)に手をかけ、ぐっともちあげる。

視線が、かちあう。

 まるで獣のような力ある瞳に、雪花はこくりと喉を鳴らした。

「震えているぞ」

言われてはじめて気づく。確かに、小さく、体が振動する。

「無理強いするつもりは無いが、ここにいるという時点で了承ととるからな」

言葉と同時に唇が触れ合う。


そのまま押されてとさりと布団の上に転がされる。上半身だけを布団に預けたまま、雪花の視界に薄暗い天井が入り込んだ。

 風呂上りのどこか湿った体温が自らの上にのしかかる。触れ合う唇から酸素も唾液も抜き取られるような感触に、体のどこかが痺れたように意識が飛ばされる。

 唇の間から吐息が漏れ、雪花は羞恥に意識を取り戻した。左手をそっと動かし、布団の下、固い懐剣の柄に触れると、雪花は勢いをつけてそれを引き抜き、自らの上にいる男へと向けた。

 くっ、と――嘉弘の瞳が嬉しそうに笑う。


容易く雪花の左手を絡めとり、拮抗(きっこう)させるように力をこめる。

くくくくくっと喉の奥を鳴らしながら、そのままの状態で嘉弘は雪花の首筋を舐めあげた。

 まるで何事でもないというようにそのまま行為をつづけていく。

左手を押さえ込んだまま、膝で雪花の足を割り、舌先で、歯でもって単の胸を広げていく。

「うっ……」

 おそらく嘉弘は容易く雪花の懐剣を奪えるであろうに、そうはしない。ただ手首を押さえ込み、もう片方の手で帯を紐解く。

 ひんやりとした空気が肌を刺した。

嘉弘は実に楽しそうに笑い、唇を歪め、あらわになった胸元に舌を這わせて胸の突起を口に含んだ。

「あ……」

「良いぞ、雪花――俺を殺してみろ」

その言葉にぐっと手に力をこめる。だが下半身がぞくぞくとあわ立ち力が入らない。するりと、左手の懐剣が手元を離れ、落ちた。

 途端にその懐剣を嘉弘は掴み上げ、雪花の胸元にその刃を当てた。

「あぁッ――」

つっと赤い線が生み出される。深く切られた訳ではない。ただほんの少しだけ、すっと、切られた。

 その血を、嘉弘の舌が舐める。

瞳が爛々と輝き、口元に笑みを浮かべ、嘉弘はその剣を雪花の首の脇に刺した。

雪花の瞳が大きく見開かれる。

殺されるという恐怖が身を襲った。

それと同時に、それは仕方が無いことなのだという思いが産まれる。

 刃を向けるとは、そういうことなのだ。

刃を向ければ殺し、殺される。そういうものなのだ、と理屈抜きで体に染み込む。

嘉弘は自らの浴衣の帯を解いた――

口の端を歪め、笑い、雪花の体を折るように、抱いた。


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