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鬼の棲む家   作者: たまさ。
18/52

17

――きたか。


その言葉と同時にぐっと雪花の手を掴み、ほうるように自分の後ろに雪花を移動させる。

その時になってやっと、雪花は自分が先ほどいた方向――三人の男がいることに気づいた。


 男達の手にはすらりと白刃がすでに抜かれ、その瞳はぎらぎらと強い意志を宿していた。

「三人か」

チッと嘉弘が小さく舌打ちしたが、そのあとには「まぁいい」という言葉が続く。


「まさかただの物盗りという訳ではあるまい?」

「黙れ! 貴様が討った兄の恨みっ、ここで晴らそうぞっ」

「どれだか知らぬがな?」

つまらなそうに言い、嘉弘はすらりと腰の刀を抜き放つ。


雪花は自らの胸元、懐剣を握り締めて瞳を大きく見開いた。

一人の男が身を低くして突っ込んでくるのを軽く避けて振り向きざまに嘉弘の刀が一閃する。その白刃の閃きで男がくぐもった声をあげる。

 その血を見た途端、嘉弘の瞳がぎらぎらと輝いた。


ぺろりとその舌先で唇を舐めて微笑む。

「喜べ、殺しはしない」

クっと喉の奥を鳴らせば、もう一人の男が嘉弘に突っ込んでいく。何事か判らぬ声を張り上げて来るその男は、刀先をぶるぶると震わせ、切るというよりも突く仕草だ。


――これは駄目だ。

瞳を大きく見開きソレを見ながら、雪花は懐剣を握り締めて身を硬くした。

なんということだろう。

嘉弘が楽しんでいるのに対し、男達は必死だ。

その顔にも動きにも余裕というものがなく、ただがむしゃらに嘉弘につきかかる。

これでは、駄目だ。

こんなでは嘉弘を殺すことなどできない。


とうの嘉弘はチッと舌打ちする。

当初の嬉しそうな様子がすっかりと不満に溢れている。


悲鳴とも怒号とも聞こえる中、ふと雪花はもう一人の男と目が合った。

途端、ぎらりとその瞳に意思が見える。

慌てて逃れようと身を翻したが、相手のほうが早い。


なりふりかまわぬ動きで男が声をあげて迫る。

雪花は咄嗟に自らの懐剣の紐を解こうとしたが、それはもつれて容易くとかれぬ。焦りと恐怖で身がこわばり、

男が刀を振り上げた時――すっと間に身を沈めるようにして入る嘉弘が見えた。


左足を低く大きく踏み出し、左手、ひくい位置から白刃を上へと跳ね上げる。

それと同時、右足を軸にして身を捻り上げたかと思えばもう片方の足が男の腹を蹴り倒した。


ザっと砂を跳ね上げる音、男が倒れる音、そして、嘉弘は持っていた刀を軽く振るとそのまま刀を鞘へと戻した。

――それをどこか遠く。自分すら含めてその半歩後ろで見るような奇妙な心持で見つめた雪花は、腰を地面に落としていた。

「行くぞ」

「……」


立ったままの嘉弘が見下ろしてくる。

雪花は自らの喉がやけに渇くのを感じ、ハッと辺りを見回した。

――男が三人、呻いている。


殺しはしない、その言葉の通りに嘉弘は彼等を殺してはいなかった。

だがそのどれも足や腕に大きな傷があり、放っておけば使い物にならなくなるであろうと知れる。

 あたりは血の匂いでむせかえり、雪花の臓腑までも揺れ動かす。

ごくりと喉を動かし、そのなかでも一番傷が深そうな男の許に、雪花は自らを鼓舞してなんとか近づいた。

「くそっ、殺せっ」

忌々しそうに叫ぶ男は苦痛に歯を食いしばっている。

それは先ほど雪花へと向かってきた男で、背後に嘉弘に利き腕を切られた男だ。


雪花は自らの袂に手をいれ、手ぬぐいを取り出すとそれを引き裂き一方で血を拭い、一方でその傷をもつれるような手で必死に巻いた。

 男の瞳が憎しみもあらわに見つめてくる。

よくみればその姿は素浪人よりも酷い。

擦り切れ、あせた着物も、髪の手入れもままならない。

雪花は自らの頭に手を回し、幾つか刺さっている簪から一番飾りが細かく、美しいものを引き抜き、男の袂に入れた。


「医者に行って」


短く告げると、そのまま苛立ちを向けてくる嘉弘の許へと戻った。



――あれは、自分だ。

あれは……

「来い」

短く告げる男を前に、雪花はぐっと腹に力を込めた。


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