二十六話 冗談と嘲笑の境界線
残念ながら、学校の時間はまだまだ残っている。
午前中の授業を乗り越えたのは良いのだが、とうとう昼休みになってしまった。
(さて、どうしたものか)
俺が一番心配していたのが、この時間だ。
なぜかと言うと、その理由は――やっぱり、あいつらである。
「巧、昼飯食いに行くから早くしろ! ダラダラすんなよ、俺はもう腹減ってるんだが?」
「それなー。武史君がそう言ってるんだから早くしてくれない?」
そうなのだ。今、うるさくしているあの二人と、俺は一緒に昼食を食べていたのだ。
香里とは付き合い始めた二週間前からの関係だが、武史とは入学してから今まで毎日一緒に昼食を食べていたのである。
だからあいつらは、俺がいつものように一緒にごはんを食べると思っているのだろう。
しかし、行きたくはない。というか会話もしたくないし、同じ空間にいたいとも思わない。
だが……いきなり断るとあの二人を触発するような気がしてならない。
あいつらは浮気がばれていないと思っているのだ。一応、今も香里と俺は付き合っていることになっている。なので、恋人を違う男と二人きりにわざとするような行動は、不自然と言わざるを得ないだろう。
「おい、もやし野郎! 俺、前に言わなかったか? お前に待たされるのがすごく嫌いって」
「ちょ、もやしてw やめてよ~、巧にもやしは似合いすぎるからっ」
……こんなにバカにされているのだ。
俺に断られるという行為自体が、あいつらのプライドを刺激するきっかけになりそうだ。
正直、もうこの二人に対して怒ったり、悲しんだり、苦しんだりするのはめんどくさい。できれば無関係の他人でいたい。そのためには……いきなり縁を切るのではなく、少しずつ疎遠になっていって、最終的には記憶からいなくなることが望ましいだろう。
だから、今日の昼食は仕方ない。
腹をくくって一緒に過ごして、明日からは別の予定を入れるように調整しよう。
「……待たせてごめん。いつもの屋上でいいよな。行こう」
とりあえず鞄から弁当箱を取り出して、教室の入り口で待つあいつらに近寄った。
なぜか武史は香里の肩を抱いて俺を待っていたが、それは無視してそばを通り抜けると……二人はつまらなそうにため息をついて、俺についてきた。
「んだよ、彼女の肩を抱かれてるんだから怒れよ。てめぇ、ち〇こついてんのか?」
「もやしについてるわけなくない? 巧ってなんか女々しいっていうか、ひ弱だからw」
「それもそうかw」
うるさいなぁ。
それにしてもさっきから耳に障ることばかり言う。
でも、これは俺も悪いのか。
今まで、そういう発言を全て冗談だと捉えて笑い飛ばしていたのだ。何を言われても気にしなかったので、二人が増長して発言がエスカレートしていくのも無理はないのかもしれない。
「病み上がりだから。まだ体調が万全じゃないんだ」
「知らねぇよw お前が勝手に風邪ひいたのが悪いのに、気を遣えってか? めんどくせぇ」
「武史君は風邪ひかないもんね~」
「まぁな。俺、今まで風邪なんて引いたことねぇよ。巧と違って強い人間だからなw」
……当然のように、体調の心配はなし。むしろ辛気臭いとばかりに鼻で笑う始末
まぁ、別にそれを求めていたわけじゃないので、何も思わない。
しかし……やっぱり、あの人たちと比べてしまう自分がいた。
(花菜さんと一華ちゃんは、心配してくれたのに……同じ生活をしているお前はどうして、そうなれなかったんだろうな)
五味家の母と娘は、善良で心優しいというのに。
武史だけ醜悪で卑怯に育っている現状が、残念で仕方なかった――。
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