表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/105

二十一話 過保護なところも素敵な母性

 そんなこんなで、時刻は午後を迎えた。

 小一時間ほど花菜さんに甘やかされていたけれど、そろそろ帰宅しないといけない時間になったようである。


「巧くん、ごめんね? 自宅の家事もまだ残ってて……武史はどうでもいいんだけど、一華のためにいろいろやってあげたいから」


「はい、もちろん大丈夫です。今日はありがとうございました」


 もう十分、甘やかしてもらった。

 俺としてはかなり満足した時間を過ごせたと思う。

 でも、花菜さんはどこか後ろ髪をひかれるかのように、名残惜しそうだ。


「……明日からは、ちゃんと学校に行ける? 無理なら、休んでもいいわよ。私もそばにいるわ」


「そこまでしなくても大丈夫ですよ。明日からは、また頑張ります」


 花菜さんにはたくさん元気をもらった。

 おかげで、武史や香里とも顔を合わせる勇気が出てきたのである。


「それに、花菜さんもお仕事あるんですよね?」


「……休むわ。巧くんのこと、まだちょっと心配だもの」


 もしかしたら、花菜さんの母性が爆発しているのだろうか。

 少し過保護な一面もあるのだろう。その優しさはありがたく受け入れつつも、これ以上は大丈夫としっかり首を横に振った。


「また辛くなったら、花菜さんに甘えて癒してもらいますので……ちゃんと向き合って、乗り越えたいと思います」


 あいつらから逃げたくない。

 あんなクズたちのせいで、仮に恋愛に対してトラウマができたりしたら――そんなの、心から嫌だ。


 これ以上、俺の人生を歪ませたりさせない。

 トラウマにならないよう、ちゃんと正面から向かい合って乗り越える。


 それこそが、俺にとって一番幸せなことなのだ。

 と、いう決意を伝えたら、花菜さんはしっかりと受け止めてくれた。


「そうなのね。ええ、分かったわ。夜なら来れるから……その時に、また色々と話を聞かせてね?」


 まだ心配はしているように見える。

 でも、信じて見守ってくれるらしい。


 こういうところも母親らしくて、なんだか素敵だなと思った。


「じゃあ、私は帰るわね……何かあったら呼んでね? すぐに駆け付けるから」


 そう言って花菜さんは帰り支度を始めた。

 そして、帰り際。


「あ、そうだ。申し訳ないけど、一華のこともよろしくね……学校が終わったら来るって言ってたから」


 しっかりと娘のことをお願いされたので、今度は気を引き締めて背筋を伸ばした。


「はい。花菜さんに癒された分、一華ちゃんを元気づけます」


「うふふ♪ お兄さんらしいことを言って、素敵だわ。じゃあ、また明日の夜に来るから」


 最後にもう一度、花菜さんは俺のことを軽く抱きしめてから家を出て行った。


「はい。ありがとうございました」


 その後ろ姿に手を振って、玄関の扉が閉まるまで見送ってから……ちゃんと花菜さんが帰ったことを確認して、俺は自分の胸をギュッと抑えた。


「……やっぱり、一人は静かだなぁ」


 花菜さんの前では、少し強がっていたのだろう。

 一人になって、痛いほどに静けさを感じて、唐突に寂しさを覚えた。


 ここ二日はずっと誰かがそばにいたおかげなのだろう。

 一人はやっぱり、心細い。


 でも……洋服から、花菜さんの優しい匂いが漂ってきて、心が落ち着いた。散々抱きしめられたので匂いが移ったのかもしれない。


 よし……明日の夜、また花菜さんに会えるし、これから数時間もすれば一華ちゃんも来るのだ。


 落ち込む必要なんてない。

 そう思って、とりあえず……一華ちゃんが来るまでは、ゆっくりと過ごすことにするのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ