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十五話 善良な人ばかりが損をする

 人がいいとは、よく言われる。

 頼まれたことを断れないし、人が傷つくところを見るのは苦手だった。幼い頃は捨てられた子猫とか見かけたらつい拾っていて……呆れた祖父母と一緒に、よく飼い主になってくれる人を探していたくらいだ。


『わしがいなくなったらお前が詐欺にあわないか心配で、死んでも死にきれんな』


 ……病院のベッドで、祖父に言われたことをふと思い出した。

 あの時はピンとこなかったけど、一華ちゃんに言われたことでようやく自覚できた。


 俺はどうやら、警戒心が緩いらしい。

 それに付け込まれて、武史と香里に騙された……ということか。


「わたしのせいだよ……わたしがいない方がたくみにぃが幸せになると思って、身を引いたのが悪かったの」


 いや、そんなことは決してない。

 一華ちゃんが責任を感じる必要なんてないのだ。


 大前提として、一番悪いのは武史と香里だ。あの二人の浅はかな行為によって、俺たちは苦しんでいる。


 でも、次に悪い人間を探すとするなら……それは間違いなく、俺――笹宮巧である。


 俺が、武史の本性をしっかりと見抜けなかったこと。

 俺が、香里という人間を好きになってしまったこと。

 二人に軽んじられている状態であるにも関わらず、それに気付くこともなく、むしろあいつらを信頼してしまっていたこと。


 そういう間違いが重なって、浮気という結果に陥ったのだ。

 もし、俺がもっと慎重な人間であれば……もっと、他者の本質を視認できる人間なら、こういうことにはならなかった。


 挙句の果てには、花菜さんの弱みに付け込んで慰めてもらい……そして今度は、一華ちゃんにまで責任を背負わせてしまっている。


 俺がもっと強い人間なら、ここまで被害は広がらなかった。


「違うよ。一華ちゃんが悪いわけじゃない。むしろ、ごめんって言わないといけないのは俺の方だよ……俺がもっと強い人間なら――一華ちゃんを慰めることだって、できたはずなのに」


 ……やっぱり、花菜さんは年上だから、心のどこかでは甘えていたのだろう。罪を全部押し付けて、被害者でいられた。


 でも、年下の一華ちゃんを前にすると、自分の弱さをハッキリと感じ取れた。自分にも悪いことはあったのだと、深く反省した。


 俺も悪いんだ。だから、一華ちゃんに罪悪感を背負わせたことを、謝った。

 でも――頭を下げたところで、誰も救われないわけで。


「なんで? 強い人間じゃなくていいよっ……たくみにぃは、そのままで十分素敵だよ? たくみにぃの方が、悪いことなんてないよっ……謝らないでよ。そんなことされちゃったら、わたし……どうしていいか、わかんないもん」


 一華ちゃんは、余計に落ち込んでいた。

 ……俺が被害者であろうと、加害者であろうと、彼女にとっては関係はない。いずれにしても、俺が傷ついたという結果に一華ちゃんは苦しんでいる。


「「…………」」


 だから、二人とも何も言えなくなった。

 客観的に見て、俺も一華ちゃんも、それから花菜さんも悪いことをしたわけじゃない。


 最低なのは、武史と香里の二人だ。

 俺たちは真っ当に、善良に生きている。


 だけど、傷ついているのは俺たちだ。

 善良な人間ばかりが損をして、身勝手なあいつらは得をしている。


 ……そっか。一華ちゃんが悔しそうにしている気持ちに、ようやく共感できた。


 俺たちは何も悪くないはずなのに、俺たちだけが苦しんでいるこの状況は……決して、許されていいものではないのだから――。

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