鳥の一生
神の一生
ああ、生まれた。
生まれてくれた。
涙が。とめどなくあふれてくる。
お前たちの兄弟はみな孵らず
母ももうここにはいない。
たった一人のいとしい息子よ。
お前をもう離しはしない。
それはぴーぴーと産声を上げて。
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「お父さん!お父さん!おなかすいたよ!」
「いいよ。今とってくるからね。」
ああ、いつか来てしまう。
「ほら。お食べ。」
「わーい!」
「父さん。どうしたの?」
「少しね。」
「かわいい息子よ。ゆっくりお食べ。」
「ふふふ。やっぱり父さんに撫でられるのが一番気持ちいや!なんかあったかい気分になるね。」
「そうか?」
「父ちゃん。もっと欲しい。」
「ああ、いいとも」
そういうと一羽の鳥は巣から飛び立つ。
今だけなのだ。
こうして、何もかもしてやれるのは。
だから。
だからこうして。
ただし深い喜びと悲しみをもって。
いずれ来るその時まで。
「ほら。お食べ。」
「ありがとう!父ちゃん大好き!」
「父さんもだ。」
「今日のお話して!」
「いいよ。じゃあ今日は虫の話をしよう。」
「虫がいるだろ。ほらこの木にも。」
「それらはね。僕らに教えてくれるんだ。」
「なにを?」
「喜びと悲しみ」
「生きることと死ぬこと」
「奪うこと与えること」
ひな鳥はその虫をつまむとくちばしの端で虫がもがく。
そうしてそれを飲む。
「ふーん」
「今はわからなくていい。そのうちにわかるようになる」
「うん。」
「とうちゃん。なんだか眠くなってきた。」
「そうか。それならお休み。かわいい我が息子。」
「父ちゃんがいるから安心して休むといい」
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「とうちゃん!とうちゃん!どこにいるの?」
「とうちゃん!!!」
「きっと僕のこと嫌いになったんだ。」
この叫びをどうして耐えられようか。我が息子がおなかをすかせて鳴いているではないか!
せめて、せめてここで見守らせておくれ。お前が独りで旅立つその時を。
どうかお父さんのことを嫌いにならないでおくれ。
近くに虫を置いてやろうか?いやいやそれではいけない。
間違ってもいいから遠回りしてもいいから一人で。
私の父もそうさせてくれたように。
「僕はこのまま一人なんだろうか。」
「寒い。父ちゃんに撫でられたい。あのあったかい翼で。」
「おなかがすいた。このままじゃ死んじゃうよ。」
「そうだ、きっと父ちゃんは隠れてるんだ。あんなに僕を愛してくれたんだもの。そう簡単に見捨てるわけないよ。」
「だから僕もちゃんと待たなきゃ」
夜が来て、おなかがすいて、父ちゃんへの希望はだいぶ薄くなってきた。
「でも、なんだか一人も悪くないな」
「確かにさみしいけど、僕の心にあるこのときめきや輝きは何だろう」
「巣の外に出てみたい。」
その夜月に照らされ二人の親子は同じ木の上で静かに眠る。
次の日の朝。
ひな鳥は飛び立った。輝かんばかりの冒険心と希望を抱いて。
父は涙した。
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僕はできる。できるを増やしていくことがこんなにも楽しいなんて。
僕はもう立派な一人前さ。
寝る前に父ちゃんから聞いたあらゆるこの世界のことが自分の目で見ると新鮮で。
「やあおじさん!」
「よう元気か?今日はあの川にはいくな。奴がたむろしてる。餌をとるなら。。。」
「ありがとおじさん。大丈夫。一人でやるよ。」
「やあおばさん!」
「あら、坊や。調子はいかが?」
「すこぶるいいや。昨日たっちゃんと遊んでね。新しい餌場も見つけたんだ。」
「そう。それはいいわね。あとで教えて頂戴な。」
「いやだよ。僕とたっちゃんだけの秘密なんだから。」
「あら残念ね。じゃあ気を付けるのよ。今日はあの川付近は危険らしいわよ。」
「大丈夫。わかってる。」
いまなら父ちゃんに言える気がする。ありがとうって。僕の友達もみな同じような経験をしていて周りのおじさん、おばさん、友人に助けられながらここまでやってきた。父ちゃんに会えるかな。
「息子の様子はどうだ。」
「おう、さっきあいさつに来たよ。お前もなぜそう隠れる。あんなに元気に飛び回ってるんだ。きっと恨んでなんかいないさ。」
「そうじゃない。なんとなくだ。」
「ふんわからんな」
「そうよ~あんないい子なかなかいないわよ。堂々としていたらいいのよ。」
「あなた片親でよくもここまで育て上げたわ。誇りに思いなさい。」
「いや俺だけではとてもじゃないが無理だった。この森のみんなが見守ってくれたおかげさ」
「僕が狩りに行くときなんか君に見てもらっていたから僕は何の心配もせずに狩りにいけたんだ」
「あなたの人望あってのものよ」
「でも不幸だったわね。あなたの奥さんのことは。」
「ああ、きっとあの子を天国からみているさ。」
「あの時は森中の鳥たちが総力を挙げて抵抗したものよ。それでも。。」
「息子さんには教えたのかしら?」
「いや。だが捨てられたのではないということはうすうす感じとってくれただろう。」
「うむ、なにか今日は森が騒がしいのう」
「長老、確かに何か感じますね。連絡網を強化しましょう。」
「よろしく頼む」
そうすると一羽の鳥はあちこちを飛び回り鳥の知らせを発する。
「なにか危険なり、近日中みなよく注意するように!警戒レベル みみず」
森が騒がしい。
「ここのところ異常気象だ。」
「やはり人間たちが。」
「ふむ。われらはその時々で適応していくしない。それができなきゃ滅びるのみよ」
「それにしても人間は天候までも変えてしまうのか」
「よしなさい。考えるだけ無駄よ。」
「しかし。」
「そういや、お前んとこの息子とターぼうにはしらせたか?」
「鳥の連絡網ははやい。だれかが伝えてると思うが。」
「不安だ。探してくる。」
「俺も行こう。」
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「たっちゃんこっちだ。」
「まてよ~」
「そういやお前すずこちゃんのことどう思う?」
「どうおもうってそりゃ知り合いさ」
「なんだよ~つまんねーの」
「お前すずこのことすきなのか?」
「まあな。だ。誰にも言うなよ。」
「はははは。ライバルは多いぞ」
「知ってるわい」
「それにしてもこんなに遠くに来ても大丈夫なのかよ。」
「あそこらの川は今日はちかづけないからもっと上なら大丈夫」
「ほんとかな~。なんか雲行きも怪しくなってきたし。俺帰りたいよ。」
「確かに風は不自然だ。どうしたのかな」
「まあ、どうにかなるさ。いままでどうにかなってきたんだから。」
「まあ、そうだな。」
川につくとあたりは静まり返っている。
「やはり何ともないじゃないか」
「あ、みろよ魚だ。」
「俺いっちばーん」
「おい!」
すると上から大きな影が
「たっちゃん!」
「うぎゃ」
大きな影は一羽の鳥を捕まえると何事もなかったように飛んでいく。
「そんな。たっちゃん。」
いそいでみんなに知らせないと。
急いで。後ろからつてきてないか?
何て僕は馬鹿なんだ!!!
友人が!!!友人が!!!
どうりであの辺一帯から鳥の声がしないわけだ。
なんで!!!
一匹の鳥はしばらく飛び続けてやがていつも見覚えのある景色に
「息子よ!!!」
「とうさん!!」
「父さん。たっちゃんが。たっちゃんが。」
「そうか。ターぼうが。」
「川のそばに行ってしまったんだな」
「もっと上流なら大丈夫だと思ったんだ。」
「そうか。」
「そうか。。」
親鳥は息子を強く抱きしめる。
「今日はもう帰るんだ。」
「とうさん。ぼくんち来てよ。今日はなんだか眠れそうにないや。だって僕。。。」
「そうか。」
「ならば父さんのおうちに行こう。お前のうちより安全だ。」
「とうちゃん。ごめんなさい。僕。」
「何も言うな。」
「これは、仕方のないことだったんだ」
「これでわかったな」
「小さいころに虫の話をしたのを覚えているか?」
「え?いや。」
「そうか。我々はあのタカにとって虫のようなもの。そこには生きる喜びと悲しみが、生と死がどうしても付きまとう。」
「僕らはたべられるだけなの?」
「個の力で勝てなくとも我々には数の力がある。」
「それらが力を合わせて情報というちからで身を守るんだ。」
「みんなが協力すればそれはそれは強い力になるんだよ」
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鳥の時間でリンゴほど経った時
人々の悲鳴が聞こえる。
建物が崩れる。
地面が大きく揺れる。
「やはり起こったか」
「なんということか」
「予兆は間違っていなかった。連絡網を」
「なんとむごいことか」
「親人間派の連中は予兆をかぎ取った際一部を連れて伝えに行ったというが」
「きやすめにもならん」
「連中は今何をしてる」
「人間の街に情報収集に行っています」
「わしらにできることなど何もないというのに」
「あの派閥には人間に助けられたものが多くいますからね。それに人間の技術に興味を持つものも」
「海がくるぞ」
「ああ、どうしてこんな」
一羽の鳥はその光景を見て心を痛め涙を流す
「どうしてこんな」
「これも自然なことじゃ。われわれは受け入れるほかに道はない」
「今はなんどきじゃ」
「区切りで言うとオケラです」
「オケラの大地震となずけよう。われらの言葉で残すのじゃ。自然の一種の側面を伝えるためにな」
鳥たちはしばらくその光景を眺めていた。
「人間たちは立ち直れるのでしょうか」
「わしは見てきた。幾度となく立ち上がる姿を。」
「かれらなら。今回もきっと。」
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それから鳥の暦でヨトウムシくらい経ったころ
長老は消え父さんは長老という立場になった。
そしてその息子らにもうれしいことが。
「おまえ。よく産んだね。」
「ええ。あなたのたまごよ。」
「君と同じくらい大事なたまご。全部で四つ。このいとしい気持ちは何だろう」
「ふふふ。わたしもよ。」
「君に似てきっとかわいくてやさいい子が生まれるよ」
「そうね。あなたにも似てきっと好奇心旺盛な立派な子が生まれるわ」
「これからが楽しみだ」
「あなたも今日から新市長さんとしてがんばって。」
「君がなったようなものだよ。僕らは二人でで一つだ。君がいなければ僕はここまでこれなかっただろう。」
「わたしも頑張らなきゃね!」
「あんまり無理はしないでくれよ」
「さて、仕事だ。行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。あなた。」
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「市長。連絡網は回しておきました。」
「ん?なにか伝えることあったっけ?」
「なにを、あなたのお子さんが生まれたことですよ!」
「いちいちそんなことで」
「そんなこととはなんですか!みんな楽しみにしていたんですよ!」
「そうか。私は幸せ者だな。」
すると一羽の鳥が市長のもとに飛んでくる。
「市長!おめでとうございます。お祝いのきれいなで暖かい毛糸のくずです。」
「おお!ありがとう。わたしたちの巣に使わせてもらうよ」
「それと手紙です。」
「手紙?だれだろう」
その場で開けて読む。
「
市長へ
あなたが今このような立場になったことをこころから嬉しく思います。
あなたの人望がみなをひきつけ束ね今このように私たちの代表としてそして成功者として名を連ねた。
あなたを支持してきたぼくとしてはこんなにもうれしいことはありません
これから僕たちは果たしてどこに向かうのか?
あなたとともにこれから歩んでいく決意ができています。
それは僕たちの総意だと思ってください。
僕もいずれあなたのような立場になってみなを引っ張っていきたい。
そう思い今猛勉強中です。
あなたのようになりたくてすべを捨てる覚悟で自分の目標に向かっていこうと思います。
どうかより良い社会に導いていってください。
」
「8番目の木のよしおからだね。なるほど。急いで返事を書く。また来るのは手間だろうから待っていてくれるかい。」
「はい。もちろんです。」
「
よしおへ。
君の言葉とてもうれしく思います。
しかし、私がこのような立場になったのは君の功績でもあるということを強く言いたい。
私の功績は君の功績だとそう思ってください。
なぜなら、私は世の中の成功というのは努力の面も多少はあるかと思いますが、それ以外の部分のほうが影響は大きいと考えるのです。
タイミング、どこで誰と出会ったか、運、などに多くの要素が詰まっているように思うのです。
だから君に言いたい。目先の分かりやすい利益のために君の大切なものをどうか失わないでほしい。
君の考え方、人付き合い、環境、運、そして生まれながらに持っているものこれらを大切にしてください。
私も例にもれずこれらに恵まれた一人です。だから自分が偉いだなんてひと時も考えませんでした。
しかし、世の中には成功したのが自分の努力だけだと思い込んでしまう人たちがいます。そういう人は周りが見えなくなることが多々あり、その目標よりも大切なものをことごとく落としてしまうのです。
私はそれを悲しいことだと思います。視野が狭くなることで多くの大切なものに気が付けないでいるのです。
それは大きなくくりで言えば運です。
それにただ恵まれただけなのです。ただ運に恵まれただけなのにどうして偉い顔ができようか!
そして私が思う成功者についてもあなたに伝えておなければなりません。
お金持ちになった人、何かを成し遂げた人、そういったわかりやすいことに目が行きがちですが私が思うに、今の自分に満足で来ていたら、あなたの心が満たされているのなら、それはもう成功者なのですよ。
そうなればきっとあなたを取り巻くあらゆるものが良い方に動き出すでしょう。
どうか目先の分かりやすいことに目を奪われ君の大切な周りの人や、君自身を失わないようにしてください。
私はあなたにそれだけのものがあると信じています。
最後に君が真の成功者になれるようこころから祈っております。
市長
」
「これを頼むよ。」
「はい。それでは!」
鳥の市長は椅子にもたれかかる
「もうあれから長い時間がたった。」
「オケラの大地震ですか?」
「そうだ」
「僕はあの時自分の失態で友を失い茫然自失としていた。」
「たつお様ですね」
「うん。」
「そんな時にあの地震があった。」
「衝撃的だった。自然というものは今まで僕らを優しく包み込むものだとそう思っていた。」
「あれで、僕は思ったのだ。あらゆる生き物を含めた自然との共生とその中での鳥の行く末を。」
「ごもっともで」
「人は今やエネルギーと自然とそのバランスを考えながら模索するまでになった。親人間派によればこれからゆっくりといい方向に向かうだろうとの見立てだ。」
「派閥の違うものをまとめるのは偉く大変なことだったでしょう」
「いや、われらは派閥はちがっていても同じ鳥だ。環境派 我ら中間派閥、そして親人間派。」
「みなそれぞれ派閥は持ちながらもちょうどよい距離感で自分の思想をもち思いを寄せる。まあ誤差の範囲だ。」
「それに、私たちの考えの源流には長老の思いが反映されている。そして鳥の世界は狭い。なにかしらあるかもしれんが私たちはお互い助け合って生きていかなければならない。同じ鳥という点で同じだし、その点で私たちは協力できると思うのだ。」
「私たちの行く末はどうなるのでしょうか」
「わからない。」
「その時その時で判断していくしかないのだ。」
「そういう柔軟性も持ち合わせいなければならないということですね」
「まあそうだな。指針も大事だがそういったところも大切だ。まあ要するにバランスだな」
「さて、そろそろ仕事に移ろうかな」
「はい。」
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それから鳥の暦でみみずくらい経った時
「おじいちゃん!」
「ほほほ、なにかね」
「今日ね人とお話ししてきたよ。」
「ほう、それはよかったね」
「人間は言語の壁さえも超えてしまう。まるでおとぎ話じゃな。」
「そしたらね。もうこの星を出るって。」
「そうじゃの。聞いておるよ。お前はどうしたい?」
「僕、人と行きたい。」
「そうかそうか。」
「おじいちゃんも一緒に行こうよ。」
「わしはのこの星にのこるよ」
「おじいちゃんといっしょじゃなかったら僕やだよ!」
「ほほほ、お父さんとお母さんといってきなさい」
「ほんとにいかないの?」
「ああ、」
「あとアリくらい時間がたったら船が出る。それにのるといい。」
「おじいちゃん。」
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「ここはどこじゃ」
心地よい風が流れて、ただ満たされていて
「息子よ」
「と、父さんかの?」
「となりは」
「おまえの母さんだよ」
「あゝ、母さんかの。母さんかの。」
「長いことよく役目を果たしたわね。愛してるわ、私の可愛いあかちゃん。」
「ああ、ああ、会いたかった。母さん」
涙があふれる。
「とするとここは。。。。。」
「そうじゃ。生まれる前のそして消えた後のそして生きてる間もずっといた場所」
「そうか、すると僕は」
ーーーーーーーーーーーーーーーfin--------------------