声
書きました!宜しく御読み頂けましたら幸いです!
「ダイチ。ダイチ」 声が聴こえる。ひょう、という風の唸りの合間に紛れるようにして、小さく聴こえる。 声は掠れていて、普段から声帯を酷使しているのが窺われた。 何か、切羽詰まってしまった必死な呼び掛けのようにも聴こえた。 誰かが呼んでいる? 誰かが誰かを呼んでいるというの? もしかしてわたしの事では? でも、それは、わたしの名前ではない。 いや、確信などはないのだけれど。 言葉のいいまわしとすれば、どちらかと言えばこんな感じが相応しいのかもしれない。 ━━わたしの名前ではなかったような気がする。ただし、その確証らしきはない。 勿論、わたしの名前ではなかったとしても、わたしのことをそう呼びたいから勝手にそう名付けて、あくまでわたしの名前としてそう呼んでみた、という可能性はいつでも捨て切れはしない。 しかし、それにしても、名付けの親にでもなったつもりでいられるというのもなんだか癪に障るものだ。 だって、それはまったく聞き憶えもない声だったのだから。 ━━冗談はさておき━━。 そんな声も聞こえた(ような気がした)。 いや、わたしは冗談など言っては居ない。わたしは冗談など言ったつもりはないし、第一、今は誰ともお喋りしてなかったのだから。だとしたら、「ダイチ」とはわたしの事ではなさそう。いや、わかりはしないけれど。 枯声が言う。 ━━圭介さんのそういうところが好き。━━このお洋服で表に出るには、覚悟というものが必要なのよ。 呼んでいるのはきっとわたし自身の声。 そうでなかったら、わたしがその問い掛けに対して、御返事をしない理由がわからないから。
御読み頂きまして、誠に有難う御座いました!