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無防備都市  作者: 昼咲月見草
帰り着く場所

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祈りの魔力

 エドガーは広場で祈りを終えると、すぐさま聖女の間のある建物へと向かった。


 中庭を抜け、奥へ奥へと進んで、ようやくたどり着いた建物の玄関前には、懐かしい少女が待っていた。



「エドガー!」



 明るい声で彼の名を呼ぶのはセレフィアムだ。

 その隣にはウォーダンとソウルとトゥイン、そして魔女の娘がいる。


 しかし、1人だけ姿の見えない人物がいた。



「アナスタシア様はどうされたのですか?」



 セレフィアムの顔がくもる。

 魔女の娘が代わりに説明した。



「アナスタシアはね、もう少しかかるの。本人の希望でね、ちょっと調整の必要があって」


「調整とは? 彼女に何があったのですか?」


「う──ん、説明が難しいんだけど……」



 困ったようにソウルのほうを見るツェツェーリア。

 ソウルも眉根を寄せてエドガーを見る。



「どこかが悪いとかではないんです、ただ、アナスタシア様が言うには、今のままだと少し問題があるとかで……」


「なんなのですか、その問題というのは」


「だからね、それを治して……治して? から出てきたいんだって」


「答えになっていません。それはどのくらいかかるのですか」


「ええっと……、2ヶ月とか3ヶ月くらい?」



 首を傾げたツェツェーリアに、エドガーはさらに詰め寄った。



「安全なんでしょうか。彼女は無事なのですか? わたしにできることはないのですか?」


「え──っと、あるような、うん、あるある」


「何をすればいいんです!」


「魔力をね、全部はまずいから少し分けてくれれば……」


「魔力くらい、いくらでも持って行ってください」


「全部はいらないよ? 死んじゃうし、それにどうせ足りないから」



 その会話を黙って聞いていたセレフィアムも声を上げる。



「わたしの魔力も使える?」


「セレフィはダメだよ。ずっとあの機械の中で魔力吸われてたんだから。今、回復中でしょ?」


「そうだけど、でもお母さんが……」



 泣きそうなセレフィアムの肩をウォーダンが抱きしめる。



「俺が代わりになろう。アナスタシアには恩がある」


「将軍サマもダメだよ? 今、街に何かあったら将軍サマの魔力で全部どうにかしなきゃならないんだから」


「ダメか」


「ダメ。そんな事しなくても、時間はかかるけれどなんとかなるよ」


「そうか……。いや、待て。街の人々の祈りは確か魔力に変換できるんじゃなかったか?」


「できるけど」


「さっきの祈りはどうだ?」


「多分もう変換されてると思うよ。待って、確認する」



 ツェツェーリアはそういって眼前の何もない場所で指を動かした。

 すい、すい、と滑らせるようにしながら、その表情が驚きに満ちたものになる。



「すごい、いっぱい増えてるよ。ソーリャはもともと人の数も多いけど、魔力の多い人もいっぱいいるんだね」


「そうか……。それで、あとどのくらいで目覚めてきそうだ?」


「これなら、神官サマの魔力をもらえばあとちょっと……」



 言いながら、ツェツェーリアはちらりとソウルとトゥインへ視線をやった。


 それを受けて、トゥインが顔をしかめる。



「わかったよ、ここまで来たら魔力でもなんでも持ってけ。俺のは人より多いらしいからな。そのかわりこれからの神殿での生活はお願いしますよ、神官様」


「俺も、神殿とは無関係じゃないですし、ツェツェーリアの役に立つならいいですよ」


「ありがとう、2人とも! セレフィ、これでなんとかなるよ! 3日後くらいにはお母さんと会わせてあげられる!」


「ほんと!? ありがとうツェーラ!」



 セレフィアムはウォーダンに体を支えられながらツェツェーリアのそばまでやってきて、その体を抱きしめた。

 ツェツェーリアは嬉しそうに頬を赤くしながらその抱擁を受け入れる。

 親友の役に立てたという事が、彼女にはとても嬉しかったのだ。



「ありがとうございます、ツェツェーリア様。なんとお礼を言ったら良いか……」


「いいよいいよ、セレフィのためだし、そもそもはうちのお母さんとソーリャの聖女の約束だったし」



 大したことでもないように笑う魔女の娘に、エドガーは頭を下げた。

 彼女にとっては大したことがなくとも、それはまさに奇跡のような出来事だ。

 どれだけの長きに渡って、聖女と呼ばれた女性たちが犠牲になり、彼女たちを愛する者たちが悲しみの中で諦めるしかなかったか。

 エドガーも今日までその1人だったのだ。


 すぐにも会えると思っていた期待は裏切られたが、それでも彼女を万全の状態にするためなら、いくらでも待てる。

 また会えるのなら。

 

 知らず、肩に入っていた力を抜いて、エドガーは大きく息を吐き出した。









 収穫祭の最終日、エドガーは1人で地下へ降りるエレベーターに乗っていた。


 あれから何度か魔女の娘へ魔力を渡し、他の神官や魔力持ちの人物にも依頼を出して魔力を融通してもらったりしたが、その努力が実ったのか、先ほどツェツェーリアがエドガーを呼び出して言った。



「少し早いんだけど、アナスタシアがもうすぐ目覚めると思うの。セレフィを驚かせたいから、内緒で地下にこの荷物を持って行ってくれる?」


「これは?」


「新しい服。巫女服で外に出たらすぐにバレちゃうでしょ? 夜に広場で花火を見る約束してるから、そこまで行けるようにって」


「もう目覚めているのですか?」


「まだだけど、迎えに行くまでに着替えてもらってたほうが早く済むかなって。結構ギリギリになりそうだから」


「かまいませんが、あなたは行かないのですか?」


「あたしはこれからセレとお祭りの屋台を見に行くの。やっと動けるようになったから」


「なるほど。承りましょう。お祭りを楽しんできてください」



 エドガーは荷物を受け取ると魔女の娘とソウルを見送ったのだった。







 

 

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