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無防備都市  作者: 昼咲月見草
帰り着く場所

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82/89

起動

「アナスタシア!」



 エドガーは叫ぶと彼女の肉体が収められた容器へ駆け寄った。

 その透明な容器に触れ、彼女の肉体がまだ無事である事を確認して安堵の息を吐く。



「ああ……無事で、無事で良かった……」



 セレフィアムがそのそばに慰めるように寄り添う。

 エドガーはそれに無理に笑顔を作って見せた。



「ここは一体。都市のシステムは全て把握していると思っていたが、このような場所があるとは知らなかった」



 周囲で点滅する機械を見回しながら、ウォーダンが呟く。

 それをツェツェーリアがいたずらっぽく見上げながら説明した。



「ここは都市の全部のシステムが集約している場所で、人工知能の操作を直接するのはここでしかできないんだって。だから、お母さんと最初の聖女はここに関する事は、記憶も記録も完全に消して、誰にも知られないようにしたみたい」


「直接操作できるのか……。確かにそれは誰にも知らせられんな」


「でしょでしょ?  誰にも秘密の部屋だったんだよ! 多分セレフィアムのお母さんの体もここにあると思ったんだ」



 言いながら、ツェツェーリアは壁の装置へ近づいて行く。

 

 すると機械的な女性の声がした。

 同時に、壁の機械の一部が動いて、隠されていたキーボードが出てくる。



「パスワード・ヲ・入力・シテクダサイ」


「りょーかーい」



 楽しげに魔女の娘は認証コードを打ち込み、そして最後の確定ボタンを「えいっ!」と押した。


 機械の点滅が激しくなり、動作音が大きくなる。

 


「なんだ?」



 辺りを警戒するトゥインに、ツェツェーリアは心配ない事を伝えた。



「大丈夫だよ。今までは人工知能は待機状態だったの。その電源を入れただけ」



 真っ黒だった壁のモニターに映像が映し出される。

 それは優しげな女性の顔だった。



「こんにちは、魔女様。ご機嫌はいかがですか」


「いいよ。でもわたしはあなたの知ってる魔女じゃないの。ツェーラって呼んで」


「はい、ツェーラ」


「早速だけど、街の状況は把握してる?」


「はい。6903年前の世界的な災害で、わたしはエネルギー源を含む機能のほとんどを失いました。今ではもう自立した都市の管理は不可能です。それを補うため、ターニャ・ソーリャが都市のシステムと同化し、魔力をエネルギー源として動かすようになりました。魔女様は……」


「ああ、いいのいいの、ごめんね。とりあえず今現在の状況は理解できてる?」


「はい。ソーリャのシステムの権限は、この部屋を除いて全て、ウォーダン・エヴァンズ・グリュプス様に移行しました。アナスタシア・ターニャ・ソーリャは、自分が死んでシステムの一部となるまで、セレフィアム・ターニャ・ソーリャが聖女システムの干渉を受けないよう、この部屋へ肉体を移動しました。アナスタシアからセレフィアムへの聖女システムの移譲を完全なものにしますか?」


「それは必要ないの。聖女システムは今日で終了するから。ところでアナスタシアの肉体はまだ持つ?」


「現状なら半年ほど」


「うん、良かった。良かったね、セレフィ、お母さん起こせそうだよ!」


《うん、うん》



 涙ぐむセレフィアムを、エドガーが優しく見つめる。

 そしてこの中で1人だけ彼女の姿が見えないウォーダンに謝罪した。



「申し訳ありません、まだ会わせてあげられなくて」


「いや、もうここまできたらすぐだろう」


「ええ、あと少しです」


「まだ時間がかかるなら、なんとかして姿だけでも、と思わないでもないがな」



 その言葉に軽く声をたてて笑い、エドガーはソウルへ視線をやった。



「しかし、なぜ君はセレフィアム様が見えているのだろうね?」


 

 急に話を振られて、ソウルは驚きつつも考える。



「どうしてなんでしょう。多分、ツェーラの関係だとは思うんですが」



 自信なげに答えたソウルに代わり、ツェツェーリアがエドガーに答えた。



「守護騎士の契約をしてるからだよ。だから、将軍サマにはもうちょっと待ってもらわなきゃいけないけど」


「構わない。これまで、手立てがないと諦めかけていたんだ。また会えるのなら、いくらでも待てる。ありがたいぐらいだ」


「良かった」



 ツェツェーリアはモニターに映る人工知能に向き直る。



「貯蓄されてる魔力の量を確認して。それを使い切っていいから、まずあなたの機能を修復して、そして聖女の意識を安全に解放できるよう分離して」


「わかりました。災害前の完全な自立思考を得るのは難しいと考えられますが、よろしいですか?」


「いいよ。あなたも、聖女も、将軍サマも、もう誰もこの都市(まち)の事に1人で責任なんて持たなくていい。みんなでそれぞれ、考えあって話し合って守っていけばいいんだよ。誰かが犠牲になるなんて馬鹿げてる」


「了解しました。修復を行います。続いて、聖女の意識を保護、分離します。……終了まで24時間かかります」


「終わったら教えてくれる?」


「はい、魔女ツェーラ様」



 人工知能の答えに満足したツェツェーリアは、背後で待つ仲間たちを振り返った。



「1日くらいかかるって! 外でお店見て回ろう?」










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