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無防備都市  作者: 昼咲月見草
帰り着く場所

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顔合わせ

 ソウルは目の前の帝国の将軍を興味深く見ていた。


 もうずっと、怒りの矛先にしていた、それが正しいのかどうかなど考えようともせず、ただ帝国がやってきた事で父が死んだと、そう思考を停止して憎み続けていた相手。


 背の高い、隙のない所作の彼は、威圧的なところなどないが、勝とうと思って勝てる相手ではない。

 魔女の夫に鍛えられ、魔女の娘の守護騎士となって様々な力を得たソウルにはそれが分かった。


 

 セレフィアムが将軍の隣に並ぶと、繊細で品の良い彼女の美しさが、彼の落ち着いたたくましさや誠実な様子を引き立て、似合いの一対なのだと、そう実感させる。


 大人と子どもという年の差がある見た目の2人だが、なぜか並んでよく似合っていた。


 それはひょっとしたら、セレフィアムが将軍を心から信頼し、頼りにしているからなのだろう。

 彼女の将軍を見上げる表情が輝いて、その事を強く物語っていた。



「セレの、親友?」



 不思議そうに呟いたウォーダンに、ツェツェーリアはにこにこと答える。



「うん、そう。だからあなたの事も知ってる。セレフィがよく話してたから」


「そう、か」



 戸惑うウォーダンに構わず、ツェツェーリアは機嫌良く話し始めた。



「森にいる生き物の事とか、鳥の雛の事とか、あと川には魚がいて、海っていうものの事も教えてくれたの」


「そ、そうか」


「ツェーラ、それより結界の話をしないと」


「あ、そっか」



 ソウルが彼女のほうを見て話しかけると、ツェツェーリアはおしゃべりをやめる。

 彼女が本当は赤ん坊と変わりないのだと知っているソウルからすれば、彼女の言動は何もおかしなものではない。

 しかし周囲には奇異なものに映るだろう。

 この年齢にしてはあまりに子どもじみている。


 どうしたものかと考えた次の瞬間、トゥインがウォーダンに頭を下げた。



「申し訳ありません、将軍。彼女は聖女様に合わせて体だけ大きくなりましたが、赤ん坊の頃からずっと眠ったままだったため、人と関わった経験がないのです」


「赤ん坊の頃から?」



 ウォーダンには、眠り続けるというと、聖女の冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の事が頭にある。

 そのため、赤ん坊の頃からと聞いてわずかに怒りをにじませ、顔をしかめた。


 ソウルとトゥインはその怒りに一瞬体を固くしたが、エドガーが苦笑して説明する。



「眠るといっても、ソーリャのものとは違います。肉体を癒すためには必要な事だったようです」


「ああ、そうだ。そうだったな。すまない、昨夜説明はされていたのだが」



 謝罪の言葉を口にしたウォーダンに、ソウルとトゥインは口元を引き攣らせながらそれを受け入れた。



「そうか……。魔女狩りについては、当時のソーリャの議会が関わっていたかどうかは分かっていない。だが、今後はそういった事が起きないよう必ず手配する。本当に申し訳なかった」



 頭を下げたウォーダンに、ツェツェーリアは立ったまま小首を傾げて笑う。



「ううん、いいよ。痛かったし怖かったけど、別に将軍サマのせいじゃないし、それに今はソウルがいるから」



 邪気のない笑顔でそう言う魔女の娘に、見た目にそぐわないほどの素直さと幼さを感じ、ウォーダンはもう一度無言で頭を下げたのだった。










 聖女たちを解放するには、膨大な魔力が必要である。

 魔女はソーリャを離れる前に、そのための魔力を溜めておく装置を準備していた。


 長い年月の間に、何度か必要に迫られて都市のために使われた事はあったが、今その装置にはかつてないほどの魔力が溜められている。

 言うまでもなく、元議員たちとその関係者から容赦なく搾り取られたものであった。



「万が一足りなかったとしても、魔女と神殿の人間の魔力でどうにかする予定だったようですが、今はここにいるだけでも魔力持ちが5人います。他の者の協力も得られる事を考えれば、足りないということはないでしょう」


「そうだな。すると後はアナスタシアの体か……」


「ええ。あれからどうでしたでしょうか。やはり……」



 ウォーダンは首を振った。



「探してみたが、どこにも見つからない。理由は分からないが、通常の都市管理とも違う場所にあるようだ」


「一体どこに……」



 エドガーが悲痛な面持ちで額を押さえる。

 そしてその隣では。



「これ美味しいね、これも!」


「ほら、お菓子は逃げないからゆっくり食べな」


「うん! あ、これ知ってる! セレフィの好きなお茶だ! リンゴの香りがするんだよ、一緒に何度も飲んだの!」


《いいなあ、わたしも飲みたい》


「すぐ飲めるよ! そしたら一緒に本物のケーキも食べようね!」


《うん! あ、エドガーにケーキとタルト、作ってもらうようにお願いしてもらわなきゃ!》


「そうだね、待たされちゃ困っちゃうもんね」



 真っ青な顔になってこの世の終わりについてでも聞いたような顔をするツェツェーリア。

 それにセレフィアムは真剣な顔で相槌を打った。



《そうそう、そうだよ。あああどうしよう、マフィンとマカロンとババロアとミルクレープとマドレーヌとパフェと、それからそれから、そう、ポルボロン! メリダの作ったポルボロンが食べたい!》



 きゃあきゃあうるさい少女たちに、トゥインがひと言、ぼそりと告げる。



「太るぞ」


《なんてこと言うの!》


「そうよ!」



 反射的に返して、ツェツェーリアはソウルを見た。



「太るって何?」



 これにソウルが苦笑して説明してやる。


 ひとつの部屋の中に、大人組と少年少女組とで温度差がありつつ、ひとまず顔合わせはなんとか済んだのだった。



 








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