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無防備都市  作者: 昼咲月見草
アリョーシア村

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水晶の伝言

 ホレイショは穏やかな笑みを浮かべながら歩いてくる。

 それを村長はにこにこと迎えた。



「ホレイショ様とは関係のない事でございますよ。それとも、ホレイショ様の家族となる事を拒んだこの者の不始末を、ホレイショ様が片付けなさるのでしょうかな?」



 ははは、と声を上げて笑うとホレイショは、ソウルのそばまで行って庇うようにその前に立った。



「不始末、ですか。なるほど、家族ならば身内の不始末を片付けるのは当然の事ですね。それにソウルは、確かにわたしの姓を名乗るよりも父親の姓を残したいとフーセのままですが、それは別にわたしを拒んだからではありませんよ?」



 それは嘘だ。

 言っている当人だけでなく村の誰もが、ソウルが母親の再婚を歓迎していない事を知っている。

 それはフーセ姓を名乗るだけでなく、これまでのあまり家族と過ごそうとしない、義父であるホレイショと会話を拒むような態度をする事からも明らかだった。


 だがホレイショはそれを笑顔で一蹴する。


 ソウルが家族でないと誰がそんな事を? 

 とばかりに。


 ソウルは恥ずかしさと申し訳なさで思わず下を向いた。



「そうですか。それは申し訳ない事を言いました。何か誤解があったようですな」


「いえいえ、家族の事などはたから見ただけでは分からない事も多いものですから」


「そのようですな。しかし、となれば、ホレイショ様にはソウルのしでかした事に責任を持つ覚悟がおあり、ということでしょうな?」


「もちろんです」



 村長の言葉ににっこりと返したホレイショに、ソウルは顔色を変えてそうではないと言いかけたが、それをトゥインが止める。


 ソウルがトゥインを見やると、彼は楽しげに首を振った。


 どういう事だろう、とソウルが問いただそうとしたとき。



「ですがそれは、誰であっても同じ事。責任ある立場の者であれば、下の者は当然、家族の事に責任を持つのは当たり前の事です。そうではありませんか? 村長」


「ええ、そうですな」



 ホレイショが集まっている人々を見回しながらそんな事を言い、村長は疑問に感じながらもうなずいた。

 村長から同意の言葉を引き出したホレイショは、満足そうに集団から少し離れた場所にいた部下に声をかける。



「だ、そうです。ハリュウ、ここへ」



 神殿に勤めている兵士や神官見習いに連れられて、青い顔で大勢の前に引き出され、ハリュウは俯いて震えている。

 自分がこれから話さなければならない事、その内容、そしてその結果起きるだろう事。

 それらが彼の上にのしかかっていた。



「さあハリュウ。神殿で話した事をもう一度、ここで話していただけますか?」


「あ、俺、あの……」



 ハリュウは真っ青になってちらちらと家族や村長へ何度も視線をやる。


 その様子に、村長は嫌なものを感じた。


 あれは確か、ウェザとよく一緒にいるヴィエニャのところの子どもだ。

 それはなぜ今、ここで神殿の人間と一緒にやってきたのか。



 そもそも村長は、神殿が村にできた事をあまり良く思っていない。

 確かにソーリャには災害とその後の避難で助けられた。

 だがそれで、村人がソーリャと自分たちの生活の違いに気づき、もっと良い暮らしを、と不満を持つようになったのだ。

 

 そして知識と力を持つ神殿を村に招いた。


 それだけでも腹に据えかねるというのに、神殿は村長がいらないと言った神官たちまで送り込んできたのだ。


 村長が許せるのは、建物を建てることと、優秀な治癒者が村に来ることまでだった。

 だが神殿はそれを無視して、神殿を建てるなら神官がいなければならないと、兵士や見習い、職員までも押しかけてきて、あれこれと村の運営にまで口を出すようになってきた。


 不愉快だった。


 今回の騒ぎで、その神殿を牽制できるなら、そしてあわよくば自分の権力の下に置くことができれば、と考えていたのだ。


 貴族から軍馬を与えられたことで調子に乗り、村の子どもたちを危険にさらしたとなれば、保護者としての監督責任を追求できる。

 自分の家族ではないと言えば、神官などその程度だと村人に認識を植え付けられるし、家族だとかばえば責任を取ってもらい、上手くやればソウルを連れてソーリャへと家族ごと追い出せるかもしれない。


 軍馬は農耕馬の代わりにはならないが、それでも貴族から下賜された立派な馬を持っている村人がいるというのは、あまり気分のいいものでない。

 馬は財産だ。

 狩の役にも立てば、近隣の町や村への移動にも便利で、オスともなれば繁殖にと向こうから頭を下げてやってくる。


 そうやって頭を下げられる人間は、この村には自分たちだけでいい。


 頭というのは、下げるよりも下げられるほうが絶対にいいのだ。



 ハリュウが震えながら人々の前に立たされた。

 さあ、と神官がハリュウを促す。

 彼が口を開こうとしたのを、村長は止めた。



「神官様、まあお待ちください。ひとまず場所を変えましょう。ハリュウも怯えてしまっているようですしな」



 何かまずい事になっても、ひと目さえなければごまかす方法だってあるかもしれない。

 村長はそう思ったが、ホレイショはそれを笑顔で跳ね除ける。



「でもわたしの息子とトゥインのことは大勢で囲んで、この場で話をしようとしていたようですが?」


「そのような意図はありませんでしたが、なにぶんにも魔女を起こしたという重大な事件だったものですから」


「ああ、そういえばその魔女ですが、本人から伝言が届いています」


「は?」



 ハリュウの隣にいた神官見習いが、ホレイショに水晶を手渡す。



「これは先ほど、森の魔女から届いたものです」



 ホレイショが片手に持ってくるりと回すと、水晶から光が溢れた。

 そして水晶の上に美しい女の姿が浮かぶ。



『わたしはアーフマンの森の魔女です。悪意ある者の仕業により長く森で眠りについていましたが、ソウル・フーセなる少年の手で目覚めることができました。アリョーシア村とは以前親しくしておりましたが、また昔のように付き合えればと考えています。森と、そこまでの道には強力な魔獣や魔物が出る事はありません。全ての危険が取り除かれたわけではありませんが、互いに良き隣人でありたいと願っています。危険を冒しわたしを起こしてくれたソウルに感謝を。魔女の力を必要とすることがあれば、今後は神殿を通してください』



 水晶の光が消え、魔女の姿も消えた。

 あっけに取られる村人を、ホレイショが満面の笑みで見回す。



「もう一度、流しましょうか?」











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