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無防備都市  作者: 昼咲月見草
アリョーシア村

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脅し

 トゥインは広場へ行くと、ウェザの子分を探し始めた。


 1人1人、目につく相手に話しかけて回る。

 そうして子分の1人、ハリュウが南の畑へ行くのを見たと聞いて、礼を言うと小走りに畑へと向かった。


 畑の端で座り込んでいたハリュウを見つけると、トゥインは陽気に声をかけた。



「よう、ハリュウ。1人でどうしたんだ?」



 ハリュウは飛び上がらんばかりに驚いて振り向く。

 その目が後ろめたさにきょろきょろと動くのを見て、ソウルは顔をしかめた。



「お前……」



 我知らず低い声で問いただそうとして、それをトゥインが止める。



「まあ待て」



 にっこり笑ったトゥインに、ソウルは湧いてきた怒りが落ち着いた。



「なあ、ハリュウ。お前、こんなところで1人で何してるんだ? いつもウェザとか他の奴らと一緒にいるだろう」


「ちょっと先にこっちに来ただけだよ。みんなすぐ後から来る。そしたら一緒に南の果樹林に行くんだ」


「へえ。じゃあそれまで一緒にいてやるよ」


「いいよ、構わないでくれ。俺ももう果樹林に行くから」


「待たなくていいのか?」


「どうだっていいだろ。じゃあな!」



 走り出そうとしたハリュウに、トゥインが声をかける。



「ウェザはこっちには来ないぞ」


「な、何を……」


「こっちとは違うほうへ行くのを見たって奴がいる。だからこっちには来ない」


「そんなはずない! す、すぐに来るんだ!」


「いいや来ないね。ちなみにソウルの馬を連れてたって話だ。あの馬は遠目にも目立つからな」



 トゥインの言葉に、ハリュウはごくりと唾を飲み込んだ。



「このまま馬が戻らなかったらどうなるだろうな。正直に話したほうがいいぞ。褒美の軍馬を盗んだり傷つけたりしたら、関係者は全員死刑だ」


「し、死刑なんてそんな!」


「ならないって思うのか? 貴族、それもただの貴族じゃないぞ。ミッドガルシャ帝国の公爵様だ。軍馬なんて普通に考えて一生かかっても手に入らない。その軍馬を公爵様が褒美として下さったんだ。お前も、お前の家族もみんな死刑だな。村ごと潰されてもおかしくない」



 トゥインは楽しげに話す。

 ハリュウはそれを聞きながら真っ青になっていった。



「う、嘘だ……。それに、村ごと潰されるならお前だって……」


「ああ俺は大丈夫だ。神殿との関係は良好だし、ソウルの家とも仲がいい。でもお前はどうだろうな? 村の連中はほとんどダメだろう」



 くっくっく、と笑うトゥインに、ソウルは少しだけ距離を取る。

 こいつ、こんなヤツだったのか?



「なあ、どんな死に方がいい? はりつけに、串刺しに、燃やされるのもあるぞ。知ってるか? 俺たちが生まれる前、ソーリャで行われた死刑は拷問のあとそりゃひどい殺され方をしたらしい」



 ガタガタと震えるハリュウに、トゥインは顔を寄せて笑顔のままにらみつける。



「今ならまだ間に合うぞ。話せ」



 そのドスのきいた低い声に、ハリュウは何度も何度もうなずいたのだった。









 ソウルはトゥインと並んで北へと走っている。

 ハリュウから、ウェザが他の仲間たちと一緒に魔女の棲む森へと向かったと聞いたからだ。


 魔女と、それを守る化物がいる洞窟へと馬を放り込み、自分たちは果樹林へ行っていたと口裏を合わせるつもりだったらしい。


 それを聞いたトゥインは、苦々しく吐き捨てた。



「バカなのか? お前ら。そんな事して、バレないはずがないだろう。もうちょっと頭を使え」


「だ、だって、ウェザが絶対バレないって、バレても村長がなんとかしてくれるって」


「できるわけないだろう。相手は貴族だぞ。村の人間全員拷問にかけて聞き出すとか言い出したらどうするんだ」


「そんな、だって拷問なんて、そんな事するはずない」



 震えるハリュウに、トゥインはちっ、と舌打ちをした。



「お前ら、ソーリャにいたとき何を勉強してたんだ。あそこにはよそから貴族だって来るし議会や大店のお偉いさんだっている。怒らせるなって散々言われただろう!」


「お、覚えてねえよ……」



 トゥインは大きくため息をつくと、ハリュウに神殿へ行って全部話して来い、と命じた。



「でねえと俺がある事ない事でっち上げてでも、お前ら全員牢にぶち込んでやるからな」



 こくこくとうなずいて走り出したハリュウをよそに、トゥインは自分に強化魔法をかけ、ソウルにも自身にかけさせると魔女の森へと走り出したのだ。



「いいのか、あんな脅すようなこと言って」


「いいさ、あいつらちょっと調子に乗りすぎだしな。人の馬を盗むとか普通に犯罪だろう。しかも軍馬だぞ、あいつら全員で何回人生繰り返しても賠償できない。村ごと潰されるとかはなくても、村長とあいつらとその家族全員は間違いなく死刑だ。手遅れにならないうちに早いとこ見つけないとな」


「死刑に、なるのか」



 驚いたように訊いてくる年下の友人に、トゥインは少しだけ苦笑して見せる。



「まあ間違いなく、な。公爵様がどんなお方だかは知らないが、周りは黙っちゃいないだろうし、大体ソーリャでも昔は議会の人間に逆らったらヤバかったらしいぞ」


「ヤバいって?」


「仕事はなくなる、冤罪はかけられる、社会的に人生が終わる、財産全部失って借金まみれになる、一番マシなのが死体になって草原で見つかる、だったって話だ」


「一番マシで死んでるよな!?」


「それだけ議会はヤバかったってことだよ。でもどこの国でも貴族関係は大体そうらしいからな。お前もこの村を出たら気をつけろよ」


「う、うん……」



 まさかしばらく前まで、そのソーリャの都市王を殺そうと考えていたなど口が裂けても言えない。


 その後は無言で走り続けるうちに、魔女の森の入り口が見えてきた。








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