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無防備都市  作者: 昼咲月見草
アリョーシア村

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53/89

魔女の眠り

 男は人だった頃に魔女と出会い、その夫となった。


 まだ、旧文明が滅びを迎えるずっと前、旧文明でも魔法の力が濃かった時代のことだ。


 当時、世界の一部では魔女狩りが行われていて、たまたま2人が暮らしていた国でもそれが始まった。

 魔女を助けるため、男は命を失い、人ではないものとなった。


 2人はそれからずっと世界の狭間で隠れるようにしていたが、ある日、世界は大災害によって変わってしまう。


 魔法の力を持つ生き物でも生きやすい世界に変わった大地を見て回る中で、2人はターニャ・ソーリャという娘が率いる集団と出会った。



 ターニャ・ソーリャは、壊れた街あとで、どうにかして機械を甦らせることはできないかと、仲間たちと試行錯誤していた。



 そこへ力を貸したのが魔女だ。


 壊れて動かなくなった機械を魔力で動くよう修復し、ターニャ・ソーリャの仲間たちの持つ科学の知識も併せて、生きるために役にたつ、住み良い街を作り上げた。


 だが、それでもどうにもならない事は多い。


 何十年かたった頃、再度街を訪ねた魔女にターニャ・ソーリャは相談した。


 街を守る強固な結界を作りたいと。


 そのためにどうしたらいいか、散々話し合った結果、魔女はひとつの提案をした。

 今は動かない人工知能の代わりを人が行い、街の全てを掌握して、住む者全ての魔力を使って街を守ればいい。


 基本となるのは人工知能の役目を果たす人間の魔力。


 そしてそれでも足りない分を、街に住む全ての人間から少しずつ分けてもらう。

 そのため、住民登録に契約を盛り込むのだ。


 ターニャ・ソーリャはこれを己ひとりの判断で決定した。

 全ての事実を知るのは自分の跡を継ぐ人間だけ。



 しかし、全く問題がなかったわけではない。

 一度人工知能の代わりをした人間は、冷凍睡眠装置から出ても再び目を覚ます事はなかった。

 装置の中に肉体を収めたままでいれば、いずれ全ての魔力と生命力を使い果たして、肉体は分解される。


 ターニャ・ソーリャはそれを承知した上で魔女に頼み込んだ。


 いつか、この装置が必要のない世界になったとき、中にいる者たちを解放してほしい。


 魔女はそれを了承した。

 いつか必ず、中で眠る者たちを助けてみせる。

 そのためには莫大な量の魔力が必要で、ターニャ・ソーリャは魔力を貯蔵する装置を作った。

 いつか魔女がやってくるその日まで、魔力を貯め続けておけるよう。




 



 ソウルは男からその話を聞いて驚きを隠せない。


 そんな話は、ソーリャにいた頃、誰も話していなかったからだ。



「そんな、じゃあ、結界のために今も聖女たちの魂は街に囚われているのか?」


「そうだろうな。あれからあの街へ行ったことはないが、人工知能代わりをしている誰かか、もしくは他の魔女が何か手を加えていない限り変わってはいないだろう」



 ソウルは身を震わせた。

 いつも守ってくれていたソーリャの結界が、おぞましいものに思えて仕方がない。



「今は……ソーリャは帝国の将軍が管理してる。都市王って呼ばれて……でも、普通に生きて生活してる……と思う」


「何か変更があったのかもしれんな。魔女は眠りから醒めてはいないが、そういえばしばらく前に魔女に会いに来た娘がいたな」


「魔女に?」


「ああ。まだ子どもと言っていいくらいで、今のお前よりもまだ年は下だった。そうだ、確か魔女に助けて欲しいと言っていたな」


「その子はどうしたんだ?」


「洞窟の中に入って行って出てこなかった。魔女の眠りに囚われたんだろう。誰も魔女を目覚めさせられないと言ったんだがな……」



 男のその言葉に、しばらく考え込んだソウルは思い切って訊いてみた。



「魔女は、なぜ眠っているんだ?」



 男はしばらく答えなかった。

 そしてその重い口を開く。

 そこには怒りも悲しみも何もなかった。



「魔女狩りがあった。死んだ魔女はその肉体の全てが使い物になる。そして生きている魔女は、生きている間は洗脳して使い、死ねばその全てが使い回せる。魔女とはその存在が宝のようなものだ」



 静かな、静かな言葉にソウルは衝撃を受けた。

 今日初めて聞く魔女狩りという言葉に、とてつもない怒りが湧く。

 なのに、魔女の夫だという男がそれを淡々と語ることが信じられなかった。



「魔女は……妻は子どもを産んだばかりで、乳飲子を抱えて存分に戦えなかった。わしはちょうど、未熟児で生まれた赤ん坊のために狭間へ出かけていた。その隙を狙われて、どうやら赤ん坊は一度死んだらしい。子どもを死なせないために妻は敵を退けたあと眠りについた。わしは全てが手遅れになってから戻り、こうして妻と子の眠りを守っていると、そういうわけだ」


「相手は……その敵はどうなったんだ?」


「今も妻が目覚めるのを待っているだろうよ。魔女の赤ん坊は使い勝手がいいからな」


「そんな!」



 感情のままに言葉を荒げて、ソウルは視界が怒りでチカチカと明滅するのを呼吸を整えて抑え、声量を小さくした。



「……そんな事って、そんな言い方ってないよ……」


「だが現実だからな。わしがいる間は近づけんが、どちらにしても魔女は眠りから醒めん。あの娘との約束も果たせぬまま、時間だけが過ぎたわけだ」


「どうやったら、目覚めるのかは……」


「一度死んだ者をこの世に繋ぎ止めているのだ。命を完全に引き戻し、回復し終えれば目が覚める」



 それを、男は待っているのだとソウルは理解した。

 敵を殺すことでもなく、復讐に時間を使うのでもなく、彼は必要なことをしてただ待っている。

 愛する者が目覚めるその日を。


 ソウルはどういうわけか、己をひどく小さく、恥ずかしく感じたのだった。











今日、石川県で地震がありました。

なんの役にも立たないかもしれませんが、皆様の安全を、ご無事をお祈りしております。



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