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無防備都市  作者: 昼咲月見草
侵略

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40/89

命令違反

「ミッドガルシャから次の補給の船が着いたら、貴族たちの部隊をアスガレイド奪還のため進軍させろ。秋になる前に奪還できなければ責任を追及する。また途中の町や村全て、指示があるまで皇帝陛下の所有となると再度伝えて徹底させろ。この間の港のように暴れるバカは地下牢に閉じ込めて戦には出すな。それから……」



 ウォーダンは机の上の資料を見ながら、部下に必要な指示を出していく。


 皇帝は、面倒だ、勝敗もどうでもいいと言いながら律儀に補給のための船を手配すると約束した。

 その第一陣がつい昨日、港についたのだ。3隻ほど少し遅れているが、今日にも到着する予定だという。


 その船が着き次第、祖国奪還を声高に叫ぶ貴族どもをアスガレイドへ向けて進軍させる。


 まだ春も浅いうちにソーリャを手にできたのだから、年内にも戦は終わらせたい。

 ましてや貴族たちはアスガレイド何するものぞと常から自信満々で、帝国内で開戦のために根回しをし続けていたのだから、勝って当然、素早い完全勝利を期待されても当然なのだ。


 

 祖先たちが王国の追及から逃れて大陸へやってきたとき、そこはまだ広大な土地に小さな部族が点々とあるだけで、野生の獣や魔物、魔獣が我が物顔に闊歩する状況だった。


 森を切り拓き、周辺の部族を保護下に置く名目で土地と民を手に入れ、祖国ではあり得ないほどたやすく国を興した彼らは、貪欲に戦闘を繰り返し、大陸を戦乱の世へと変えた。


 しかし、大陸が統一された近年では新しく領地を手にするのは難しい。

 戦で名を上げるのもそうだ。


 そこで貴族たちが考えたのが、祖国の奪還である。


 いずれは祖国アスガレイドを僭王の子孫から取り戻すという悲願が彼らの中にはある。

 それが貴族たちの現在の利害と一致し、ゴール大陸への派兵へとつながった。



 ソーリャを橋頭堡とする、という考えは貴族たちに歓迎された。



 世界に冠たる無防備都市ソーリャ。

 それを手にする事ができれば最善だが、しかしそれは絶対に不可能である。

 

 皇帝が養子にその任を与え、『必ず落とせ、落とせぬなら死ね、もしも落とせたならソーリャをやる』と皆の前でウォーダンに伝えたとき、貴族たちは笑顔でこれを受け入れた。


 邪魔な男がこれで死んでくれると考えたからだ。


 だがあいにくウォーダンは死ななかったし、皇帝もこうなる事が分かっていて彼に貴族たちの前で命じている。


 いわば出来レースだ。


 それを知らなかった貴族たちは、ウォーダンの死を港町で待っているつもりで出遅れたことに気づいた。

 荒れて港で騒ぎを起こした若い貴族とその取り巻きがいたが、こうなると予想していたウォーダンと部下たちは背後の待機軍にも目を光らせていたため、大事にはならなかった。


 実にバカらしい話だが、実際にこういうバカな真似をする愚か者がいるのだからしょうがない。


 彼ら若い貴族は、有能な者を幼い頃から下につけられて、その才能を使う事で己を偉大な人物だと勘違いしている。

 しかも、親の権力でほとんど全てのことが自由になるのだから、周囲も彼らを重要な人物として扱う。

 結果出来上がるのは、自制の効かない頭でっかちのバカの集まり、というわけだ。



 もちろん中には厳しく教育され、あるいは元々の知力の高さで、上に立つ者に相応しい実力を備える者もいる。

 だがこのゴール大陸へ送られてくる貴族にはそういった人物はいなかった。


 いるのは死刑執行がわりに皇帝が選び抜いた貴族とその関係者。


 実力のある貴族たちがやってくるのは、実際にアスガレイド王国を手に入れてからだ。


 そんな無茶苦茶な編成の軍を押し付けられたウォーダンだが、彼の頭の中にはソーリャの都市機能に関する多くの秘密が、アナスタシアによって10年前に押し込まれている。


 ほとんど無理やりだったがなんとか理解ができたウォーダンは、ソーリャにさえ入れば……ソーリャの市民の抵抗さえなければどうにかできると考えていた。



「将軍、港町付近に待機させていた軍なのですが」


「どうした」



 言いにくそうに部下が一瞬言い淀む。

 ウォーダンは嫌な予感がした。

 


「ソーリャを占拠したとの報せを受けた途端、待機命令を無視して動き出そうとしている貴族家があるようです」



 ウォーダンは瞑目した。


 まさかやるまい、いくらなんでもまさかやるまいと思っていた事を、本当にやったバカがいる。

 全くもって理解し難い。



「貴族家のみ、だな? 俺の部下じゃないな?」


「はい」


「名前は」


「イーディオ伯爵家、ロイマン子爵家、カルディナ子爵家の3家です」



 渡された資料を見、その3つがいずれも次男を軍とともに送り出している事、その次男がトップについている事を確認すると、ウォーダンは再度命じた。



「放っておけ。一緒にオリバーとラウルスの部隊に後を追わせろ。2人には進軍の準備は怠るなと言え。ここまでやってきたらそのままアスガレイドへ向かわせる」



 オリバーとラウルスはウォーダンの部下で率いる兵はそれぞれ1万。対する貴族家はそれぞれイーディオが5千、ロイマンが3千、カルディナが2千である。

 何かあっても対処できるだろう。


 そしてもしもこのソーリャに牙を剥いたら。


 そのときは皇帝の顔も立つ形でまず3つ、約束の首を国へ送ることができるというものだ。













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