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無防備都市  作者: 昼咲月見草
侵略

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32/89

愚かな者たち

『お帰りなさい、ウォーダン。ソーリャはあなたを都市王として受け入れます。善き政を敷いてください。あなたに祝福を。ソーリャの全てのシステムは、これよりあなたの指揮下となります』



「なんだこれは! どうなっている!」


「誰かこの狂った放送を止めろ!」



 議員たちは誰彼かまわず捕まえては怒鳴り散らしている。

 誰でもいい、というよりは誰を怒鳴ればいいか分からないからだろう。


 1人の議員が、近くにいた都市兵の持つ電子銃を取り上げた。



「貸せ! わたしがあんなもの壊してやる!」


「いけません、閣下! お返しください、あれは都市の機械です、壊してはなりません!」


「黙れ! 壊れた機械など必要ない!」



 そう言って銃で無人機に狙いをつけた途端、その無人機が素早く動いて議員に近づき電線を飛ばす。

 その電線から電流が議員へと流れた。



「ぅぎゃあああああああっ!」



 無人機は議員が悲鳴をあげて倒れると、取り落とした電子銃をすかさず回収する。

 その無人機を、やはり別の兵士から取り上げた警棒で叩き落とそうとした議員は、違う無人機によって内蔵された銃で撃たれて息絶えた。



『抵抗ハシナイデクダサイ。魔力ノアル方ハデキルダケ殺サナイヨウ指示サレテイマス。魔力ノナイ方ハソノ指示ノ対象デハアリマセン』



 魔力のある者は生かしておく。

 魔力のない者は殺す。


 電子音で告げられた、自分たちが日頃から判断の基準としているひとつの方法に。議員たちは戦慄した。


 彼らの中には魔力のある者が少ない。


 魔力があれば神殿の仕事など他の仕事に回される事になるからだ。


 魔力があるという事は一般的にはエリートであるという事だが、彼らの一族にとっては、権力とは絡みづらい他の仕事を与えられかねない面倒な事でもあった。


 そして今それが、自分たちが生きていられるかどうかを左右している。


 声を上げて騒いでいた議員たちは静かになった。

 今はこの屈辱を呑み込み、次の反撃の機会を待つべきだと、そう冷静に判断して。








 

 ソーリャ議会の議長であるアラゴン・リードは、すでに脱出の準備を終えていた。


 都市王などというバカバカしい、子どもの戯言のような代物のお告げが神殿から出たとき、彼はこのままでは危険だと判断したのだ。


 都市王に選ばれる人物が誰かは分からない。


 だがそれが誰であれ、ソーリャに迫りつつある帝国軍と戦う旗頭とされるのは間違いなかった。


 アラゴンは己が都市王となる可能性よりも、帝国軍と戦う事を避けた。

 他国の情報は彼も当然集めている。

 そしてその中には、帝国皇帝の養子となった常勝不敗の将軍のものある。


 人間のものとは思えないほどの魔力を有し、その稀に見るほどの才能で、今や帝国内で彼の名を知らぬ者はなく、正統な血を引く皇族の誰よりも次の皇位に近いと噂される人物。


 アラゴンは自分が彼に勝てるなどという幻想は抱いていなかった。

 魔力もなく、戦に経験もなく、どころか戦う訓練すら受けたこともない彼が、どうやって戦場に立てというのか。

 都市王に選ばれるという事は、前線に出て死ぬ事。

 あるいはこれから起こる戦争に全ての責任を取れという事だ。



 アラゴンは、この街を正しく導いてきた自信がある。

 しかし、人々はそれを決して認めはしないだろう。

 人より責任のある地位につく者は、その他大勢の愚昧な民衆よりも、より良い素晴らしいものを多く手に入れる事ができる。

 そんな当然の事を、愚かな下級市民は理解できないのだ。

 己が持っていない事、優秀な種よりも劣っている事を、全て持てる者のせいだと醜く妬む。


 都市王になってもならなくても、どちらもあまり良い状況にはならない。


 だから彼は街を出る準備をしておいた。


 愚かな彼の息子は、自分が都市王になれると勘違いしている。

 さらに愚かな孫は、都市王になり帝国の将軍をひれ伏させるのだと笑っていた。


 都市の機能はここ何年も衰えている。

 壊れて動かなくなった機械がどれだけあった事か。

 実際、ソーリャの兵士はろくな武器を与えられていないのだ。

 なのに帝国と戦って勝てるなど、夢を見るにもほどがある。


 政略で結婚した愚かな妻の血に違いない。

 アラゴンは呆れ果ててものも言えなかった。


 いい機会なので、若い愛人と、愛人が産んだ彼の子どもを連れてソーリャを出ていこうと決めた。


 


 議員たちが都市王の夢に破れて死の恐怖に怯えていたそのとき、彼は地下に隠された駐車場で愛人と待ち合わせ、密かに部下に横流しさせていた大型の輸送用車両に乗り込んで避難通路を自動運転で走らせていたのだった。











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