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無防備都市  作者: 昼咲月見草
侵略

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27/89

春涛の向こうから

 海を超えた向こうの大陸から、ミッドガルシャの軍が攻めてきた。


 いよいよ、帝国の皇帝が侵略戦争を開始したのだ。



 ミッドガルシャ帝国は、その祖をこの大陸のアスガレイド王国に持つ。

 王位争いに巻き込まれた王族が、側近らとともに逃げた先で国を興し、ついにはその大陸を統一してのけた、そんな歴史を持つ国である。


 いずれは故郷の地であるこのゴール大陸までやってくる、そう言われていた。


 そしてとうとうその日がやってきたのだ。


 その朝、昇る日にきらめき輝く穏やかな海の向こう、水平線の彼方からしずしずとその姿を現したのは銀色に輝く船であった。


 人々は冬の寒さから解放され、日も昇って暖かな浜辺でその日の仕事を始めていた。


 最初に気づいたのは親のそばで手伝う子どもであった。


 あくびをしながらぼんやりと海を眺めていて、太陽を背に向かってくる銀色の小さな輝くものを見た。

 なんだろうとじっと見つめていて、その朝日を受けて輝く何かが次々と増えていく事に気がつく。



「父ちゃん、なんか来るよ」



 少しわくわくしながら父親にそう話しかけた。


 

「なんだ、誰が来るんだ?」



 父親は漁に出る支度をしながら、子どもを見もせずに返す。

 この地は漁場が豊かで、遠くへ行かずとも充分な成果が期待できる。

 だが、だからといってのんびりできるわけではない。


 朝は日が昇る前から起き出して仕事を始める。

 朝食を済ませれば、子どもに漁を教えつつ作業をしなければならない。

 この春から船に乗せ始めた長男はまだ遊びたい盛りで、朝も苦手な様子で先ほどからぼんやり遠くを見つめている。


 そろそろガツンとくらわせてやらにゃいかん、と思いながらも手を止めなかった。



「銀色の……なんだろう、光っててよく見えない」


「光ってる、だと?」



 父親はここでようやく顔を上げた。

 どこだ、と訊くと息子は水平線を指差す。

 否、水平線から浜へと向かってくるものを。


 それは朝日を受けて銀色に輝くもの。


 ひとつふたつではない、十や二十でもきかない。


 それがさらに数を増やしながら向かってくる。


 子どもは無邪気に歓喜の声を上げて、浜の他の者らに知らせに行った。

 父親は太陽を背に輝く船団を、唖然とただ見つめていた。








 その日、ゴール大陸のひとつの漁村が帝国の手に落ちた。

 抵抗は無かった。

 帝国は悲願である王国奪取のため、長い年月をかけて計画し、大艦隊の準備をしてきた。

 その一部とはいえ、小さな漁村には逆らいようがない。


 灯台を有する巨大な港町・アワンラットまでは直線距離にして20キロ。


 帝国軍は漁村をあっさりと支配下に置き、次の目標の村へと進みはじめた。


 アワンラットへは艦隊の本体が海から向かっている。

 海と陸との両方から攻め込み、港を手にしたら次は大陸中央に広がる草原だ。

 目指すは、その中心にある都市・ソーリャ。


 ソーリャを橋頭堡として抑える事ができれば、その後の戦に有利となる。


 あの街には世界のどこにもないレベルの旧時代の科学が今も生きている。


 災害を生き延びた人類がただ生きるために必死だった頃、あの街は旧時代の科学を生き返らせ、魔法技術とともに磨き上げていた。

 

 そこを手にする事ができるなら、帝国にさえ存在しない価値ある技術を手に入れられるかもしれないのだ。


 まずは海岸線にある最大の港町と近隣の町や村を支配下に置く。

 そしてソーリャ。


 砦のない、外壁もない街が『無防備都市』として世界にその名を響かせるわけはその結界だ。

 どの国にも併合されず、同盟を結ぶ事すらなく、災害後長く独立を保ち続けている都市国家。


 以前、帝国はこの街を侵略計画の中から外してきた。


 ゴール大陸の他の国を支配下に置けば、いずれ向こうのほうから転がり込んでくるよう仕向ける。そのつもりだった。

 だがそれが変わった。


 兵士たちには細かい事は何も伝えられていない。

 ただ、ソーリャを帝国の支配下に置く算段がついたため、かの都市も侵攻対象となった、そう指示があっただけだ。


 だが彼らにはそれだけで良かった。


 彼らを率いるのは無敗の将軍。

 若くして帝国将軍の地位まで昇り詰めたウォーダン・エヴァンズ・グリュプスその人である。


 この数年だけでも彼は皇弟の起こした反乱の鎮圧、貴族家の後継者争いへの介入、毎年起こる魔物の森のスタンピードへの対応、砂漠地帯の少数民族同士の紛争の解消と、大陸をあちらへこちらへと飛び回り、その全てにおいて結果を出していた。


 その彼がこの遠征軍の全権を担っているのだ。

 

 説明などなくとも意気は十分であった。


 










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