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無防備都市  作者: 昼咲月見草
セレとウォーダン

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23/89

体調不良の原因

 神殿の一室、会議の最中、額を抑えた同僚に別の同僚が声をかけるのを、エドガーは横目で見た。


 気がつけば、他にも何人か顔色を悪くしている者がいる。


「今日は体調が良くない方が多いようですが、皆さん大丈夫ですか?」


 たずねると、数人が口元を押さえて首を振った。

 風邪でも流行っていただろうか。それとも何か食べたものに問題が?

 自分の体調を慎重に確認してみたが、特に問題はない。


 ひとまず、体が動くうちに休憩に入り神官たちを休ませようと会議の中断を提案してみると、全員が賛成、エドガー以外はみんな体調不良を訴えて会議室を出て行ってしまった。これは神殿の外も様子を見なければ、と考えたところで通信が入り、エドガー自らが出ると交換手は驚いた様子を見せたがすぐに話し出した。



『エドガー様、都市の監視室から至急という事で連絡が入っておりますが、いかがいたしましょう』


「監視室から?」


『はい』


 監視室は議会に権限がある。

 神殿が大きな力を振るう事を良しとしない議会側が、神殿に使用制限をかけたためだ。

 

 監視室が使われているという報告自体が入っていなかった事に驚きながらも、エドガーは通信を繋ぐように言う。

 

 映像に出たのは中年の男だった。


『突然申し訳ありません。わたしは都市管理局の庶務課係長、ウルベルト・ザーナシュと申します』


「監視室からと伺いましたが」


『しばらく前から、わたしと部下の2人で監視室勤務についております』


「そうですか。それで、至急というのは?」


『対象者を監視中、聖女様が現れ、対象者と接触しました。そこで近くにいた巡回の兵を送ったのですが、対象者が元流民の少年であるため、暴行を加えられる可能性があります』


 エドガーはわずかに眉根を寄せた。


『聖女様は少年と親しいように見受けられましたので、何かあってはいけないと思い……、どうか兵をコントロールしてはいただけないでしょうか』


 聖女が外に1人でいるとなれば、兵を迎えに出すことはおかしな事ではない。

 

 しかし、それほど好戦的な人物が巡回警備を任されるだろうか。

 現状、都市の外から避難してきた人間も多いというのに。


 不思議に感じながらも、エドガーはそれほど心配してはいなかった。


 おそらくセレフィアムは、今日も転移で出かけたのだろう。

 そしてそこで誰かと出会って友人になったに違いない。

 エドガーとアナスタシアがそうであったように。


 ならば、アナスタシアがおかしな人物とセレフィアムを引き合わせる訳がないのだ。


 そして、同じ理由から2人の身に危険が迫ることもない。


 エドガーはそう確信していた。



「兵に連絡を取ってみましょう。班の番号を教えてください」



 そう言った途端、映像の男が苦しみ出した。



「どうしました?」


『もう、し、わけ、ありま、せん……い、いしきが……』


 そう言って男は床に倒れたようだった。

 ドサリ、という音のあとは何も聞こえなくなる。


「ザーナシュ、ザーナシュ! 返事をしなさい、ザーナシュ!」


 次の瞬間、エドガーが立っている床に光る魔法陣が浮かび上がった。

 転移の魔法陣だと理解したが、辺りを見回しても、おそらくその術者であろうアナスタシアの姿が見当たらない。


 先ほどからの体調不良の多さは、転移のための魔力をアナスタシアが吸いまくっていたからだと気づくが、だから何ができるというわけでもない。



 一体どこへ、と考える間もなく、エドガーは神殿の会議室から草原へと転移していた。








 最初に聞こえたのは、悲鳴のようなセレフィアムの声だ。


 何事か、と見やれば、兵の1人がセレフィアムの腕をとらえている。

 セレフィアムは兵に暴行を受けている少年に近づこうと必死になっているが、体格の大きな兵士と小さなセレフィアムではそもそも勝負にならない。


 結果、セレフィアムが泣き叫んでいる、という状況のようだった。



「やめて、やめて! ウォルを殴らないで! お願い、やめてったら!」



 一体何がどうなっているんだ。


 軽い眩暈は転移直後のせいなのか、頭をひとつ振るとエドガーはセレフィアムを抑えている兵に近づきながら声を拡声させつつ命令を出す。


「やめなさい!」


 びくり、とその場にいた兵士全員の動きが止まった。

 セレフィアムが兵の力がゆるんだ拍子にその手を振りほどき、少年の元へと駆け寄る。


「ウォル! ウォル! ごめんなさい、ごめんなさい、いま治してあげる、しっかりして、ウォル」


 泣きじゃくる少女にエドガーの胸がちくりと痛んだ。

 大丈夫だと、問題ないと油断しきっていたのがこのザマだ。


 半ば八つ当たり気味に兵士の班長を睨みつけて、その顔に覚えがあったことに舌打ちしたくなった。


 ルードゥ・ハスト。


 議会のコネで入った人物で、考えるより先に手が出る粗暴さで何度も問題を起こしている。

 なんでこんな奴がこんな時期に、しかも都市の外の巡回警備の班長なんてやってる?


「全員、あとで報告を上げろ」


 エドガーは兵士全員を見回すと、冷たい声で告げた。











次話は子どもへの暴力シーンがあります。



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