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無防備都市  作者: 昼咲月見草
セレとウォーダン

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15/89

避難民たち

「中に入れてくれ」


「赤ん坊がいるんだ」


「怪我人もいる」


「子どもが熱を出しているの」


「せめて食べ物を分けてくれ」


「お願い、誰か、誰か助けて、中に入れて」



 結界の外は集まった避難民達で騒ぎになっていた。


 ソーリャは従来から結界の中に入れる人数を制限している。

 それは今の状況でも変わらず、結界の外は避難民たちで溢れていた。


 ここへくればどうにかなると思っていたのに。


 人々の顔には疲れと絶望がある。

 だが諦めてはいない。諦めたら家族が死んでしまう。


 人々は結界の外で泣き叫ぶ。

 子どもだけでも助けてくれと。


 それでもソーリャの結界は彼らを受け入れなかった。


 過去、ソーリャは何度も移民を受け入れている。

 しかし彼らはソーリャへ入れさえすればなんとかなると考えているものが多く、入った先のソーリャで絶望した。

 仕事がない、住まいがない、自由がない。

 そんな中、ソーリャの人々は富にあふれ、輝き幸せそうだった。


 移民達の多くが生計を立てていた農業でさえ、ソーリャではやり方が違っていて、彼らは格差にただ押しつぶされるばかりだったのだ。


 だが犯罪は起きなかった。


 起きなかったというよりは、未然に防がれた。


 ソーリャでは犯罪が滅多に成功しない。

 それは都市の機能が人々を常に監視しているからだ。


 ソーリャは移民の受け入れに慎重な都市だ。

 草原は広大だが、ソーリャはその中のごく一部に過ぎず、中で暮らす人間の数にも限度がある。

 ソーリャの食料自給率は75%。

 けして余裕があるとはいえず、ほんの少しのバランスで全てが崩れ去ってしまう恐れがあった。

 ソーリャは近隣の町や村に頼って暮らしているのだ。



 嘆く人々の様子を、セレフィアムはウォーダンの背に隠れながら、青ざめて見つめていた。



 自分と同じような年の子どもが、額に赤く染まった包帯を巻いてぐったりしている。

 赤ん坊は弱々しく泣いていて、ほとんどは声もあげられない様子だ。

 それを抱く母親はぼんやりしていて目に生気がない。

 怒っている人たちは腕を振り上げて結界を叩くが、その目は悲しそうで、辛そうで、誰もがどこか怪我をしていて、汚れ疲れ果てていた。


 年寄りも子どもも地べたに座り込んで、簡易テントの下でじっとしている。


 これは現実のことなのだろうか。


 ウォーダンに連れて行かれたテント村の住民は、まだ活気があったはずだ。

 熱で朦朧としていてぼんやりとしか見ていなかった事もあるが、彼らは結界内の住人だ。外と比べればまだ聖女の加護を受けている。


 セレフィアムは神殿の人間に守られ、美しいものだけをを目にしてきた。


 ソーリャの街にもスラムはあるし、影の部分はある。

 食料自給率の75%から漏れた人たちだ。

 誰かが多く取れば、それだけ分け前が減る人たち。

 セレフィアムはその存在を知らなかった。

 少ない中で奪い合うしかない人たちの存在を、そのとき人がどれだけ醜くなれるかを。


 畢竟、それは有利な立場から自制せずに最初に多くを取っていく人間の醜さであるのだが、セレフィアムはそういったことを考えずにすむよう育てられていた。


「どうして」


 セレフィアムはウォーダンの背中にしがみつきながら震える声を絞り出す。


「どうして、中に入れてあげないの」


 それはつぶやいた独り言であったし、母や神殿の大人達への問いかけでもあったのだが、答えたのはウォーダンだった。


「ソーリャだからだよ」


 その言葉は冷たく響いて、セレフィアムは心を刺されたような気がした。









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