公爵令嬢が身体測定で平民に責められる! ~あなたが見た景色~
アイボリーは象牙色とも呼ばれます。
この王立魔法学園では、魔法に才のある者、あるいは魔法の才を得たいとする者が通っている。
学園の理念では貴族も平民も関係ないとするが、貴族と平民の生徒の間には、見えない壁が確かに存在していた。
魔法学園に通う平民女子のあなたは、上下ともに白い下着姿でいた。なぜなら、本日は年に一度の身体測定がおこなわれているからだ。入学してから初めての身体測定でもある。
机のない空き教室の中には、計測機器がいくつもあり、あなたと同じクラスの女子達が三十人以上いた。測定担当の女性教職員を除くと、全員が下着姿だ。
下着は白が多いが、薄い青や薄い黄色、薄いピンクや薄いオレンジなどの女子もいる。他にも、派手目に見える形状の下着を着ける子もいたりする。一人ひとりが異なっていて、面白い。ただ、その中には……。
「ねえ、ちょっと見て。あの子、オムツ穿いてない?」
隣にいたあなたの友人が、そう指摘する。この友人は青い髪を一本の三つ編みにしており、下着はあなた同様、地味な白の上下だった。なお、あなたも友人も、胸部の膨らみは小さい。
向こう側で白いオムツを着用しているのは、黒髪の平民の子だった。あなた達が彼女を遠目で追っていると、高価そうな白とアイボリーのランジェリーを身に着けた、金髪の女子が彼女へと近寄っていた。
スタイル抜群という表現が似合う金髪の美少女は、オムツ着用女子を鋭く指差した。
「そこのアナタ! どういうことなんですの? 本日は身体測定があると事前に分かっていましたでしょう? このような場でそのようなものを晒すなど、わたくし達他の生徒に対して、無礼だと思いませんのッ?」
強気な彼女は公爵令嬢だ。後ろでは三人、取り巻きの令嬢達がいつの間にか並んでいる。彼女達も平民を睨んでおり、そのうちの一人は大人びた黒い下着姿だった。
「すっ……すみません……っ」
オムツ女子は背が低く、あなた達並に小さな胸部には白いジュニアブラを着けていた。彼女は弱々しい表情で頭を下げている。
「謝るぐらいなら最初から穿かなければよろしいのですよ! 名門校の生徒には相応しくない態度ですわッ!」
公爵令嬢に同調する後ろの取り巻きも、そうですわよ、反省なさい、と、口々にオムツ着用の平民を責めていた。
あなたも友人も、貴族、特に上位の爵位の令嬢に逆らったらまずいことを心得ている。他の平民達や下位の貴族達、それに年上の教職員さえも黙り込み、貴族令嬢達には口出し出来なかった。
しかし、一人だけは違っていた。駄目なことを駄目だと分け隔てなく言える平民が、この場にいたのである。
茶髪をポニーテールにした、上下ともにライトブルーの下着を着けた平民が、公爵令嬢達に立ちふさがる。
「あなた達! その子がどうしてオムツを穿いているのか、考えたりはしないのッ?」
気高い声でポニーテールの平民は言った。
「それはもちろん……お漏らしするからでしょう? わたくしになんてことを言わせるんですの! 汚らわしいですわっ! アナタ、そちらの平民とはお知り合い? そろって失礼な平民ですわねッ!」
「お偉い貴族様でも、知らないのね! その子が着用しているオムツはね、膨大な魔力を制御するためのものなんだから!」
「えっ?」
公爵令嬢はその事実を全く知らないような顔をした。あなたも知らなかった。
「この子はね、純粋な魔力量だけでも、私やあなたよりもずっと凄いのに、魔力の制御が上手く出来ないから、しょうがなく特注のオムツを身に着けているのよ! 測定の時にお漏らししちゃったら、そっちのほうがよっぽど迷惑がかかるじゃない!」
「それはそうですが……」
公爵令嬢はライトブルーの下着の平民に対して、弱々しくなっている。
「あなたもなんで説明しないの! 謝っているだけじゃ、この先もずっと誤解され続けるわよ! それでもいいの!」
正義感の強いポニーテールの女子は、オムツの女子にも声を上げる。
「ごめんなさい……じゃなくて、今から気をつけます」
一生懸命にオムツ女子は答え、公爵令嬢に向かって頭を深く下げた。
「すみませんでした。私は体質上、このオムツは欠かせないので、どうかこのまま測定を受けさせて下さい……」
「そのようなご事情がおありなら、しかたがありませんわね……」
ランジェリー姿の公爵令嬢はオムツ女子に対して納得したものの、茶髪ポニーテール少女は再び公爵令嬢に牙をむく。
「本当は私が注意する前に、この子がどうしてオムツを穿いているのかを察してほしかった! あなた、クラスの中でも一番の貴族じゃないの! そんなにも美しい容姿をしているのに、どうして内面まで美しくなろうとはしないのよッ!」
「う、うつくしい? わたくしが?」
本気で怒鳴る彼女に美しいと言われ、公爵令嬢はかわいらしく赤面した。
「身分も容姿も恵まれていて、平民にも優しく接することの出来る令嬢なら、もっと生徒に尊敬されるのに、もったいない! あなたは大人になったら平民を導く立場になるんだから、もっとしっかりしなきゃ!」
「あっ、あなたっ! 平民の分際で偉そうですわよっ!」
花柄入りパステルイエロー下着の取り巻き令嬢が、ポニーテール女子に焦って言うと、今度は公爵令嬢が割って入った。
「わたくしのことをかばって下さって、ありがとうございます。ですが、彼女の発言はもっともですわ。……彼女の受け入れになりますけど、あなたも美しいのですから、内面の美しさにも励むべきでしょう。わたくしとご一緒に、より美しくなりましょうね」
「はっ、はい! すみませんでしたっ!」
取り巻き令嬢はすぐさま公爵令嬢に頭を下げた。尊敬する公爵令嬢に認められたことで、彼女も顔を赤くする。かわいらしい下着も相まって、大変に愛らしい。
「……責めたりして、すみませんでしたね」
「いえ……」
人が変わったかのように、公爵令嬢がオムツ女子に頭を下げていた。あるいは、激高しなければ普段は誠実な令嬢なのかもしれない。
「私も謝ります。反省しますわ」
「偉そうなんてもう思いませんから、どうかお許し下さい」
「申しわけありません」
白黒の装飾が入った薄めなラベンダー色、花柄パステルイエロー、大人びた黒い下着の取り巻き達も、オムツ女子やポニーテール女子に謝罪する。オムツ女子が、最も申しわけなさそうな様子だった。
「わたくしの間違いを正せる、あなたのような勇気のある方がこの学園にいて下さって、大変心強く思います」
公爵令嬢はポニーテール女子に握手を求める手を出した。
「……偉そうなことを言ったのは事実です、すみません」
ポニーテール女子は下手になっていた。やはり、公爵令嬢に意見したのはやり過ぎだと思っていたのだろう。
「そんなご謙遜をなさらないで。今さら敬語は不要ですわ。本日の測定、あなたには負けませんわよ」
「ええ! 私も負けないからねっ!」
ポニーテール女子も手を出して、二人はしっかりと握手する。
白とアイボリーのランジェリー公爵令嬢、ライトブルー下着の平民の絆が結ばれたこの光景は、とても輝いて見えた。二人とも、美しい。
また、騒ぎが収まったことで、あなたも他の子達もほっとした。
その後は問題なく身体測定がおこなわれ、オムツ女子の魔法の適性が本当に抜群だったことに生徒達が驚いたりもしていた。
ある測定では、ポニーテール女子のほうが公爵令嬢達よりも上回っていたようで、すごいですわね、なんて褒められているのも見た。ポニーテール女子は嬉しそうな顔になっていた。
そして、あなたとあなたの友人は、最後までただの傍観者だった。
◇
身体測定の一件以来、金髪の公爵令嬢と茶髪のポニーテール女子は急速に仲を深め、学園最強の二人組として知られるようになった。
そんな彼女達を、あなたは眺めるだけの平民で居続ける……。
(終わり)
寂しい終わりかたになりました。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。