夏祭りの思い出 ~藤宮 真稀の回想~ 前編
なろうラジオ大賞4に投稿させていただいた作品なのですが、なかなか話を文字数を制限内に納めることが出来ないままタイムリミットとなり、序盤を一部文字数内に納めて投稿することになったのですが、ちょっと悔しいのでフルバージョンを投稿いたします。ほとんど自己満足です(笑)
うちでは毎年、近所にある神社の夏のお祭りに家族で行ってて、年末年始とお盆を合わせて我家の年間三大行事の一つになっている。
あれは確か、小学3年生の時だった。いつも家族で行ってた夏祭りだったが、この年は父も母も仕事が忙しくて祭りに行くことができなかった。どうしても行きたかった私は「ひとりで行く!」と駄々をこねたが、大きな祭りで地元民だけでなく観光客も大勢くる祭りだったため、子供が1人で回るのは危ないからダメだとやり込められた。
そんな時、悠ちゃんが、自分が一緒に行くからと両親を説得してくれた。悠ちゃんというのは橘悠真という近所に住んでいた一つ上の再従兄だ。
当時、人見知りな私はなかなか友達ができず、近所ということもあって家族で親交が深く歳も近かった悠ちゃんについて回っていた。悠ちゃんもそんな私とよく一緒に遊んでくれ、どこかに行くときは一緒に連れていってくれた。私がいるときは危ないところには行かず、私を連れていることで友達に揶揄われても意に返さず、まるで兄のように私の面倒を見てくれてた。
両親もそんな悠ちゃんを頼りにしていたらしく、子供の頃からしっかりした所のある悠ちゃんのことは結構信頼していたのか「悠ちゃんが一緒なら」ということでお祭りに行くことを許してくれた。
その年のお祭りは最高だった。父たちがおらず、子供だけでの露天巡りはなんだか冒険をしているようで、それが悠ちゃんと2人きりだというのも気持ちを昂らせているのかもしれない。
悠ちゃんは私をはぐれさせまいとしてか、しっかりと手を繋いで人混みの中を掻い潜りながら前を進んでいた。
繋いだ手は暑さからか緊張してか汗ばんでおり、自分達より背が高い、まるで壁のような大人たちの中を進んでいるからか、父たちから私の面倒を任された責任感からか悠ちゃんの顔はずっと強張っていて、それが可笑しくもあり頼もしかった。
帰るのが遅くなってはいけないからと早めに帰ったからあまり露天は回れなかっけど、幸せなひとときで、一番の思い出だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
なんだかんだで高校生になった私は友達と呼べる人たちと遊ぶようになり、悠ちゃんも次第に私とはあまり遊ばなくなった。まぁ、私から遊びに行くと嫌な顔せず付き合ってくれるけど。
そして高校生にもなると、私に告白してくる男の子なんかも現れるようになった。とても有難いことだ。が、大して付き合わなうちに有耶無耶になって自然消滅する。原因はなんとなくわかってる。
一つはまぁ、その……私と肉体関係を持てないから。なんか、男の子がそういう気を起こしてきそうになるのを私はなんとなく気づいてしまう。
で、のらりくらりと躱していくうちに諦めるのか白けるのかわからないけど、そのうち彼女ができたとか言われてそのまま別れる。
もう一つ──ていうか、こっちである場合がけっこう多いんだけど、私の趣味へののめり込み具合にドン引きして離れていく。
小さい頃から悠ちゃんと遊んでいた私は、悠ちゃんの影響を非常に受けていたのか、悠ちゃんが観るもの、遊ぶものを私も夢中になり、それが楽しすぎて気がつくとけっこうハマって抜け出せないところまで来てしまっていた。
シュミ友の女の子たちは隠してたりするけど、ありのままでいたい私は、ありのままの痛い私を知ったほどほどに楽しむ(元)カレを置いてけぼりにしてしまうようだ。
でも「楽しい」はやめられな、止められない。おかげでちゃんとした彼氏はいまだにいないが、同じ趣味を持っていて友達として付き合ってくれる男の子たちには恵まれている。とてもとても有難い。
私がそんなふうに趣味を謳歌しているころ。悠ちゃんに寄ってくる女の子たちが度々現れるようになった。
確かに割と勉強ができて、けっこう運動ができて、そこそこかっこいい自慢の悠ちゃんだから、そこに惹かれる女の子もいて当然だろう。
けど、私に彼氏がいないのに悠ちゃんに彼女ができるなんて許さな……いや、自慢の”お兄ちゃん”である悠ちゃんは私のだから、欲しければ私を倒してからにしてほしい。
なのに……あの女、水原遥は弓道部部長という立場を利用して悠ちゃんに近づき、あろうことか悠ちゃんをたぶらかしている。そんなわけで私はいつも時間を作っては、弓道部に通って悠ちゃんにおかしなことをしないよう、あの女を見張っている。
夏になり、いつものように弓道部に見張りに行って、部活が終わってから悠ちゃんと一緒に帰ろうと部室の外で待っていた。
空がだんだん茜に染まっていくのを眺めながら、そろそろお祭りの時期だな、などとぼんやり考えていると、部室から悠ちゃんの声が聞こえてきたので声を掛けようとした私は凍り付いた。
入り口に現れたのは悠ちゃんと、彼と肩を並べるようにして楽しそうに悠ちゃんと話をする水原遥だった。
私に気付いた悠ちゃんは「お待たせ」と声をかけてきたが、そのまま水原遥とおしゃべりしながら校門まで歩きだすので私は慌てて後をついて行く。
二人の話に口を挟むタイミングを掴めず、もやもやした気持ちのまま私は二人の後ろをついて行く。
話は期末試験の話題になり、一緒に勉強しようかという流れになったとき、危機感を感じた私は思わず「私も一緒に勉強する!」と叫んでしまった。
つい大きな声が出てしまって二人は驚いた顔で振り返ったが、悠ちゃんは快く承諾してくれた。さすが私のおにいちゃんである。
危機を免れ、ほっと胸をなでおろした直後、その悠ちゃんが思わぬ爆弾を落とした。話は私たちの近所の神社のお祭りの話題に移り、悠ちゃんは水原遥を祭りに誘ったのだった。