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妻、夫の上司と話す。

「失礼、リセ嬢。少しお話を聞かせていただいてもよろしいか?」


 リセの旦那ことレオンハルトの上司である第一騎士団長が訪ねてきたのは翌日の昼過ぎだった。

 昨日の夜、レオンハルトに義母がどこまで教えたのかが気になって少々睡眠不足のままで職場に来たのだが、本日も精神的にごりごり削られそうな相手がやってきた。


「えーっと……会議室にでも行きますか?」

「うむ、そうだな」


 第一騎士団の団長はごっつい系の渋いおじ様で、けっこうお嬢さん方に人気の男性だが愛妻家としても知られているので下手なちょっかいは誰もかけない、というか、かけられない。おじ様専門の女性陣から特に大人気で、別に第一騎士団長とどうこうなりたい訳ではないお嬢様方からは、出会えたら有難く拝まれている方だ。

 ひょっとしたら幸運の置物なのかも知れないが、今のリセには地獄の使者にしか見えない。

 今から何を聞かれるのか、ちょっと心臓がバクバク言っている。

 大人しくついてくる騎士団長と空いている会議室に入ると、早速尋問…ではなくて質問が来た。


「レオンハルトから聞いたのだが、奴が実は10年前に結婚していたとのことだったが間違いはないですか?」

「…はい、書類にはっきりと記入されておりました」

「お相手の名前はエセルドレーダ、これも間違いはないですね?」

「ございません」


 どうしてレオンハルトのことを聞かれているだけなのにめちゃくちゃこっちが犯人的な感じになるんだろう。これはもう自白しろと言われているんだろうか?


「……俺と総務局の局長は、学生時代にとても親しくしていてね」


 総務局の局長?この状況で何故いきなり局長の話になるんだろう?さっきまでレオンハルトの奥さんの話をしていなかっただろうか。

 ちなみに局長は仕事第一主義の社畜気質をお持ちの方だが、一応は貴族だ。確か伯爵だったはずだが、メガネが良く似合うメガネおじ様だ。


「あいつが前に言っていたんだ、今度新しく入った部下がとても優秀で助かる、ってね。その娘の名前がレオンハルトの奥さんと同じ名前だったんだよなぁ。何でも普段は愛称で呼んでくれって保護者から徹底されたとか何とか…。あー、でも今、総務局にはそんなお年頃の女性って1人しかいないような気が…」


 だらだらと冷や汗が出てくる。バレてる!確実に確信を持って言われている。

 確かに採用書類にはちゃんとした本名をフルネームで記入しなくてはいけない。その辺りは申し訳無いが義父と義母に色々とお任せした。局長にはちゃんと言ってあるからいざとなったら頼りなさい、とは言われているし、最初から『リセ』という名前しか局内では名乗っていないので局長もリセとしか呼ばないが、どうやらそれは保護者からの通知だったらしい。だが、王宮内の治安も預かっている第一騎士団の団長にはちゃんと名前を言ったのだと思われる。だけど、ここは頑張って誤魔化すのみ。


「…へ、へぇー、ソウナンデスネ」


 棒読みにしかならない自分が悲しい。あと、騎士団長の目がとっても怖い。


「…まあ世の中色々とあるんだろうけど…レオンハルトの奥方に会えたら言っておいてくれ。一度くらいはちゃんと向き合って話し合いをしてあげて欲しいって」

「…了解シマシタ…」


 第一騎士団長は部下思いなのだろう、きっと。レオンハルトが昨日、あのままふらふらで帰ってきたのなら確かに心配にはなる。でも一応、事情があるんだよな、的なことは察してくれて言わないでおいてくれるらしい。代わりに「夫婦会議を行え」とのお言葉があった。どう考えてもYes以外の言葉は受け付けてくれていない。

 あぁ、本当に誰がレオンハルトにバラしたのだろう。こっそり終わらせるつもりだったのに。


「……あー、これは独り言なんだけど…、昨日、レオンは王太子殿下の元に行ってたんだが、そこで王女殿下に会ったそうだ。イリナ王女殿下はレオンに夢中でね。レオンの奴は全く相手にしていないんだが、そこでレオンを婚約者にするよう陛下に言うとか宣言したらしい。で、たまたま用事があって来た陛下と宰相に王女殿下が詰め寄った結果、レオンは結婚してるから却下、と言われてそこから修羅場だったよ」

「……サヨウデゴザイマスカ…」


 途中までは「らしい」だが、最後の方は自分の目で見たようだ。国王陛下の護衛として一緒にその場にいたのだろう。よくよく考えてみれば、貴族の婚姻なので国王陛下の承認が必要な案件なのだ。当然10年前も国王陛下は国王陛下だったので、承認を出したご本人はちゃんと覚えていたようだ。


「相手の名前を聞いて思い出したよ。エセルドレーダ、ソルトレイ子爵家の娘。彼女が救出された時、俺はその場にいたんだよ。今はちゃんと健康そうで良かった」


 まだ騎士団長になる前、地下の牢獄で見つけたぼろぼろの少女。実の叔父によって監禁されていた彼女を最初に見つけたのは自分たちのグループだった。引き取ったヴァルディア侯爵夫妻から1年ほどかけてようやく人慣れして学校に入学したと聞いてはいたが、まさかレオンハルトと結婚までしているとは思わなかった。

 間違いなく侯爵夫人が主導で行ったことだろうが、彼女にとっても悪い話ではないと思うのだが。


「レオンハルトの奥方は、彼のことをどう思っているのかな?リセ嬢はどう思う?」

「あーっと。えー…お友達??」


 思わず首を傾げた。とりあえず異性としては意識していない。結婚をしている相手だが、そう言った意味ではまだしていないし、友人という関係が今のところ一番ぴったり当てはまる気がする。レオンハルトも多分、こっちを異性としては認識していないのではないかと勝手に推測している。


「お友達、ねぇ。長い間、近くに居すぎると感覚が狂ってくるものだよ、お嬢さん」


 人生経験豊富の先輩からの有難いお言葉だが、それならそれでもっと前に何とかしようとしていただろう。お互いしていないって事は、そのままでいい気がする。下手に藪を突きたくない。


「さて、じゃああまり人妻と密会しているのも何だから、俺はこの辺で失礼させてもらうよ。リセ嬢、レオンハルトを頼んだよ」

「…はい…」


 にこやかな笑顔とともに去っていったが、さらっと人妻とか言わないでほしい。レオンハルトに何も言う気がなさそうなのも救いだ。

 というか、バラしたのは国王陛下だった。文句が絶対に言えない。

 これってひょっとして、レオンハルトの妻だとバレたらイリナ王女殿下に目を付けられる案件なんじゃないだろうか。せっかく学校は静かに過ごせたのに、王宮内でイジメとか勘弁してほしい。

 レオンハルトが欲しいのならのしを付けて送るから巻き込まないでほしい。

 リセが心底そう思っても許される気がする。

 昨日の内に侯爵家に知らせを出したら、先ほど義父である侯爵本人が来て今日の夕飯を一緒に、とのことだったので帰りは侯爵家に行くことになっている。そこで今後のことをじっくり義両親と話し合って…と思っているのだが、確かにレオンハルトの意思はガン無視だ。そこら辺も含めて家族会議の議題にしようとリセは思った。

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