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夫婦、夜会決戦に挑む。

読んでいただいてありがとうございます。遅くなって、申し訳ありませんでした。

 レオンハルトの決戦の日、ワーグナー公爵家は煌びやかに彩られていた。

 シャンデリアの下で、華やかな装いの人々が優雅に微笑み合い、色とりどりのドレスが舞う。

 そんな光景を見ながら、やっぱりちょっと場違いというか、雰囲気が…!とリセは完全に気後れしていた。


「そんな風にがちがちになっていたら、疲れてしまうわよ」

「分かってはいるんですが、お義母様、その、ワーグナー公爵夫妻に挨拶だけしたら隅っこに行っていてもいいですか?」


 壁の花になりたい。今、切実にそう思う。

 普段は数々の書類と格闘している身だ。こんな煌びやかな世界に入ってもいいものだろうか?いや、よくない。自問自答した答えは、地味にいこうぜ、だ。

 ただ、こんな自分の家族でいてくれた方々に極力迷惑はかけたくないので、壁の花となってそっと風景に溶け込む感じで夜会に出席したということでいいだろうか。

 リセ本人はそう思っているのだが、周りはすでにざわついていた。


 ヴァルディア侯爵夫妻に連れられたあの女性は誰だ?

 あそこの娘はまだデビュー前だ。親戚か何かか?

 侯爵夫妻に紹介してもらえないだろうか。


 場がぱっと華やぐような大輪の美しさではなく、そこにいるだけで静かな存在感を発揮している美しさに誰もが見惚れていた。

 本人は内心で、もう限界です、と思っていたのだが、その不安そうな表情も相まって余計に視線を集めていた。


「……おい、あれってひょっとして」

「あ、ああ、間違いない、リセだ」


 レオンハルトとリセの同級生たちは、ヴァルディア侯爵夫妻の連れている女性がリセだとすぐに分かった。だが、なぜレオンハルトの両親が連れているのか、意味が分からなかった。レオンハルトとリセが連れ立って来ていたのなら、長年の片想いが実ったんだな、と祝福してやれるが、レオンハルトがいないのにその両親と来るとかどうなっているんだろう。

 同級生たちがざわついている間にも、何とかしてリセに近づきたい若者たちが、じりじりと距離を詰めようとしていた。


「良く来てくれたわね、ヴァルディア侯爵夫妻、それにリセ」


 そんな者たちを牽制するように声をかけたのは、ワーグナー公爵夫人だった。

 ヴァルディア侯爵夫妻はともかく、連れの女性にまで親しく声をかけたので、それだけで彼女がココ・ワーグナー公爵夫人の庇護下にあるお気に入りだと周りの者たちは確信した。


「まぁ、リセ、今日の装いはすごく素敵よ。よく似合っているわ。いつもと違うそんな姿を見たら、貴女の旦那様は惚れ直すのではなくて?」

「コ、ココ様!!」


 笑顔で突然、何を言ってくれるんだろう、この方は。

 リセの旦那様が誰か知っていて言っているのだから、タチが悪い。

 一方、同級生たちは、ワーグナー公爵夫人の言葉に驚きを隠せないでいた。


「お、おい今の聞いたか?リセに旦那がいるって!」

「ああ。え?これってレオンハルトは知ってるのか?」

「分からん。レオンハルトの失恋決定か?」


 あのレオンハルトが失恋とか笑えないんだが、どうしよう。

 同級生たちは心底困り果てた。

 肝心のレオンハルトは、リセが来る少し前にワーグナー公爵に連れられてどこかに行ってしまったので、この状況を知らない。もし、今帰って来たら、レオンハルトが可哀想過ぎる気がした。


「……ちょっとレオンハルトを探してきて、ここに帰って来る前に外に連れ出すか?」

「連れ出したところで、明日には広まっている話だぞ。この場で引導を渡された方がいいんじゃないか…?」


 ボソボソと同級生で話していると、入り口の方がざわめき始めた。

 女性陣の「きゃあ」という語尾にハートマークが付きそうな甘ったるい声がいくつも聞こえてきたので、何だ?と思って振り返ると、そこには真っ赤なバラの花束を持ったレオンハルトがいた。


「…………レオンハルト?」

「だな。何だ、あの大きな花束は?どうするつもりなんだ?」


 何か、服装もさっきと違う。さきほどまでは、夜会に出る為のごく普通の服装だったのだが、今のヤツはそれよりももっと上の、そういわゆる勝負服といった装いになっていた。白を基調とした服がレオンハルトの容姿と相まって、完全なる王子様が出現していた。


「おい、レオンハルトのヤツ、リセの方に行くぞ」


 王子様になったレオンハルトが大きなバラの花束を抱えて、リセの方に向かって歩いて行った。


「ちょ、レオンハルト?」


 止めるために声をかけようとした同級生たちを無視して、レオンハルトはそのままリセのもとへと迷い無く歩く。


「……レオンハルト、お前は男だ。骨は拾ってやるからな」


 止まりそうもないレオンハルトにそう言って、同級生たちは成り行きを見守る方にシフトチェンジした。

 


 一方、リセも後ろの方で起こったざわめきが気になって振り返ると、まず見えたのは、大きなバラの花束だった。


「……バラ?」

「そうだけど、そうじゃないわよ、リセちゃん。さっきわたくしたちが言った言葉を覚えてる?あの子を信じてあげてね」


 そう言って侯爵夫妻はリセから一歩引いた場所に立った。おかげでリセが一人で立つことになり、ものすごく目立っている。そこに向かってさらにレオンハルトが歩いて来ていた。


「お義母様?」


 え?これどういう状況?どうしたらいいの?

 リセからしてみれば、後方に義理の父母、横にはいつの間にか現れた親友であるルーチェリエ、反対側にはこれまたいつの間にか現れたワーグナー公爵が妻の手をそっと引いて陣取った。そして、前方からバラの花束を持った………レオンハルト。


「ちょっ、え?どうなるの、これ?」


 リセは、このわけの分からない状況にどう対処していいのか分からずに、少しだけパニックに陥った。

 逃げだそうにも、後ろと左右ががっちりガードされているので逃げ出せない。

 前方から迫って来るのは、花束を持った自分の夫(仮)。

 離婚確定の人間が何してるんだか。さっさと好きな人とやらに会いにいけばいいのに。とか思って現実逃避してみても、夫は止まってくれそうにない。


「リセ、レオンハルト様の本気をちゃんと受け止めてあげてね。それでも、どうしても、どーしてもだめなら私と一緒に他国に行商にでも行きましょうね」


 ルーチェリエが笑顔でそう言ってくれたので、リセも覚悟を決めた。


「分かったわ、ルーチェ。あの花束は、レオンハルト様からの謝罪のようなものね。すぐに離婚届を出してもらうから。ついでに退職届も出してきて、二人で他国を回りましょうね」


 絶対に違う。謝罪で真っ赤なバラの花束は持って来ない。

 とその場にいた誰もが心の中でツッコミを入れた。リセの上司に至っては、ついでで退職届を出すんじゃない、とさらにツッコミを入れた。

 

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