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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空を眺めて、海に沈む

作者: タンバ

企画で書くことになった初めてのBL小説です。

どうか暖かく見守ってくださいm(__)m




登場人物


岬ミズキ(みさきみずき) 169センチ


綺麗な茶色の髪(染めているわけじゃない)に、同じ色の瞳。

ツリ目で気が強い。

勉強もスポーツも平均以上。

真面目なせいか、物事を深く捉えがち。

空也のことが好きだった。


高橋慶一郎たかはしけいいちろう 178センチ


眼鏡をかけたミズキの幼馴染。

ぶっきらぼうで、無口。

ミズキから空也を奪ってしまったと後悔しているが、取られたくないとも思っている。

学年トップの秀才。


藤嶋空也ふじしまくうや 158センチ


童顔で、笑顔を絶やさないミズキの幼馴染。

よく女の子に間違えられるほど、華奢。

勉強もあまりできないうえにドジ。

いつも助けてくるミズキと慶一郎を慕っている。



出海渉汰いずみしょうた 185センチ

目にかかる程度の黒髪に真っ黒な瞳。

遊び人のイケメン。

女遊びがひどい。

社長の息子で一人暮らし。

スポーツも勉強もかなりできるが、本人は遊んでいるほうが好き。

可愛ければ女でも男でもよいタイプ。

洞察力があり、人を見透かしたように目を細める癖がある。






★★★★★






「ねぇ、ミズキ。昨日ね、慶一郎に告白されてさ。付き合うことになったんだ、僕たち」


 放課後の教室。

 小学校から今日まで一緒に過ごしてきた幼馴染である藤嶋空也のあっけらかんとした報告に、俺は頭が真っ白になった。

 小柄で可愛らしい空也は女に間違えられるような奴だが、れっきとした男だ。

 そして、その横で押し黙っている長身の眼鏡。同じく幼馴染の高橋慶一郎も男だ。

 男同士の恋愛。しかも幼馴染が。

 頭が混乱する。

 空也と慶一郎、そして俺、岬ミズキはずっと一緒だった。

 何をするにも三人で過ごしてきた。

 仲の良い男友達だったはずだ。

 それなのに〝付き合う〟?

 

「ちょっ、待って……え?」

「だから、僕ら付き合うことになったの。ね? 慶一郎」

「ああ」


 空也は慶一郎の手に自分の手を絡める。

 ニコニコと嬉しそうに笑っているし、慶一郎もそれを当然のように受け入れている。


「でも、ミズキとも友達だよ? 今までどおりでいようね?」


 二人だけの世界。

 強烈な疎外感と言い知れぬモヤモヤ。

 二つの感情に襲われて、思わず俺はつぶやいてしまった。


「意味わかんない」


 言葉に出してしまったらもう止まらない。

 鞄をもって教室を出る。

 一秒でもそこにいたくなかったから。

 駆け足で、逃げるように外を目指す。

 けど、前を見るのを忘れてた。

 肩に衝撃が走る。

 誰かにぶつかった。

 いつもなら謝るところだけど、今は苛立ちが勝る。

 誰だよ? こんな時間まで呑気に学校に残っている奴は?

 顔を上げると、そこには長い黒髪のチャラ男がいた。

 目にかかるまで伸ばしている黒髪に、スラっとモデルみたいな高身長。

 たれ目でなよってしているけど、男でもハッとするほど顔が整っている。

 制服はボタンを開けて気崩していて、見るからにチャラい。

 そいつがだれか知っていた。

 隣のクラスの出海渉汰。

 学年でも有名なチャラ男だ。とにかく女遊びがひどい。

 いつも違う女といるって噂だし。

 イケメンなのは認める。身長だって高いし、スポーツもできる。社長の息子って話だし、そりゃあ女は寄ってくるだろう。

 けど、気に入らない。

 そんな渉汰がぶつかった俺の顔を覗きこむ。

 そしてフッと笑った。


「君……可愛いじゃん」


 目を細めて渉汰が顔を近づけてくる。

 こいつも何言ってるんだ?

 けど、顔が赤くなるのを感じた。


「どうした……のって言おうと思ったのに……行っちゃった」


 渉汰が俺の方に手を伸ばしてきたから、つい軽く突き飛ばして走ってしまう。

 最悪だ、と思いつつも、後ろから聞こえてきた渉汰の声はどこか楽し気だった。




■■■




 翌日。


「ミズキ、一緒にご飯食べにいこうよ」

「今日はお腹空いてないからいい」


 昼休み。

 空也が笑顔で俺に話しかけてきた。

 それにぶっきらぼうに返して、俺は教室を出る。

 向こうは気にしてないみたいだけど、こっちはそうじゃない。

 気にしてない態度もどこかイラつく。

 そんなことにイラつく自分が同時に嫌になる。

 慶一郎と空也とはいつも一緒だった。お互いに秘密も作らず、ずっと三人で一緒にいた。

 だから驚いたし、嫌悪感も抱いた。


「男同士とか……気持ち悪いだろ……」


 人のいない中庭のベンチ。

 一人でそこに座りながら、思わず声に出してしまった。

 当たり前の感想だと思う。

 けど、言ってしまえば二人を傷つける。

 だからずっと胸の中にしまっていた。それを一人だったから、口に出してしまった。

 けど。


「そうかな? 普通じゃない?」


 聞かれた。

 ハッとして振り向く、そこには渉汰がいた。

 綺麗な顔が近くにあり、思わず後ずさる。


「なっ、なっ……!?」

「お邪魔だった? 可愛い子ちゃん」

「このっ……! キモイんだよ。お前、男に向かってかわいいとか。構ってくんなよ」

「オレ、男でも女でも可愛いければいける派だから。どうしたの? 悩みでもあるの? 俺聞くよ?」

「誰がお前になんて話すかよ」


 ベンチから立ち上がる。

 すると、渉汰が俺の腕を掴んできた。振り払おうとするけど、力が強くて振り払えない。


「人に悩みを打ち明けると楽になれるよ? 一回、試しに話してみない? 木にでも話すと思ってさ」


 甘く、優しい言葉。

 反発心が消えていく。

 それはきっと誰かに話したいと俺も思っているから。




■■■




 気づけばベンチに座って、全部話してしまっていた。

 名前はぼかしたけど、二人の男友達が付き合い始めたこと。

 それが受け入れられないこと。

 なんだかモヤモヤすること。

 全部話した。

 それを静かに聞いてた渉汰は俺の目を見て、目を細めた。

 この目だ。なんでも見透かすような目。

 その目で見つめられると胸が締め付けられる。


「それは……失恋だね」

「はぁっ!? 俺が失恋!? ふざけんなよ!」

「いや、失恋だよ。そのモヤモヤが証拠。男同士に嫌悪感を抱いているんじゃない。自分の想い人を取られたから不快なんだよ」

「そんなわけ……」


 脳裏に空也の顔がよぎる。

 強く否定できない。

 そんな俺に畳みかけるように渉汰は告げた。


「今、思い浮かべた人が想い人だよ。良くある話だよ。友情と愛情を勘違いしちゃうってのはさ」

「違う! お前に何がわかるんだよ!?」


 こんな奴に話したのが間違いだった。

 ベンチから立ち上がり、俺はその場を離れようとする。


「まぁまぁ、そんな怒らないでよ。気が晴れなかったなら遊びにでもいかない? 違う誰かと遊べば気が晴れるかもよ?」


 遊びたいとは思ってた。けど、遊ぶ相手がいない。

 そんなときにこの提案はずるい。

 足を止め、振り向く。


「オゴリなら……」

「いいよ~」




■■■




 大きなショッピングモールのゲームセンター。

 ちょっとオシャレなカフェで軽食を食べ、適当に店を見て回り、最後にここまでやってきた。


「くそっ!」


 簡単なクレーンゲーム。

 それが上手くいかなくて、俺は悪態をついた。

 傍で笑っていた渉汰が、そんな俺を見て後ろから俺を抱きしめるように覆いかぶさってきた。


「おい!?」

「そんなやり方じゃダメだよ」


 優しくささやき、渉汰は俺の腕を取って操作を教えてくる。

 背中と手に渉汰の体温を感じて、なんだか緊張してしまう。

 それでもさすが遊び慣れている渉汰だ。言われたとおりにやったら、狙っていたぬいぐるみが取れた。


「ありがとう……」

「ふーん、感謝してくれるならお礼を貰っちゃおうかなぁ」


 そう言って渉汰はゆっくりと顔を近づけてくる。

 キスされる。

 そう思って、俺は軽く渉汰を押して周りを見た。


「こ、こんなところでやめろよ……!」

「へぇ、こんなところじゃなきゃいいの?」

「そ、それは……」


 顔が赤くなる。

 思わず顔をそらすと、渉汰はスッと目を細めた。

 そして突然。


「ミズキはさ……自分が男と付き合うなら、攻めだと思ってるタイプでしょ?」

「はぁぁぁっ!!??」


 思わず大きな声を出してしまった。

 たしかにそういう想像をしたことがあったから。

 空也と付き合うなら、自分は攻めだと思っていた。

 だって、空也は小柄だし、ドジだし、勉強だってあんまりできないし。いつも俺と慶一郎が世話を焼いてた。

 だから、主導権を握るのは俺だって思ってた。


「図星でしょ?」


 スッと渉汰が俺との距離を縮めてきた。

 手を伸ばし、俺の頬をさする。


「ち、ちげぇし!」

「本当? じゃあ試してみる? 俺の家、誰もいないよ?」


 耳元で渉汰がささやく。

 体が震える。

 絶対に駄目だと思っているのに。

 なぜか俺は頷いてしまっていた。

 そんな俺を渉汰はすべて見透かしたような、あの目で見てくるのだった。




■■■




「うっ……」


 窓から入ってくる日差しで俺は目を覚ました。

 先に起きていた渉汰がカーテンを開けたからだ。


「おはよう。起きないと遅刻するよ? ミズキ」

「もうちょっと……」


 眠気がすごい。

 体が睡眠を欲している。

 けど。


「起きないとイタズラしちゃうよ?」


 渉汰が横になっている俺にスッと近づいてきた。

 渉汰の手が俺の体を這いまわる。

 瞬間、状況を理解して俺は跳ね起きた。


「っっっ!!??」


 昨晩。

 渉汰の家に行って、そこで二人で同じベッドで寝て……。

 記憶をさかのぼり、自分の体を触る。

 服は着ている。何かされた形跡はない。

 眠かったからそのまま寝てしまったけれど、これは……何もされてない?


「起きた?」

「……起きた、けど……」

「じゃあ朝ごはんにしようか」


 軽薄そうな笑みを浮かべて、渉汰はベッドルームから出ていこうとする。

 そんな背中につい声をかけてしまった。


「どうして……何もしなかったんだよ……?」

「何かしてほしかったの?」

「それは……」


 まるで手を出してほしかったみたいな言い方だ。

 自分で言っていて恥ずかしくなる。

 俯いていると、渉汰が口を開いた。


「自分の家じゃそういうことはしないよ。そういうことはホテルって決めてる」

「そんなこと言って……いつも人を呼んでるんだろ?」

「いや、家に入れたのはミズキが初めてだよ。大抵はホテルでバイバイだから」


 フッと笑って渉汰はベッドルームから出ていく。

 自分が初めてという言葉。

 それがなんだか嬉しかった。

 けど、すぐに時計を見てハッとした。それなりにギリギリの時間だ。

 いつの間にか着せられていたパジャマを脱ぎ、制服に着替える。

 その間に、軽くベッドルームを見渡す。

 社長の息子だけあって、渉汰の部屋はすごかった。

 ベッドルームだけでも十分広いのに、こんな部屋がいくつもある。

 読書用なのか、難しそうな本が綺麗に収納された本棚もあった。見た目に反して几帳面なのかもしれない。

 ベッドも大きい。

キングサイズってこういうのをいうんだろうな、と思いつつ、制服を整えてからリビングに向かう。

 そこでは渉汰が簡単な朝食を二人分用意していた。

 一人暮らしのせいか、手際がいい。

 促されるままに渉汰の向かい側に座り、食事を始める。

 なんだかさっきのこともあり、気恥ずかしくて顔を見れない。

 けれど、渉汰にとっては日常茶飯事なのか、気にした様子がない。


「結局、親御さんにはなんて言ったの?」

「え?」

「泊ったこと」

「それは……友達の家に泊まるって……うちは放任主義だから……」


 とくに深掘りはされなかった。

 慶一郎や空也の家によく泊まりにいくから、慣れているんだ。

 そんな俺の返答に対して、渉汰はスッと目を細めた。


「へぇ……〝友達〟なんだ?」

「……」


 顔を見てられなくて、下を見て無言で朝食を済ませる。

 渉汰もそれ以上、何も言わずに食事をする。

 しばらく無言の時間が続き、渉汰が食器を片付け終えると、家を出る時間になった。

 鞄をもって、渉汰が出るのを待っていると。


「〝友達〟ならさ……今日も泊っても平気だよね? だって〝友達〟なんだから」


 あの目を向けながら渉汰が問いかけてくる。

 今日は慶一郎と空也に謝って、三人で遊ぶつもりだった。

 仲直りするんだと心に決めてた。

 二人には何の隠し事もしてこなかった。

 これからもそうだと思っていた。

 けど。


「もちろん、二人には秘密だよ?」

「っっ!!??」


 また見透かされた。

 黒い瞳が俺を飲み込む。

 その黒さがなぜか魅力的に映る。

 深い海を覗き込むような気分だ。

 どのくらい深いんだろうと興味本位で覗いたが最後。

 そこから目を離せなくなる。

 深い深い底に俺も引きずり込まれてしまった。

 俺はきっとこの海底が抜け出せない。

 もう体が海底にはまってしまったから……


「……うん」


 返事をすると、渉汰は右手を俺の顎にかけた。

 綺麗な顔がゆっくりと近づいてくる。

 俺はこれを拒めるのだろうか……?


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