9.・・・消えるぞ?
※長いです、すみません。
こんにちは、たー兄ですっ!
アイスはMOWとあずきバーが好きです。
ところで声を頂いている、『お義兄様は無自覚転生者~イケメンを拾ったので、妹として溺愛させていただきます!~』と『パニックJKと冷たい吸血鬼がもてなす喫茶店』のコラボについてですが、この件にひと段落着いたら、番外編として書く予定です。
では、どうぞ!
「・・・もっと、計算高いと思ってたわ。直球ね。」
重い空気を断ち切るように、どこか笑いの混じった声を知也に投げたのは、美羽だった。
名の通り、天使のような美しい顔。
その中にはまっている瞳に映る光が歪んでいる気がして、倫は思わず顔を背けた。
対してそんなものをはねのけて・・・いや一切気にせず、にこりと微笑んだ知也がわざとらしく眉を下げる。
「お期待に沿えず申し訳ないです。・・・が、本気ですよ?」
刹那、知也が獲物を狙う獣さながらの表情を見せる。
焼け付くような圧に、美羽の美しい顔からすっと笑みが抜ける。
その様子が追い詰められた小動物に見え一瞬手を差し伸べたくなった倫。
しかし、次の言葉でその気持ちは急速に冷えた。
「証拠はあるんでしょうね?」
追い詰められているどころか、覆いかぶさって刃物を相手の首に突きつけるような言葉。
倫はヒヤッとしたが、その言葉を向けられている当の知也は、淡々と答えを返した。
「目撃者ならわんさといるでしょう。」
正論だ。
何十人も出入りする事務所、もしくは現場でもやっているかもしれない。
目撃者を集めるのは容易なことだ。
「・・・その人たちの意思くらい、簡単に曲げられる。」
「そっ、そうだよ!僕と美羽ちゃんのアイがあれば!」
黙りこくっていた大知が美羽の強気な発言に気を持ち直したのか、加勢する。
勿論、国民的アイドルの美羽があの手この手で願えば、あっという間に意思をころりと変えるだろう。
ただ知也も負けていない。
まだ余裕の表情で、何処からか出してきた水を煽っている。
その中で倫は、僅かに震えながらうつむいていた。
生理的な涙が視界をぼやけさせる。
・・・気持ち悪い。
気持ち悪い。痛みに愛を見出している彼らが。
気持ち悪い。彼らの歪んだ顔が。
気持ち悪い。光を屈折させて映した暗闇のような瞳が。
気持ち悪い。彼らの口から紡ぎ出される言葉が。
思わず嘔吐きながら、うずくまりそうになった倫。
足から力が抜ける直前。
意地悪な、正義なはずなのに悪魔の囁きのような、でも倫を力づける声が響いた。
このドロドロとした話の中でも、冷静に。
何の変わりもない、いつも通りの・・・太刀のように鋭い声。
「その前に私が、貴様の意思を曲げてやろう。」
全てが自分の思い通り、自分が言ったことは必ず。
そんな知也の性格が、言葉に表れる。
その言葉に支えられたかのように、いまにも力の抜けそうだった足が持ち直す。
誰にも気づかれず、密かに行われた倫の変化。
何もなかったかのように、話は進む。
(知也さん、人の感情には鈍感だからね。仕方ないけど・・・気づいてほしかったり、なんて。)
「私の意思を曲げる?出来るのならやってみたら?」
「では遠慮なく。大知さん、アイサレルのは・・・いえそんなに優しいものではないですね。DVは嬉しいですか?」
唐突に疑問を投げかけられた大知は、一瞬間を置いた後、頬を染めて高い声をあげる。
「嬉しくないわけないじゃないか。」
その、スキップするようにはねた声を受け、知也が皮肉に唇を曲げる。
その瞬間、倫は肌で感じ取った。
産毛が逆立つような感覚。
知也の、スイッチが入った。
「左様ですか。ではなぜ僕はここにいるのでしょう?」
「僕が、依頼したから・・・。」
「そうです。何故?」
「は?」
いきなりこの件の原点に戻るかのような質問に、固まる大知。
一方知也は、答えられない彼をよそに、じりじりと追い詰める質問を繰り返した。
「心の底で何処かがおかしいと、間違ったと思っているのでしょう?だから僕のところに来たんですよね?違いますか?別にわざわざ僕のところに来なくても、適当に相談したと報告しておけば済むことでしょう。」
問い詰められた大知は、ぐっ・・・と喉に何かを詰まらせたように、顔を赤くしながら黙り込んだ。
美羽と倫はもう、一言も発さない。
動きもしない。
ただ、知也だけが流れるように、唇をつり上げて話し続けていた。
「貴様らは異常だ・・・といって別に貴様らに普通を押し付けたいわけでもない。しかし貴様らはそれでいいのか?」
しとしとと、外に雨が降り出す。
窓ガラスにはしずくが付き、窓から見えるビルたちを曇らせていった。
悪魔のごとく囁く知也には、ぴったりの天気。
その雨にのせられたのか、動けない3人をよそにさらに知也が追い詰めていく。
「・・・おい美羽、このことがちょっと噂にでもなろうものなら、スキャンダルで即芸能界追放だ。」
ピクリと眉を動かす美羽。
一見すいすいと余裕で国民的アイドルになり、地に落ちてもすぐに返り咲きそうな彼女にも、苦労があったのだろうか。
今の人生が、楽しいのだろうか。終わりにしたくないのか。
「大知はいいのか?貴様が愛しているのは、アイドルの美羽か、人間の美羽か。はっきりさせろ。」
泣きそうな顔で、大知が
「選べない・・・どっちも、好きな美羽ちゃんだから・・・。」
とうめいた。
その姿が頼りなく見えて、倫は同情しそうになって首を横に振る。
(だめだ、まだ彼は・・・まだ同情しちゃ、駄目・・・。)
同情に一切縁がなさそうな知也は、そこにさらに言葉を重ねた。
「どっちも好き?はっ、随分ご執心で。・・・なら貴様の一時的な快楽に浸るのはやめろ。さっきは出さなかったが、貴様の体だって証拠になる。アイドルの美羽が・・・消えるぞ?」
いつの間にかなりだした雷の光が、知也の顔を照らした。
ふわぁんふわぁんふぁんふぁわぁ~ん
(ありそうな効果音)