3.無理して気持ちいですか?
ケロケロケロケロくわっくわっくわっ!たー兄です。
好きな数字は・・・たくさんあるんですけど、特に好きなのは1と、3と、6と、9です。
「美羽ちゃんがさ、最近僕を、アイシテくれるんだよね。それはもう、たくさん!でも、事務所の社長が気に食わないみたいで、どっかに相談してこいだって。嫉妬してるのかな。」
「どうしてうちに?」
当たり前の疑問だ。
常連ならともかく、わざわざこの店に来る必要はない。
Dは知也の質問を受け、何の悪気もなくにこにこと正直な気持ちを話した。
「え、だって、警察とか法律事務所とかの大きなところに行ったら、大事になって美羽ちゃんが可愛そうじゃん。ここだったら、相談したっていう証明だけできると思って。」
「つまり、ここは小さい店で、相談したところでロクな調査もしないと?そう言いたいんですか?」
さすがにDも気まずくなったのか、視線を店の壁に向けて、黙り込んでしまった。
対して知也は、一見獣のような目をしているが、倫からするとしんどそうだった。
極力押し殺してあるが、荒く震えた息。
こめかみから伝う汗。
普段より赤い頬。
全てが、彼の体調の悪さを象徴している。
それでも、依頼を聞く探偵として、この店の店主として、Dと対峙していた
「・・・しますよ。聞いたからには、真実が分かるまで調査をします。それが、ーーーーーーーーーーー。」
最後の言葉は、真横にいる倫にも聞き取れなかった。
いや、知也は聞かせる気がなかった。
Dも聞こえなかったであろうが、今はどうでもいいらしい。
自分は適当に相談して終わらせるつもりだったが、どうやらそうもいかないと悟り、遠い目をした。
「で?依頼をお聞きしますよ?」
「ぁあ・・・警察には言わないでね?あのね、美羽ちゃんが1週間前くらいから僕をアイシテくれるってさっき言ったよね。・・・う~ん、言葉にはしづらいんだけど。僕に痛みをくれるっていうか・・・はじめは痛かったけど、今は快感。僕は美羽ちゃんからアイシテもらうの、好きなんだよ。周りの人は、何故か批判的だけど。」
かなりDの主観が入っている。
それでも、大体のことを察した知也は軽く頷いて顎に手を当てる。
しばらく考えた末、Dに
「美羽さんの予定が開いている日に、お伺いしてよろしいでしょうか。」
「事務所に?・・・一番近いのは、今からだけど。」
知也の瞳に一瞬、逡巡が浮かぶ。
しかし、Dの「次は来週になるかな」という一言で表情が変わった。
自分と依頼を天秤にかけ、迷いもなく依頼を選ぶ。
「では、今かr・・・」
「来週に!来週でお願いします!」
知也の言葉を遮って、それまで一言も発さなかった倫が叫ぶ。
理由は勿論、知也の体調だった。
高校生の分際で出過ぎたことを言っているとは感じている。
同時にここで引いてはいけないという決意も胸に秘めていた。
高校生の倫でも、依頼の内容を察することはできた。
そして、それが精神的にも肉体的にも、しんどそうな依頼だという事も分かっている。
(知也さん、ほっといったら無理ばっかじゃん・・・。)
そんな事情をDは知る由もないが、ぎこちなく首を動かして頷いた。
店主の意向であろう今日と、それに割り込んだ店員の提案の来週。
どちらを選ぶかを吟味した結果、黙り込んだ店主よりも必死な目で訴えかける店員を選んだ。
「う、うん・・・来週でいいけど。」
倫の目がきらめく。
肩かった表情を一変させ、知也に向かってニコッと笑った。
知也は表面上、温和な営業スマイルを浮かべているが、その心は荒れている。
それでも、客が了承したことには逆らわず、お辞儀をしただけだった。
「お代は次回でいいのかな?」
「はい。」
「じゃあ、来週の午後2時にお願い。あ、これ名刺ね。ここの住所に来て。」
ベルを鳴らしてあっという間に外に出たD。
店の外で頭を下げて見送ってた知也だが、彼の姿が見えなくなった途端に店に引っ込み、椅子に深く座り込んだ。
ひじ掛けを指でトントンと叩きながら、苛立たしそうに口を開く。
「倫。」
怒りをはらんだ彼の声。
倫は、後悔していなかった。
罪悪感も微塵も感じていない。
「知也さん。・・・あの、無理して気持ちいですか?しんどいですよね。苦しい時に休むのは、全然悪いことじゃないと思います。休むのとサボるのをごっちゃにしないでください。」
倫が知也の耳元でそう囁くと、一瞬息をつめた知也が倫を睨んで言い返そうとするものの、言葉が出ずに顔を伏せた。
そんな知也を倫はしばらく表情を緩めて眺めていたが、ふと店内を見渡す。
「知也さん。お店、閉店時間ですよね。後片付けしときましょうか?」
「・・・。」
「知也さん?」
目線を上に向けていた倫が、沈黙に思わず知也の方を向くと、肩ひじをついて瞼を閉じた店主の姿があった。
ガタンと音を立てて立ち上がり、焦って知也をゆする倫。
(っ良かった・・・。寝てるだけか。)
「もう、無理するから。周りが大変になるのに。後片付けの方法分かんないんだけど!」
倫の叫び声にも知也が目を覚ますことはなく、店内には沈黙だけが残った。
そういえば、倫の知也の呼び方が変わったことに気が付きましたか?
血原さん→知也さんになりました。
前章からです。
2人の距離が縮まった・・・?