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パニックJKと冷たい吸血鬼がもてなす喫茶店  作者: たー兄
喫茶店『クリムソン』の吸血鬼。
10/21

9.人間と吸血鬼。

コケッコケコッコー、コケコッコー!たー兄です。

普段メガネしてる人のメガネなしの顔っていいと思いませんか?

「お代って、いくらくらいですか?」

「は?いる訳がないだろう。これは貴様の依頼ではない。私が勝手に興味をもって勝手に調査した事件だ。」

 知也自身は当たり前だと思っていることを訊ねられ、眉をひそめて返す。

 対して、こちらもお代を払うことが当たり前だと思っていた倫が、首をかしげて知也を見つめる。

 数秒の沈黙。

「・・・って、いや、払いたいので!だって、私が8年間、ずっと苦しめられる続けてきた記憶・・・事件なんです!それを解決してくださった血原さんに、お礼をしないなんて・・・考えられません。」

「はぁ・・・。そうか?金じゃないぞ。」

(え?金じゃないって何?人生?命?怖っ・・・・!いやでも!)

 怖気づいて頬の筋肉がピクピクと硬直する倫。

 それでも、人の道だろう・・・と何とか背筋を伸ばす。

「本当にいいんだな?」

 コツコツコツ・・・と本革靴を鳴らしながら、カウンターをまわって倫の席の横に来た知也が、耳元で囁いた。

 倫は細かく震える手をもう片方の手で押さえ、知也に微笑む。

 もう、お礼をするためなら何をささげていいとさえ思っていた。

 2人の間に、目に見えないあたたかいものが通った・・・と思った瞬間、倫の首元に鋭い痛みが走る。

「っ・・・!?」

 倫は声が出ず、無言で知也に目を向けた。

 さっきまで横にいたはずの知也が、倫を抱き寄せている。

 ただ無言で、首筋に嚙みつく知也。

 しかし、倫が驚いたのはそれだけではなかった。

 知也の漆黒の髪が、絹糸のような真っ白の髪に毛先から染め上げられていく。

 時折、体を離して肩で息をすると、その瞳が深紅の宝石のルビーのようになっているのも分かった。

 自分が知る喫茶店の店主が、どんどんこの世の者ではなくなっていく。

 倫は、首の痛みを忘れるほど、恐怖という感情に支配されていた。

 しかし、それと同時に快感も生まれていく。

 気持ちいい。

 倫の中の恐怖を快感が上回ったその時。

「ん・・・はあっ・・・。」

 知也が倫から完全に体を離す。

 白髪、赤い瞳の彼が、肩で大きく息をしていた。

 頬を紅潮させ、潤んだ目で倫を見ていた。

「・・・悪い。痛いか?」

「っ・・・あ・・・。」

 いつもなら、倫は「痛いに決まってますよ!」と軽口をたたくシーン。

 でも、倫は言葉にならない声を紡ぐだけで、返事ができなかった。

 それを肯定ととったのか、知也が顔をゆがめる。

「申し訳ない。ただ、これが依頼の代金だ。・・・私が何なのか、さすがの貴様でも分かるな?」

「きゅ、吸血鬼・・・?」

 上目遣いで、呟くように名詞を答える倫。

 知也は明言せず、微かにうなずいて目をそらした。

(えっ・・・と。あー、ニンニクとか、十字架とか、日光とか大丈夫なのかな?)

 復活し始めた倫が、思考回路を血を吸われたことから、知也が吸血鬼だということに移す。

 すると、知也がフン、と鼻で笑って倫の考えを読む。

「貴様はどうせ、吸血鬼だからニンニクと十字架と日光ダメなんじゃない?とか思っているのだろうが・・・。」

「うぇ!?心読まれた!」

「貴様の心など、ナメクジでも読める。」

 具体的すぎる例えに、倫が目を見開いて、『叫び(ムンクの叫び)』のような表情をする。

 いつの間にか黒目と黒髪に戻っていた知也は、そんな倫に、自分のことを一つ一つ丁寧に教えるように話した。

「まず、ニンニクと十字架を怖がるというイメージは古い。とっくにそんなもの全吸血鬼、耐性を付けている。・・・まぁ、日光だけは克服しきれてないが。当たりすぎると熱が出る。」

 前半は自信ありげに語っていたが、後半困ったように目を細めて、若干弱った声を出す。

 倫は、分からないなりにもふんふん、と聞いていたが知也の言葉に引っかかった。

 目を瞑って今聞いた言葉を一言一言吟味すると、急に目を開く。

「あっ!え?でも、血原さん、普通に外歩いてましたよね・・・?」

「ん?ああ。晴れの日は厳しいが、曇りの日なら1時間は外にいることができる。今日は曇りだっただろう?」

 そう、今日の外出は、知也にとって自己犠牲兼とても珍しいことだった。

「うわぁ・・・なんか、ありがとうございました・・・。熱出しませんよね?」

「あぁ、明日は多少・・・。」

 安心材料の言葉を得るために問いかけ、自分にとっていい言葉を待っていた倫が、耳から入ってきた情報を理解するのに目をパチパチと瞬いた。

 コテン、と首を傾げ、間抜けな声を出す。

「はぇ?え?お店は?」

 対して、こちらも情報を理解してなさそうな知也が

「開くが?」

 と当たり前のように返す。

 より一層混乱した倫が、目をぐるぐるさせて知也に問いかけた。

「え?え?え?熱が出るのに、お店を開くんですか!?」

「何か問題でも?ウイルス性ではない。」

 ・・・。

 2人の間に流れる沈黙。

 互いの常識の違いに、目を見合わせて首をひねった。

 まずツッコんだのは倫。

「いや、問題しかないですよ!他の人に移す云々じゃなくて、血原さんがしんどいと思います!」

「・・・私が?」

 虚を突かれたような知也が、声を裏返して、反射神経のような形で倫に問いをぶつけた。

 倫は、ニコニコと人懐っこく微笑んで、知也の手を握る。

「はい。あー、明日は月曜日でしたよね。放課後、手伝いに来るので、その時は休んでください!」

「・・・。」 

 知也は、何か考え込むように黙り、呆然としていた。

 まるで、自分と何もかもが違う生き物を前にしたかのように。

 いや、知也にとってはそうだったのかもしれない。

 人間と吸血鬼。

 陽と陰。

 表と裏。

 晴れと雨。

 喜と哀。

 白と黒。

 全てが裏返しになったかのように違う2人。

 そんな2人が、完全に通じ合うのは、いつなのか。

ホントは本編でいれたかったんですけど・・・。

喫茶店『クリムソン』の由来は色からきてます。

たー兄的には、いかにも鮮血~という色です。(#DC143C)

画像はのせられませんでしたが、上のカラーコード(?)から検索してみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普段メガネの人のメガネなしの顔も尊いし、 逆に普段メガネかけてない人のメガネありの時のギャップも尊い。 というか、倫ちゃんと知也、 たー兄さんは全て違うって書いてましたけど、 心の奥の、自分…
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