序章
初めましての人は初めまして、たー兄です。
あ、たーにいって読みます。
今回は吸血鬼ものですね。
前作・「青い海に消えたお前に」が恐ろしく駄作だったので、削除しました。
こちらは沢山読んでもらえたら嬉しいです(切実)
「いってきまーす!」
「気を付けてねー!変な人に会ったら、すぐに助けを呼ぶのよ。」
「もー分かってるって!てか友達が家の前にいるし!」
バタバタと落ち着きがないポニーテールの女の子が、家の玄関で頬を膨らませる。
まるで11、2歳の子供のような女の子は、バックを肩にかけ、制服のブレザーを少し可愛く着崩していた。
口論の相手は、彼女の母親だった。
一見おっとりと優しそうな母親・・・いや実際そうなのだが、実はこの母親、娘を女手一つで育てたシングルマザーである。
対して、その母親に苦労して育てられた倫は、あの事件を除けば、ごく一般的な女の子だった。
(うう・・・この会話絶対、みんな聞いてんじゃん。うわぁ、ガチで恥ずいんだけど。)
青春真っ盛りな訳で、今日も週初めから親友3人が玄関の前で待っている。
防音では役割を果たさないドア1枚に遮られただけのその空間は、中の声も外の声も駄々洩れである。
事実、今も倫の耳には
「倫、小学生やん。」
「それ言えてる!あたしもそう思う!」
「え?倫ってホントに高校生?ってなるよね。」
という親友の声が入っている。
ジトッと母親を睨む倫だが、彼女は相当のマザコンである。
思春期でも、1日平均30分は話していたほどだ。
ちなみに、幼児退行して1時間母親に抱っこされるのは、通常営業である。
もう一度言おう。
1時間母親に抱っこされるのは、通常営業である。
彼女の友達が言う通り、正直、高校生には見えない。
「気を付けてね。いってらっしゃい。」
「はいはい、いってきまーす!」
倫が処理するように適当にあしらってドアをバタンと閉めた後で、母親が頬に手を当て、はぁ・・・とため息を吐いたことを倫は知らない。
「倫のお母さん、ホント心配性やね~!うちなんか、何も言わずに出ても心配されんわ。」
「ゆりあ、それはそれでどうなんだ?ま、なんでもいいけどね!」
「ふふ、でもまぁ、倫のお母さんは、ボクの家とはくらべものにならないほど心配性だもんね。」
「てか、人の母親を心配性っていうなー!」
毎日毎日このテンションで登下校。
そのせいで遅刻しかけることも少なくない。
まるでママ友である。
クラスメイト達がひっそりと、『テンション爆上げ組』と呼んでいることなど知らずに、ずーっと学校でもこのテンションなのだ。
倫は基本、誰とでも仲良くなれる。
ただ、この3人は倫にとって特別だ。
関西から移住してきた、明るい担当・ゆりあ。
運動は花丸、勉強はバツの、豪快担当・茉奈。
ボクっ子ショートカットの、可愛い担当・清花。
そして情緒不安定の、アホ担当・倫。
特に気が合って集まった4人。
まだ半年の付き合いにも関わらず、お互いの性格や家族は理解しつくしている。
恐らく、将来の恋人よりも、お互いを知っていると言っても過言ではないだろう。
「元はああじゃないからね?・・・私が、8年前に誘拐されてから、異常に心配するようになっただけで。」
倫の誘拐。
それは、人生に1度あるかないかの事件だろう。
8年たった今も、倫の生活に根深く関わっている。
そう、まるで呪いのように。
「あー、倫が何歳の頃やっけ?」
「8年前だから、7歳かな。」
「どんくらい誘拐されてたんだ?」
「1週間。」
「それでPTSDになったんだっけ?」
「ま、そうだね。」
PTSD。正式名称、心的外傷後ストレス障害。
命の安全が脅かされるような出来事・・・倫の場合は誘拐・・・によって強い精神的衝撃を受けることが原因で、起こる精神障害である。
倫の症状は3つ。
・事件の前後の記憶が抜け落ちている
・誘拐された時の悪夢を見る
・関連する事物で、パニック状態に陥る
「たまにパニックになると、息切れとかめまいとかして大変。夜も寝れない日とかあるし。」
「そっか。しんどかったら言ってね。」
「相談にも乗るぞ!」
「力になれることがあれば・・・」
「ありがとう!」
(いい友達を持ったなぁ・・・。)
倫は、誘拐の件ではとことん運が悪いと言えるが、その他の人間関係には恵まれているのである。
そう、人間関係に。
まさか、この後、人間以外と関わるなど、誰が想像したであろうか。
倫たちが騒ぎながら歩いた道路に、カランカランと音を立てて、外に看板を出す人物がいた。
1日おきに投稿します。
次の投稿は明後日です。