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ショート 夕日の写真

作者: 間の開く男

 他に客の居ないバーカウンターに、一枚の写真が置かれる。

 

 若い頃、写真家を志していたという話からマスターに賭けを持ちかけられた。もし当てられたのならば今日の飲み代はタダにしてくれるのだという。もし外れても何もない、完全にこちらが有利な賭けであった。乗らないはずがない。

 

 その写真には見覚えがあった。テーマにあった素人の投稿に幾分かの賞金が出るという雑誌の企画で、確か朝日がテーマとなっていた。

「この写真が朝方か夕方、どちらに撮られたものかを当てて欲しい」

 こんなのは簡単だ、しかし、何かが引っかかる。受賞はしたものの金賞ではなく、銀賞だった。ほんの数万円が後日現金書留で送られてきて、カメラ用の機材を買い足した記憶はある。しかし、ひっかかるのはそこではない。

 

 画面から向かって左側にオレンジ色の光、朝日か夕日だ。右側に物干し竿の先端が映り込み、当時の嫁が干しっぱなしにしていた女性物の下着の一部が見切れている。写真の中央にはブロック塀と民家。

 たしか、この写真を取った直後に引っ越しをして、今の家に住み始めた。そのはずだ。

 

 朝日……と言いかけた所で、思い出した。これは夕日だ。投稿する際に、良く撮れていたから朝日と偽って、そして受賞した……写真に対して嘘を付いたのだ。何年もそれで悩んで、いつのまにかカメラを手にすることは無くなっていた。

 しかし、なぜ突然引っ越しをしたかが思い出せない、カウンターからウィスキー・グラスを取り、一気に流し込んだ。喉の焼ける痛みと共に、当時の記憶が徐々に蘇る。

 

「この写真はとある青年が撮ったものらしく、当時の雑誌の引き伸ばしなんですがね」

 マスターがヒントを出す。

 

 雑誌、投稿、青年……そう、確か投稿した後に誰かから電話が。いや、まさか。

 

「この写真の奥に家が映っているでしょう。ブロック塀越しに。」

 ブロック塀の隙間から、隣の家のガラス窓が映っている。

 

「ここ、よーく見てみると、人が写り込んでるんですよ」

 写真を手に取り、ゆっくりと眺める。確かに、男性のようにも見える。

 

「誰が撮ったのか未だに教えてもらえなくって」

 ……投稿の後、警察から電話がかかってきた。あの写真はいつ撮ったものだと。

 

「ようやく、見つけられそうなんですよ、撮った人を」

 …………あの電話に、夕方だと答えた。

 

「こ、これは朝日を撮ったものではないかな。昔雑誌で見た記憶がある、たしかそう、朝日の写真がテーマだった」

「――残念、非常に残念だ……飲み代はもう要らないよ」

 グラスを磨いていた手が止まる。

 

 思い出した。引っ越した理由は、隣の家で殺人事件が……。

お題:夕日 謎 下着

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