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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
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Shadow of Iris

 日は完全に沈み、辺りは闇に包まれていた。そんな中、歓楽街は綺羅びやかな光りに包まれ、大いに賑わっていた。ただ一方で――その裏手はひどくひっそりとしていた。

 そして今歓楽街の喧騒から逃れるようにしてその陰に足を踏み入れるものが一人。葛西だった。黒く大きな鞄を抱えて額に汗を浮かべ周囲を警戒しながら歩く彼の姿は明らかに不審だった。そのまま歩き続け、目的地に到着すると葛西は大きく深呼吸する。

 鞄は地面置くことなく大切に抱えてまま……その人が来るのを待った。


 上納市にある歓楽街メインストリートから外れた人通りの少ない道。さらにその路地裏。滅多なことでは人が来ないその場所は、不逞を働こうとする者にとってはうってつけの場所だった。


 ……………………


 …………


 杵島道生は仕事終わりの息抜きにキャサリンの経営する店に顔を出していた。その帰りのこと、杵島は偶然にも葛西を発見した。大きな黒い鞄を大事そうに抱え、周囲を警戒しながら歩くその様は見るからに怪しさ満点だった。まさかこんな形で葛西を発見できるとは思ってもいなかった杵島はこのチャンスを逃すまいとその後をつけた。


 葛西の行方がわからなくなっていたことは警察でも把握していた。そこに日高考から渡されたノートパソコンを持参してやってきたのが杵島だった。

 連続殺人事件の捜査で『divination of the spirit』という件名のつけられたメールが重要な意味を持つことはすでに共通認識になっていた。そんなわけで警察はすぐさまその大量のメールの解析をBP社に依頼した。

 セキュリティーを重んじるBP社は本来なら警察の依頼であっても断る可能性があった。だが、先日のハッキング事件を受け信頼回復に努めていた同社は快く引き受けてくれた。その結果、杏奈の元に送られていた予言のメールの後半は上納市駅近くにあるネットカフェから送られていることが発覚。それからネットカフェの監視カメラの映像を確認しメールの送信日時周辺を調べたところ一連のメールは葛西によって送られたものだということが判明したのだった。

 その中には杏奈の死期を予言したメールも含まれている。つまりそれは葛西が杏奈を殺したということを意味していた。

 葛西がそんな事をした理由はカムライ教に集められた寄付金の一部を横領していたことが杏奈バレたからだった。杏奈が予言のメールを信じ込んでいたことはわかっていた。だからこれを利用しない手はないと考えた。葛西自身、前半のメールが杏珠によって送られてきていたものだということは知らない。ただ、何者かが送って来る予言メールに自分のメールを紛れ込ませられればと考えての行動だった。しかし、杏珠を養子に迎えてから本物の予言のメールがピタリと止み、結果的に葛西がその後を引き継ぐ形になっていた。


 葛西は少し開けた袋小路で立ち止まった。それをチャンスと見て彼に声をかけようしたところで杵島は思いとどまった。誰もいないと思っていたいたその場所には葛西以外にもうひとり別の人間がいたからだ。実際葛西もその存在に気がついていなかったらしくひどく驚いていた。


 相手の姿を確認しようと杵島は夜目をこらす。どうやら影から出てきたのは女のようだった。肩のあたりまで伸びた髪に紅い眼鏡の女だった。


「卯佐美か……?」


 それは一見して楡金探偵事務所で働く卯佐美明里によく似た人物だった。2人は何やら会話を始める。


 杵島は出ていくのを一度やめて2人の会話に耳を傾けることにした。


 ……………………


 …………


「い、いたんですか!?」


 突然現れた女性を見て葛西は驚いた。


「ええ。さっきから」


 女性はひどく冷たい声を発した。


「それにしても驚きました。本当に連続殺人事件が起きるなんて。4月に起きた襲撃事件といいアヤメさんの予言は杏奈さん以上ですよ!」


 葛西は羨望の眼差しをアヤメと呼んだ女性に向ける。


「私は予言したわけじゃないわ。ただ未来に起きる出来事を知ってただけよ」


 アヤメの声は相変わらず冷めていた。


「それを予言っていうんですよ!」


 アヤメとは打って変わってヒートアップする葛西に彼女は不快な視線を向ける。


「それよりちゃんと持ってきてくれたのかしら?」


「はい! ここに!」


 葛西は持っていた黒いカバンを両手で抱えたままアヤメに差し出した。アヤメはカバンのチャックを開け中身を確認した。中には大量の現金。それは葛西が少しずつ応用を重ね集めたものだった。

 アヤメはそれを確認し終わると取っ手をつかみ、そしてその重さをずっしりと感じて思わず肩を下げた。


「あ? 重いですよね? 何なら俺が――」


「結構よ」


 アヤメはピシャリと言った。


 そして、そのまま立ち去ろうとして、


「なるほどなぁ」


 会話を盗み聞きしていた杵島が顔を出した。


 ……………………


 …………


 杵島が顔を出すと、葛西の顔色が見るからに変わった。アヤメは表情を崩さない。


「葛西。もしかしてその金はカムライ教の信者から集めたもんだったりするのか?」


 質問をぶつけられた葛西はは何も言わず、ただ目を泳がせる。


 そんな2人を無視するようにアヤメは歩みを再開し杵島の脇を通り過ぎようとする。


「おっと、君にも話を聞かなくちゃいけない。なんでまたこんなことになってるんだ? こんなこと楡金の探偵が知ったら……」


 杵島は間近でアヤメの姿を見て違和感に囚われた。彼女の姿は卯佐美明里に告示していたが微妙に違っていた。杵島の視線がアヤメの胸に注がれる。そこには楡金八重ほどではないがそれなりの膨らみがあった。少なくとも卯佐美明里とは雲泥の差だった。


 アヤメはその視線に気づいて露骨に顔をしかめた。


「あんた……卯佐美明里じゃない、のか……?」


 その時杵島は背後に人の気配を感じ咄嗟に振り返った。


 そこには大男と呼ぶにふさわしい人物がいた。10月の夜だと言うのに男は迷彩柄のタンクトップにハーフパンツ姿だった。そこから生える四肢はマルタのように太く浅黒く焼けていた。


 犯罪者を前にした時以上の恐怖が杵島を襲う。明らかに腕っぷしで敵う相手ではなく命の危険さえ感じていた。


「悪いな刑事さん」


 男は背筋がゾクリとするような低い声で言って杵島の首元に手刀を見舞った。すると杵島は電池が切れたみたいに気を失って床に倒れた。


 ……………………


 …………


「ひぃっ!?」


 思わぬ人物の登場に葛西が小さく悲鳴を上げた。


「こいつもやっとくか?」


 大男がアヤメにお伺いを立てる。


「その必要はないわ」


 アヤメはもっていたカバンを大男に押し付け振り返り葛西に近づいた。


「悪いけど今日のことは忘れてほしいのよ」


 葛西は全力で首を上下に振った。その視線はアヤメではなくその後ろにいる大男に向けられていた。


「言いません! 誰にも言いません!」


「ああ……そういう意味じゃないよ」


「え?」


 アヤメは左手で葛西の腕を掴んだ。美人な女性に腕を捕まれたことで葛西に一瞬の同様が走る。そして、それが何を意味するのかを理解する前に彼の意識が途切れた。


 それからアヤメは床で伸びている杵島の傍でしゃがみ左手で彼の腕をうかむ。数瞬の後アヤメは何事もなかった可能に立ち上がり、スタスタとその場を後にする。かばんを持った大男がその後ろに続いた。彼女らはメインストリートを避け裏道から歓楽街の外へ出た。


 少し開けた袋小路は再び静寂に包まれる。そこには気を失った杵島と葛西だけが残された。


 後に目を覚ます2人の頭の中からは今の一連のやり取りが綺麗サッパリと失くなっていた――

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