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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
エピローグ

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85/87

3 mistake

 事務所に明里を残し、わたしは真柄さんの家に向かった。


 場所は高級住宅街。よく考えもせずTシャツにジャケット、デニムのパンツという物凄くラフな格好でここに来てしまったけど、これでよかったのかと思いながら歩く。


 ――とは言っても、じゃあこの場に相応しい服があるかと言えば、持ってないんだけどね。


 前回ここに来たときは車の中にいたから特に気にならなかったけど、徒歩となるとまわりから自分が浮いているんじゃないかという錯覚を起こしそうになる。お金持ちだからといって四六時中高い服を着て生活してるわけじゃないってわかっていてもだ。


 連続殺人事件の影響か人通りの少ない住宅街を歩いて真柄さんの家に到着。わたしは呼び鈴を鳴らした。インターフォン越しに話したいことがあると伝えるとすぐに家に招き入れてもらえた。


「ほへぇー」


 家に入った瞬間わたしは思わず間の抜けた声を出していた。


 そこはわたしが想像するお金持ちの人の家そのものだった。造りは洋風で、外観もさることながら内装もとても豪華だった。廊下の壁に掛けられている絵とか、よくわからない花が生けてある高そうな花瓶とか。

 リビングに案内されるまで、わたしはまるでお上りさんのように始終辺りをキョロキョロしっぱなしだった。


「お茶を用意しますね」と、真柄さんがキッチンの方へ向かう。


 彼女が帰ってくるまでの間、わたしはソファに座って待った。事務所で使っているソファとは大違いでとてもふかふか。真柄さんがうちに依頼に来たときはさぞ居心地が悪かったことだろう。


 わたしはお尻を跳ねさせてふかふか具合を楽しむ。そこにトレーを手にした真柄さんが現れた。


 怪訝そうな目でわたしを見る。


「たはは……」


 わたしは照れ笑いを浮かべ、恥ずかしくなってソファの上で縮こまった。


「お話というのは紗耶子のことですよね?」


 お茶を配り終えて向かいに座るなり真柄さんが言った。


 まぁ、わたしがここを訪ねる理由って言ったらそれしかない。


 そして、今の言葉。紗耶子……その呼び方はもう他人を呼称する際のニュアンスではなかった。


 真柄さんはきっと、わたしが気づいたことに気づいているんだろう。


「先程、疑いは晴れたと紗耶子から連絡がありました。――ですから、おそらくすべてを話しても問題はないでしょう」


 そう言って、彼女は穏やかな笑みを見せた。今の発言から2人がまったくの赤の他人ではないことを確信した。そして、彼女の口から真実が語られることになった。


 …………


 朝倉紗耶子と真柄夫妻、そして上木杏奈うえきあんなと呼ばれる女性は、学生時代の頃からの親友だった。しかし、この上木杏奈という女性は宗教の教祖の娘という境遇にあり、学生時代謂れのない誹りを受けたり、嫌がらせを受けていたそうだ。いわゆるイジメに近い行為を受けていたわけだ。

 その都度、朝倉さんと真柄夫妻が彼女をかばってあげていたらしい。


 杏奈さんが親の跡を継ぎ教祖となった際に朝倉さんは幹部として彼女を支えることを決意したそうだ。真柄さんは幹部にこそならなかったが、旦那さんとともに信者として彼女をサポートしていた。ただ、今年の7月に杏奈さんが他界するのを機に、自分の役目は終わったと朝倉さんは幹部を辞め、真柄夫妻もカムライ教に通わなくなった。


 しかし、それで話は終わらなかった。


 切っ掛けは今世間を騒がせている連続殺人事件。2人目の被害者が出たときに朝倉さんはあることに気がついた。殺された2人がカムライ教の信者であるという共通点に。

 そのとき彼女が思ったが、元幹部の人間である自分に疑いが掛かる可能性。そして何より自分が次の被害者になる可能性だった。

 もちろんただの偶然の可能性も考えていた。上納市及び上ノ木町にはカムライ教の信者、元信者は大勢いる。無作為に選ばれた2人が連続してカムライ教の人間である確率だってないこともない、と。


 ただ、何もしないよりもマシだと思い今回の『偽装不倫』を計画した。そしてそれは結果的に功を奏したわけだ。


 この偽装不倫には2つの目的があった。


 ひとつは警察に疑いを掛けられた際にアリバイとして機能すること。もうひとつはわたしが彼女を監視することで犯人に襲われたときに助けてもらえる――そもそも襲われなくなる――ことだった。


 その話を聞いて納得した。


 真柄さんが本気で不倫を疑ってる人には見えなかったのも全部そういう裏事情があったわけだ。途中で依頼が追加されたのも、恐らくアリバイを確保するために依頼を長引かせたかったためだろう。つまりわたしはうまく利用されていたってわけだ。


「でも、どうしてうちを選んだんですか?」


 自分で言うのも何だけど、うちより大きな探偵事務所や興信所はあるのだ。


「それはですね、ことを大きくしすぎると弁解できなくなることを懸念したんです。嘘とは言え不倫しているように見せかけるわけですから、事情を知っている人間は少ないほうがいいでしょう? ですから、小規模な探偵を選んだんです」


 真柄さんは紅茶の入ったカップに口をつける。


「迷惑をかけてしまったことは謝罪します。紗耶子にも改めて謝罪させますよ」


「うん。まぁ、別にいいですけど……」


 そう言いつつも、この依頼がなければあんな嫌な思いしなくてよかったんだよね、と歓楽街で起きた出来事のことを思う。


 ――思い出したら腹が立ってきた……


 気持ちを落ち着かせようと、カップに入ったお茶を一気に飲み干し「はぁ……」と息を吐く。


 高級な茶葉とか使ってるのかもしれないけど、わたしにはそこらで売ってる紅茶と味に違いがわからなかった。ただ高いリラックス効果があるのかわたしの気分はそれで落ち着いた。


 知りたいことを聞き終えたわたしは真柄さんにお茶のお礼を言って事務所へと帰ることにした。


 …………


「ただいま」


 事務所に戻ったわたしは、パソコンに向かって作業を続ける明里に声を掛けた。すると明里は珍しく驚いたような表情でこちらを向き、そっとノートパソコンを閉じる。


「ん? 仕事の邪魔しちゃったかな?」


「いいえ。大丈夫ですよ、八重様」


「そう?」


 そう言って、わたしは特に深く追求することはしなかった。


 しかし――


 わたしはこのとき深く追求すべきだったのだ。


 そうしていれば……わたしと明里の間にはもっと違う未来が訪れていたのかもしれないのに――

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