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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
エピローグ

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83/87

1 near miss

 逸見赤木はこれまでのことを訥々と語った。時折感情を発露する一面も垣間見え、時折頭痛を訴えながら話をするその様は直感的に薬物の仕様を疑わせた。薬物と言えば思い出されるのは自分がこの街に来た本当の理由――アセンブルだ。


 一度休憩を入れて検査を行った。結果は陰性であった。自分は彼の奇妙な言動を不審に思いながらも最後まで話を聞いた。


 彼が語った犯行動機、そしてれに付随する彼の行動の数々はある意味で凄絶で残酷であった。だがその根底にあるの大切な人を守りたいという純粋な気持ちからくるものだ。中でも彼の朝倉勇を救いたいという思いは人を殺めるに至らしめるほどに強烈で、それは友情という言葉では片付けることのできない、それこそ愛情と呼ぶにふさわしいほどの感情だった。本人にその自覚はないみたいだが……


「よう、お疲れさん」


 逸見赤木の事情聴取を終えて休憩しているところに杵島さんが現れた。彼は今別件で動いていて自分とは違う仕事を任されていた。


「あ、杵島さん」


「おう、どうだった?」


「今ちょうど終わったところです。やはり逸見赤木は戸波玲香と美守茜の殺害については否認していています。そちらの方はどうです?」


「いや、まったく足取りがつかめない。いったいどこへ行ったのやら……」


 杵島さんが任されている仕事とは磯山みなよの捜索だった。


 上納市連続殺人事件のさなかに磯山家で見つけた2名の遺体は磯山茂とその妻であった。その2人を殺害した人物は未だ不明であるが磯山夫婦の一人娘である磯山みなよが何らかの事情を知っていると見て捜査を進めているのだが、彼女の行方が一向にわからないのである。


 そして彼女の行方を探している理由はもうひとつあった。それは彼女が使っていたと思われる部屋から見つかったノートパソコンである。警察が現場に到着した際にそのノートパソコンは点けっぱなしになっていて、その画面にはメールの受信画面が表示されていた。しかも不特定多数の人間から大量にメールが送られてきていたのだ。

 不審に思った捜査員のひとりが詳しく調べたところ、送信履歴の中に、本文に『美守茜』とだけ書かれたメールがあったらしい。そして、その件名は『divineition of the spirit』。送信相手は朝倉勇の携帯電話だった……

 そして、カムライ教周辺で見つかった仮面や黒いマントそして凶器の包丁に付着した指紋とノートパソコンについていた指紋を照合した結果見事に一致。それで、戸浪玲香及び美守茜を殺したのは磯山みなよだろうということになった。


 しかし肝心の磯山みなよは見つかっていない。


 相手は高校生で、家庭もあまり裕福とは言えないということもあって、活動範囲的にも金銭的にもそう遠くへはいけないはずなのだが警察は未だその行方を追えていないというわけだ。


「ま、時間の問題だろ。――そういや課長から聞いたんだがお前戻るんだってな」


「はい。急に帰還命令が来まして」


 帰還命令が来たのは前日のことだった。アセンブル捜査のために各地に散っている『TROY』の全メンバーに招集がかかった。詳しい事情は明かされていないが、どうやら本庁の方でのっぴきならない事件が発生したとのことだった。


「ま、短い間だったが本庁に戻っても励めよ」


 先輩は自分の肩を叩いて去っていった。


 ……………………


 …………


 逸見赤木逮捕から2週間後。自分は本庁へ戻るため上納市の駅のホームにやってきた。そこへ律儀にも課長がホームまで見送りに来てくれていた。先輩は忙しいらしく見送りには来ていない。


「杵島さんはまだ磯山みなよの捜索を?」


「うん? ああ、それもあるが、彼はまた別の仕事が入ってね」


「また別のですか? 随分立て込んでますね」


「ほんとまったくだ。連続殺人事件が起きる前はほんと閑古鳥が鳴くほどに暇だったんだけどねぇ」課長は辟易としてため息をつく。「それよりも。アセンブルの件はもういいのかい?」


「ええ、それは……って、ええっ!?」


 課長の口から唐突に出たアセンブルという言葉についつい驚いてしまう。


「はっはっは。今まで黙っていて悪かったね。でも、現場に事情を知っている人間がひとりもいなかったら何かあった時にうまくごまかせないだろう? そういうことさ。――にしても、早乙女くんは嘘がつけない人間だね。そんなんでこれから大丈夫かい?」


「はい……精進します。――あの、もしかしてして先輩も……?」


「いや、事情を知っているのは僕だけだよ安心したまえ」


「はあ……」


 あまりにも突然のカミングアウトすぎて、つい気の抜けた返事をしてしまう。そして、列車の到着を告げるアナウンスが流れた。


「どうやらもうお別れのようだね」


「そうですね」


「だが君の方の事件もまだ解決していない。つまり、また会う機会もあるってことだ」


「そうかもしれませんね。でもそうならないのが一番だと思います」


「確かににそうだ」


 こりゃ一本取られたとおどける課長の笑い声をかき消すようにホームに特急列車が到着する。自分は課長に向かって「短い間でしたがお世話になりました」と頭を下げる。顔を上げビシッと敬礼を決める。すると課長もそれに答えるように敬礼を返してくれた。


 ――――


 列車内に入り、指定された席につく。背中を預けるようにしてシートに深く座って目を閉じ事件を振り返る。


 逸見赤木の逮捕を以て連続殺人事件は終りを迎えた。逸見赤木は犯行を認めており彼自身の関わった事件は一応の解決となった。問題は戸波玲香と美守茜の件である。

 捜査が進むに連れ磯山みなよがこの2人からいじめを受けていたことが発覚し、彼女が2人を殺害する動機は十分である事が判明。そしてどこから嗅ぎつけたのかマスコミはその情報を面白おかしく流布し、それまで市長に対して同情的だった市民たちは手のひらを返したように市長を糾弾し始めた。


 話は変わって、磯山邸に残された謎についてだ。磯山邸で見つかった2人の遺体の周辺には彼ら自身の血でできた血溜まりができていたのだがそこに不審な足跡が残されていて。その足跡は磯山みなよの部屋に向かって点々と続いていた。靴の形状はどこにでも売っているパンプスでそこから持ち主を特定するのはほぼ不可能とのことだった。

 初見では磯山みなよのものかとも思われたが、家に残っていたどの靴ともサイズが合っていないことが判明している。つまり、磯山家の人間ではない何者かが土足で家に上がって、磯山みなよの部屋で何かをしたということだ。


 未だ見つからない磯山みなよ。彼女は何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして未だ捜索中である。


 それから、磯山みなよノートパソコンに届いていた大量のメールについてだが、これはカムライ教の信者たちの犯行であることが朝倉勇と日高孝の証言で明らかとなった。

 自分と先輩がカムライ教へ赴いた13日の夜が正にその真っ最中だったそうだ。

 14日未明に起きたBP(ビューティプロテクト)社のサーバーがダウンした事件はこれが原因かと思われたが、同社の社員いわく「そのようなことで我社のサーバーがダウンすることはない」とのことだった。つまりほかに原因があるということ。既にBP社から被害届が出されており、その原因は時期に明らかとなるだろう。


「けど、実に奇妙な事件だ……」


 複数の偶然が重なったことで事件はあらぬ展開を見せ自分たちはそれに翻弄され後手に回ってしまった。結果的に多くの死傷者を出してしまったこの事件。自分たちは大いに反省し今後に活かすべきだろう。


 だが奇妙といえばどうしても解せないこともある。


 それは先輩がカムライ教の元教祖杏奈から聞かされた『4月の杏奈襲撃事件』と『今回の連続殺人事件』に関する予言だ。日高考は杏奈の予言は幹部の人間たちがこれを実現することであたかも予言が当たっていたかのように演出していたのだと言っていた。


 しかしながらこの2つの事件は実際に起きた。しかもカムライ教の幹部ではない逸見赤木の手によって。


 そもそもこの2つの予言は信者たちの前で発表されていない予言だと聞いている。そんなものを実現したところで信者獲得にはつながらない。


 つまりこの2つはまったくの偶然によって引き起こされたことになる。


 あるいはそれとも……


 ――杏奈には本当に予言の力があったとでも言うのだろうか……?


「まさか――?」


 フッと自嘲する。そんなことあるはずがない。


 そしてもう一つ。甲斐夏男の携帯電話の件だ。目まぐるしい展開を迎えた事件に追われすっかり忘れていたが彼の携帯電話は未だ見つかっていないし、彼がなぜ路地裏などにいたのかも謎のままだ。

 今回の連続殺人事件の犯人は逸見赤木であったが、彼は甲斐夏男の携帯電話を持ち去ってはいないことが判明している。つまり自分の考えていた犯人に呼びだされて殺された説は間違っていたということだ。すると俄然気になるのはなぜ甲斐夏男があのような場所にいたかだ。

 だがしかし、事件が解決した今、彼の彼携帯電話の行方についてはこれ以上言及されることはないだろう。


 非常にもやもやした気分にさせられるが警察の捜査とはそういうものだ。何より自分は帰還命令が出た身、これ以上この事件に関わることはできない。仮に何かしらの続報があったとしても耳に入ることはないのだ……


 列車が発信することを知らせる音が鳴る。

 閉じていた目を開けて、何気なく視線を窓の外にやった。そこからホームの様子が確認できる。


「うん?」


 するとそこには見覚えのあるスーツ姿の女性がいた。


 ――卯佐美さん……?


 楡金探偵事務所にいた女性だった。


 もしかして見送りに……なわけはない。自分とは赤の他人同然の彼女がそんなことをするとは思えない。しかも彼女は今、背が高くガタイのいい男性と何かを話しているようだった――


「まさかっ!?」


 自分は思わず窓に張り付いた。すると列車がゆっくりと動き出す。よく見ればその女性は卯佐美さんに似てはいるが別人だ。


 ――そうか! そういうことだったんだ!


 自分は今ハッキリと思い出していた。


 あのときなぜ卯佐美さんの姿を見て既視感を覚えたのか……


 それを見たのは自分が所属する『TORY』の捜査資料だ。そこには今ホームを歩いているあの女性の写真が掲載されていたことを思い出した。


 しかも彼女はアセンブルに関わる人物だったと記憶している。


 つまり――


 この地にはアセンブルに関わる何かがあるということは間違いないということだ。


 窓の外。彼女の姿が小さくなっていく……。自分はその姿が完全に見えなくなるまで窓の外に目を向けていた。

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