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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
終章 ??? 編

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第2話 歪む世界 中編

 今年の4月、オレは行動を起こした。


 このままだと母ちゃんがおかしくなってしまう。オレの家族が壊れてしまう。だったら母ちゃんの目を覚まさせるにはそれしかないって思った。


 オレはカムライ教の教祖が本部から出てくる時間を調べ上げ、そのタイミングを狙って襲撃した。教祖がいなくなればカムライ教がなくなる。そうすればあの男はカムライ教の予言とやらを餌に母ちゃんをたぶらかすこともできなくなる。そしてそれは同時に勇を救うことにも繋がる。


 だが……失敗した。


 教祖と一緒にいたSPみたいな男にいとも簡単に阻まれちまって、結局オレは何もできずにその場から逃げ出した。


 ガキ頃のオレと違って一回り大きくなった身体。財力(お小遣い)もそれなりにあって、行動を起こすには十分なだけの力を得た……と、思い上がっていた。


 だが実際はどうだ?


 あのSP男に簡単に阻まれ教祖に触れることすらできなかった。そもそも直接狙うってなんだよ……。根本が間違ってんだよ……


 オレは諦めなかった。次の作戦を立てることにした。


 …………


 同年8月――


 夏休みに入ったオレは父ちゃんに登山に誘われた。昔はよく父ちゃんと連れ立って山に登ってたけどそれも中学に上がるとなくなっていた。だからオレが山登りに行くのは実に小学生以来のことだった。父ちゃん自身は度々ひとりで登山に出かけていたのだが、そんな父ちゃんが今このタイミングでオレを誘うなんてどういう風の吹き回しだって思った。

 まあそんなわけで、本格的なとまではいかないもののそれなりの準備が必要で、オレは登山に適したズボンや上着やらを揃えるため上納市にある百科店に買い物に行くことにした。


 向かったのは上納市の中心部から少し外れたところにある百貨店。


 都会に住んでる人だと百貨店を始めとした大型の店舗は都心部に集中してるイメージが強いが、オレの住んでるところはそうじゃない。もちろん中心地にだってそれなりの店は揃ってるが、生活の支えになっているような店のほとんどは郊外にある。その理由は上納市が車社会だからだ。

 中心地に行けば行くほど土地代は高くなって、また駐車スペースも限られてくる。その上すべてが有料駐車場。

 一方郊外に店を構えれば同じコストで倍以上の土地が手に入る。無料の駐車場完備でそこに行けばほぼすべて事足りるとあったら誰だってそっちに足を運ぶ。そういうわけで休日の午後は上納市内の中心を通る国道はいっつも渋滞してる。そんな渋滞を横目にオレは自転車で疾走する。


 ――こういう時自転車ってのはほんとに便利だ。


 オレは目的地に到着するとすぐに百貨店内のスポーツ用品店に向かったそこで必要なものを一式揃えた。その後小腹がすいたオレは同百貨店内にあるスーパーでパンでも買ってそれを食いながら帰ろうと考えた。


 パンを物色する横で店員のおばちゃんと客のおばちゃんが話をしていた。商品に関する話ではなく世間話のようだ。


 ――いるよなこういう人。


 知り合いが客としてやってきてついつい話し込んじまうあれだ。特におばちゃんに多い気がする。ま、オレは別段なんとも思わない。むしろこういう客さんとの交流ってのも仕事の内なんだろう。


 オレは気にせず陳列棚にあるパンを物色する。


 すると……


「そういえば、あなたまだカムライ教に通ってるの?」


 そんな言葉が聞こえてきた。出本は会話に興じる2人おばちゃんだった。普段なら聞き逃していただろうが今のオレはカムライ教って言葉にすごく敏感だ。だからつい反応してしまった。


 オレは睨むような自然をおばちゃんたちに向けた。2人はオレの視線に気付くことなく談笑を続ける。店員のおばちゃんのネームプレートには菅瑠実音と書かれていた。


 ――オレはこんなところで何してんだ? そうだよさっさとカムライ教を潰す方法を考えないと駄目だろ?


 オレは何も買わずに帰ることにした。


 …………


 登山当日。オレと父ちゃんは地元の山にでかけた。比較的なだらかな山とはいえ久しぶりの登山はハッキリ言ってきつかった。器用に山を登っていく父ちゃんの後ろを付いていくのがやっとだった。自分たち以外の山登客もこなれた様子でスイスイと登っていく。それを見て父ちゃんはオレに合わせてくれてるんだって気づいた。つまり本気出してないってこと。ちょっと情けなくなった。


「赤木……」


 父ちゃんは立ち止まって振り返りオレの名を呼んだ。その表情に疲れは一切見えない。その代わりに哀愁を漂わせていた。


「なに。父ちゃん」


「母さんのこと……どう思う?」


「……え?」


 急に何を言い出すのかと思った。でも次の父ちゃんの言葉でその質問の意図がはっきりした。


「母さんな……父さん以外に好きな男がいるかもしれん」


 父ちゃんは母さんの浮気に感づいていたのだ。だからその話をするためにオレを登山に誘った。家には母ちゃんがいて2人で話ができる環境ではないから。


「はは……。冗談だろ?」


 オレは笑い飛ばすつもりで言った。


 もちろん母ちゃんがほかに男に熱を上げてるのはわかってた。でも、「うん知ってる」なんて答えられるわけがない。だから濁した。


「そうか……」


 父ちゃんは前に向き直り歩き出す。その背中を追いながらオレは考えていた。


 やっぱり早急にカムライ教を潰さなくてはダメだ……


 ――――


 山の中腹あたりで休憩中に別の2人組と会話に興じた。オレじゃなくて父ちゃんが。

 2人組のひとりは米座五郎さん。どっからモミアゲでどっから髭かわかんないような顔の恰幅のいい男の人で、見た目がほんとに山男って感じの人。もうひとりは流尾寛平さん。こっちはメガネを掛けたすげぇインテリっぽい人で、山とか無縁の見た目をした人だった。

 父ちゃんを含めた3人は同じ登山趣味同士で馬があったらしく話に花を咲かせる。さっきの寂しそうな顔はなく父ちゃんに笑顔が戻っていた。

 オレは少し離れたところでひとりで休憩。3人の会話に耳を傾けつつカムライ教をどう潰すか考えていた。


 父ちゃんたちは完全に意気投合して休憩が終わった後も一緒に行動することになった。


 登山は何事もなく進み、山頂付近でテントを張って一泊して、日が昇らないうちに起きた。。

 山頂で見る日の出ってのは格別だ。そのとき登った山はそれほど高い山じゃなかったけど、周囲には薄っすらと雲がかかっていた。日が出始めると、その薄い雲に光が反射して幻想的な風景を作り出す。

 太陽が完全に顔を出すまでに掛かる時間はおよそ3分ぐらい、その間ずっとその光景に魅入られていた……


 日の出が終わり、最後に写真でも撮ろうかと米座さんが言う。オレも記念に残したくて、流尾さんに撮影をお願いした。青空をバックにオレが真ん中で米座さんと親父が両脇に立つ。オレのスマホに新たな思い出が保存された。


 久しぶりの山登りで完全に疲弊していたオレは無言で下山の準備を手伝う。父ちゃんとほかの2人が年齢の割にテキパキと動いているのを見てちょっと悔しい気分になった。そのとき、米座さんと流尾さんの会話が耳に入った。


 詳しい内容までは理解できなかったが、ハッキリと聞こえたのは『カムライ教』という言葉。それから、


 杏奈さんが病気で――


 予言で――


 ディビネイションオブザスピリットが――


 会話の断片だけが記憶されていく。


 ――ああ、そうか……


 この人たちも地元の人間だったんだと理解した。そして、カムライ教という言葉を耳にしたことで、オレはまたカムライ教を潰す算段を考え始めた。


 …………


 8月中旬、夏休み中の学校登校日に事件は起こった。


 勇が戸浪にボコられた。どうしてそんな事になったのか理由は明らか。無視をしろと言われていたはずの磯山を助けようとしたのがバレたからだ。オレが助けに入って、戸浪の野郎を追っ払て、教室にはオレと勇と磯山の3人になった。


 さっきあれだけのことをされたのに勇は磯山に優しい言葉をかける。


「ぼくは、もう助けてあげられないと思う――」


 先程まで痛めつけられていた勇は苦しそうな声で言う。そして磯山にお守りをあげた。


 ――え!? それってすげぇ大事なもんじゃなかったのか!? そんな簡単に上げちまっていいのかよ!?


 勇のその行動を見た瞬間オレはもの凄く嫌な気持ちになった。その日は一日中ずっとイライラが収まらなかった。


「クソっ! なんだよあれ!」


 オレの怒りは磯山に向けられていた。もしもアイツがイジメに遭ってなかったら勇は戸波にボコられることはなかったはずだ。それに大事なお守りを渡しちまうこともなかったはずだ。


 勇が磯山に優しい言葉をかけていた光景を思い出すと、オレの苛立ちが増していく。


 とにかくそのイライラを発散させるために言いたいことを全部ぶち撒けたい気分だった。でもどうせぶちまけるならその様子を動画にしようと思った。


 ――これはオレだけかもしれないが、こういうムカムカしてるときってやたらと頭の回転がよくなるんだよな。


 別にこっちとしてはイジメのことなんてどうだってよかった。ただ単純に磯山に対する個人的な怒りを吐露した。台本もないのに次から次へと出てくる言葉の数々。ヒートアップして徐々にテンションも上がっていき、そのままの勢いに逆らわず言いたいことをぶちまけた。ある意味においてそれは、単なる怒りの発散に過ぎなかったのかもしれない。


 動画を撮り終え、そのままネットに投稿してやろうかと思ったが……やめた。撮影を終えた途端、憑き物が落ちたみたいにオレはひどく冷静になってた。自分の動画を見返してみて思わずなんじゃこりゃって思った。だけど消すのはもったいなくて、撮影した動画をパソコンに保存しておくことにした。


 そもそも戸浪がいなけりゃ磯山はイジメに遭ってないわけで、オレの怒りの矛先は本来なら戸浪に向けるべきなんだと思い直す。だいたい、なんで上納市の人間がわざわざ上ノ木に通ってんだよって話だ。


「いや違う……違うんだ――」……そうじゃないんだよ。


 カムライ教……そうカムライ教だ――!


 それがすべての元凶なんだよ。一刻も早くなんとかしなければ。そして勇と母ちゃんを救うんだ!

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