10月13日
「明里。ただいまぁ」
夕方。買い物を終えて事務所に帰ってきた。
「おかえりなさい。八重様」
明里がわざわざ玄関まで出迎えに来て荷物を持ってくれる。2人で2階へ上がり、買ってきたものを整頓する。日高くんの依頼があるはずなのに何も言わずに手伝ってくれる明里。
ちょっと気になって、依頼の進捗を訊ねてみる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。今夜決行の手はずになっていますから」
「え? 今夜って……すぐじゃん!?」
「はい」
特に慌てた素振りを見せることもなく明里が買い物袋からお肉を取り出し冷蔵庫にしまう。
「以前お話したと思うんですが、ネットで知り合った方が今夜ビューティープロテクトのサーバーに対してDoS攻撃を行うそうなんです」
「その混乱に乗じてアカウントの情報を盗み出せってこと?」
「はい。そういうことです」
ちなみにDoS攻撃というのは『Denial of Services attack』の略で、特定のサイト等に過剰なアクセスをすることで負荷をかけてサイトを繋がりにくくしたり落としたりする事を言う。
簡単なものだと、特定のサイトを開いた状態でキーボードのF5キーを連打することでそれができる。もちろん個人の力でそれをやったってまったく効果はないが、大勢でやったり不正なツールを使ったりすることでそれが可能となる。
ただし――
一昔前ならいざしらず、今ではそういった攻撃に対する対策も進んでいるわけで、ましてや相手はあのビューティープロテクトだ。そんな攻撃なんて屁でもないはず……それを承知でDoS攻撃をやろうっていうんだから、そこには何らかの勝算があるってことだ。
そう考えると、明里の知り合いってのが何者なのかが非常に気になるわけだが……
「ねえ明里。その知り合いのことどこまで知ってるの?」
明里はちょっとだけ悩む素振りをみせて、
「アイさんと名乗る方です。性別は女性で、警察官系の仕事をしているらしいです」
「……それ、相手がそう言ってるだけだよね?」
「はい」
それはつまり何もわかってないのと同じだ。しかも警察関係の仕事をしてる人間がDoS攻撃に加担するわけがない。ってことはその情報はうそっぱちだ。
「でも大丈夫です。いい人ですから」
明里は根拠のない自信を見せる。
わたしの不安を他所に明里はカボチャをそのまま冷蔵庫にしまおうとしていた。
…………
夕飯を食べ終えると、明里が作業に戻る。
いよいよ決行のとき。
邪魔しちゃいけないと思い、わたしは2階にある自室へ。ガタガタとなる窓の音で、台風が近づいているんだったと気づく。
――風の影響で外の回線が切れて仕事に支障が……なんてことにならなければいいけど。
「……って、こういうことを考えること自体がよくないんだよね」
言霊ってのがあるように、言ったことが本当にになったら洒落にならない。
こういうときは――
「寝るに限る!」
どうせやることもないし、果報は寝て待てとも言う。すべては明日の朝になればわかることだ。




