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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第六章 楡金八重 編

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10月10日 後編

 わたしの事務所は3階建てになっている。1階に楡金探偵事務所を構え、階段を上がった2階はわたしの部屋を含む1DK、3階には明里の部屋がある。ちなみに2階と3階には事務所から直接上がることしかできず、外からは入ることはできない。

 ここはもともと2階建ての建物で、一時(いっとき)までは2階に明里と一緒に住んでいたんだけど、とある理由があって部屋を増築することにした。


 その理由っていうのは明里の寝相だ。誤解のないように言うと決して寝相が悪いってわけじゃない。問題なのは明里は寝るときになにかに抱きついて寝る癖みたいなものがあるようで、これは本人も自覚している。


 わたしの部屋にはベッドがひとつしかなく。そのベッドで2人一緒に寝ていたわけなんだけど毎日のように抱きつかれてめちゃ困った。百歩譲って冬はまだいい、だけど夏はかなり厳しいものがあった。

 さすがにこれを毎年続けるのはきついと感じて、思い切って増築することにしたというわけだ。


 明里の部屋が完成した際に大きなペンギンのぬいぐるみをプレゼントしておいた。それがわたしの代わりってな具合で。

 きっと今も夜はそのペンギンを抱いて寝ていることだろう。


「八重様。……どうでしょうか?」


 着替えを終えた明里が事務所に下りてきた。


「おお! まだまだイケるじゃん!」


 その姿を見て思わず歓喜の声を上げる。先程までパンツスーツスタイルだった明里は今、万葉学園の制服に身を包んでいた。


 黒を基調としたワンピース型の制服で、とても似合っていた。まぁ、ほんの数年前まで着ていた服なんだから当たり前だけど……


 明里の物持ちのよさに感謝だ。


 わたしは時計を確認する。時刻は午後4時過ぎ。丁度いい頃合いだ。


「さて、それじゃあ作戦開始だね!」


 わたしと明里は万葉学園へと出発することにした。


 ――――


 わたしの考えた作戦というのは、ねねちゃんを通して真理絵ちゃんとの連絡を図ろうというものだった。ねねちゃんというのは以前関わった事件で真理絵ちゃんと一緒に知り合うことになった女の子だ。

 真理絵ちゃんと仲のよい彼女なら当然連絡がとれるはず。しかし、ねねちゃんが通っている万葉学園はいろいろと規則にうるさい所で、ねねちゃんに会おうとして学園周辺をうろついていようものなら即警備の人が飛んでくる。そいう場所だ。だから普通に近づくことはできない。

 そこで明里に協力を願うことにした。明里は元万葉学園の生徒だから、もしも当時の制服を持っていたならそれを着て学園の近くでねねちゃんを待っていたとしても不審がられないだろうと考えたわけだ。


「それじゃ明里、ねねちゃんに会えたら近くにある喫茶店に連れてきてね。わたしはそこで待ってるから」


「はい。それでは」


 明里がひとりで万葉学園に向かって歩いていく。


 時間的にはちょうど下校の時間と重なったようで、正門を抜ける万葉の生徒たちがチラホラと見える。

 校門から出てくる生徒たちの流れに逆らって校門に向かう明里。端から見ればちょっと違和感を感じなくもない。しかし、そんな明里のことを気にしている生徒はいない。どうやらわたしの作戦はうまくいったようだ。


 …………


 一足先に喫茶店に着いたわたし。高級住宅街との境に位置する喫茶店で小洒落た内装をしている。


 お客さんは少なめで、店内に流れるジャズ系のBGMがよく聞き取れるほどに静かだった。店員さんに後から人が来ることを伝えると4人がけのテーブル席に案内される。


 何も注文しないのもあれなので、わたしはコーヒーを注文した。


「ふぅ……」


 最初に配られた水を一口飲んで一息つく。


 ――ん?


 静かな店内ではあるけれど、なぜかお客さんたちの視線がある一方向に注がれていた。なにかあるのかと思いそちらに顔を向けると――


「うぎょっ――!?」


 それを見て思わず叫びそうになって慌てて両手で口をふさいだ。


 そこには黒と赤を基調にしたフリルのワンピースを着た女の子が座っていた。その子は公家みたいな化粧をした女の子だった。いや、正確に言うと顔を白い絵の具で塗ったと言ったほうがいいかもしれない。顔に塗られた白の所々に乾いてできたヒビが入っていて、唇や頬は赤く目元は黒く塗られていた。それだけでも異様なのだが、そこに輪をかけて彼女は奇異な行動をしていた。

 その女の子はテーブルの向かいに30センチくらいのクマのぬいぐるみを座らせていて、そのクマのぬいぐるみに向かってスプーンですくったアイスクリームを差し出していた。


 世の中にはいろいろ変わった人がいるけど、こういうタイプは初めてお目にかかる。


 女の子がぬいぐるみの口にアイスをねじ込み始めた。


 食べさせようとしている……?


 しかしぬいぐるみがそんなものを食べるわけがない。


 彼女はなかなかアイスを食べてくれないぬいぐるみに対して痺れを切らしたのか、空いている方の手でぬいぐるみの頭を鷲掴みにしてグイグイと更にスプーンをねじ込もうとする。


「うげぇ!」


 近くの席の男性が思わずと言った感じの声を上げた。


 その気持ち、わからなくはない。


 食べさせていたアイスは溶け出しぬいぐるみに染み込んでいく。それで気が済んだのか女の子は席を立って会計を済ませて店を出ていった。


 店員員さんは物怖じすることなく普通に対応していた。


 ――さすがプロ……


 女の子が店を出ていく際、微かに「朝倉くん」と聞こえたような気がした。その名は偶然にもわたしの調査対象となっている女性と同じ名前だった。


 ――まさか……ね?


 誰かが「はぁ……」と大げさなため息を付いた。店内に蔓延していたた異様な空気がスッと引いていくのを感じた。


 ――――


 女の子が店を出ていってから5分ほど経ったところで、明里がねねちゃんを連れて店にやってきた。


 初めて出会ったときと変わらないメガネとお下げが特徴的な女の子。明里がわたしの隣に座り、ねねちゃんがわたしの向かいに座る。


「久しぶりだね。ねねちゃん」


「お久しぶりです。楡金さん」


 ねねちゃんが深々と頭を下げた。紳士淑女の卵が通う万葉の生徒だけあって所作が堂に入っている。その姿を見ると真理絵ちゃんはよほど特別だったんだなと思ってしまう。

 子どもの頃から礼儀礼儀とうるさく育てるのもどうかと思うけど、それはわたしが口出しするようなことじゃない。


「それにしても驚きました。突然卯佐美さんに声を掛けられて、しかも着ていいる服が万葉の制服だなんて……。それに、卯佐美さんが万葉の高等部の出身だったことも凄く驚きました」


 2人はここに来るまでの間にでにいろいろ話をしていたみたいだ。

 どこまで詳しく話したのかは知らないけれど、正確には明里は万葉学園の高等部を卒業していない。いわゆる中退ってやつだ。


 本題に入る前にねねちゃんと明里になにか頼んでもいいよと進めるとねねちゃんは丁重に断ってきた。明里もそれに倣う。


 なので本題へと入ることにする。説明できる範囲で事情を説明して、真理絵ちゃんと連絡が取りたいとお願いした。するとねねちゃんはお役に立てるならと快諾してくれて、早速真理絵ちゃんに連絡してくれることになった。


 ねねちゃんは鞄からスマホを取り出た。彼女のスマホは真理絵ちゃんみたいにおかしなストラップが付けてあることはなく、連絡用に親に持たされたみたいな感じのすごくシンプルなものだった。


「――うん、そう。お願いできる? うん、それじゃあ」


 ねねちゃんが電話で真理絵ちゃんに要件を伝えた。


「一応伝えましたけど、真理絵のことだからうまくやれるかどうかは……」


「うん。気にしなくてしなくていいよ」


 真理絵ちゃんがどういう人間かはそれなりに理解しているつもりだ。わたしは申し訳なさそうにしているねねちゃんに心配しなくてもいいと伝える。

 それから、ねねちゃんとわたしは連絡先を交換して、なにか情報が入り次第こっちに連絡してほしいとお願いした。


「それじゃあ、今度また4人で食事でもしよっか? お手伝いしてくれたお礼もしたいしね」


 そう言うとねねちゃんはわたしの申し出を素直に受け取り「きっと真理絵は喜びます!」と明里の方を見た。


 自分のことより真理絵ちゃんのことを考えるあたりが彼女らしい。


 それからねねちゃんと別れ、わたしと明里は事務所に帰ることにした。


 万葉学園に通う生徒のほとんどは上納市の高級住宅街の方に住んでいる。一方でわたしの事務所がある場所はそっちとは真逆の方角にある。

 そんなわけで、万葉の制服を着た生徒がこっち方面に歩いているのがよほど珍しいのか、事務所に着くまで明里は街行く人の注目を浴びることとなった。


 …………


 明里と2人で夕食を食べている時にわたしの携帯が鳴った。それはねねちゃんからのメールで、内容は『朝倉さんという生徒はもう学校にいなかったそうです。明日聞くそうです』という、事務的な文章だった。取り敢えず真理絵ちゃんにはうまく伝わっているということだけは理解できた。


 ――さて、これが吉と出るか、凶と出るか……

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