10月12日
その報道を見て、なんと言うタイミングの悪さだと思わずに入られなかった。
――犯人はなぜこのタイミングで米座さんをターゲットにしたんでしょうか……
昨日、米座さんが言っていた「幹部の人間が犯人ではないか」という言葉。もしこれを口封じと考えるなら、米座さんの言葉の信憑性が増すわけだが、それは同時に同じ考えに至った僕への警告と捉えることもできる。
――そうなるとわからないのは、米座さんが幹部に戻ろうとしていたことをどうやって知ったのか、ですよね……
そして、何よりも最悪なのは、客観的に見れば僕もその容疑者のひとりだということだ。しかも今の僕にはそれを否定できるだけの材料を持ち合わせていない。ここで警察に捕まろうものなら完全にアウトだ。そうは思いたくはないが、もしこの状況を意図的に作り出しているのだとしたら。
――犯人はそうとうの切れものですよ。
…………
義妹の杏珠とは別の家に住んでいるから会話をする機会というのはほとんどない。2人で会うとなればもっぱら週末のカムライ教。ただし今日は杏珠の様子を見るため、平日にも関わらずカムライ教に足を運ぶことにした。
その理由は昨日の米座さんとの会話、そして今朝のニュース……
平日の夕方はカムライ教で最も人が集まる時間帯だ。だが、母が亡くなった後の集まりは酷いもので、そういう時間帯にも関わらず数えるほどしか人がいない。ステージの袖からホールを覗く。
杏珠は今日も祈りを捧げているのか――と思えば、今日はホールに向かって並べられたイスに座っていた。
葛西さんの話では母が亡くなった後、杏珠は暇があればカムライ教に足を運んで祈りを捧げているそうだ。教祖としての自覚があるのはいいことだが、そればかりというのも寂しい気がしてならない。
――遊びたい盛りでしょうに。って、これじゃまるで僕はおじさんですね……
「ふむ……」
しかしよく考えてみれば、おかしなことに気がつく。杏珠は母の予言のカラクリを知っている。天変地異に関する予言の再現など不可能で、それはつまり母の予言である『世界の終わり』が来ることはないことを知っているということ。だったら杏珠はその祈りに意味はないと知りながらも、敢えて祈り続けていることになる。
実際は『世界の終わり』は予言のメールではなく母の思いつきなのだが、そのことを杏珠は知らない。
――これはいったいどういうことですか?
ホールの扉が開いて、人が入ってくる。隣のクラスの朝倉君だった。そう言えば彼もカムライ教の信者だったことを思い出す。
今はもう幹部を去った半田さん――現在は離婚して朝倉さん――の子ども。僕も杏珠も彼女から彼のことをよく聞かされていた。
朝倉さんは息子に自分が幹部の人間であるということを明かしてはいなかったらしいけど、「将来は私のように教祖を傍で支える存在になってほしいわ。杏奈と私の関係のようにね」などと口にいしていた。
――まぁ、それはもう果たされなくなってしまったわけですが……
朝倉君が杏珠の隣に座ると何やら話を始める。楽しく会話に興じると言った様子ではない。2人で携帯を見たり、朝倉君に真剣な眼差しを向けて話をする杏珠を見て思った。
「もしかして杏珠は……」
家と学校とカムライ教のローテンションではきっと出会いなんてものはほとんどないだろう。今のカムライ教の信者には朝倉君位の年齢の子はいない。
「なるほど……」
それが、杏珠が神に祈りを捧げ続けている理由なのだろうか。そう思うとなんだか微笑ましくなった。
「義理とは言え妹ですしね。成就することを祈っていますよ」
そして、そんな杏珠が人殺しであるはずがない――と、そう思った。
…………
日が沈み、杏珠が事務所に入ってくる。僕の姿を見て「珍しいですね」と目を丸くする。それから杏珠は明日の夜にカムライ教のホールでイベントをやると言い出した。
突然何を言い出すのかと訊いても杏珠は詳しい内容を語ってはくれなかった。「とにかく楽しみにしててください。きっとたくさんの人が集まるはずですから!」と笑顔の義妹。
そのとき、僕のスマホが鳴った。父からだった。
電話に出ると、「警察が家に来たぞ! 何をやったんだ!?」と電話の向こうでかなり動揺している様子だった。こうなるだろうということは予想していたが、自分が思っていたよりも警察の動きが早い。父には理由を説明せず、心配ない大丈夫だとなんとか宥め今日は家に帰らないことを告げる。
幸いにも明日は学校が休み、ここに泊まればいい。
その後、家に帰る杏珠と葛西さんを見送り、僕はカムライ教で一夜を明かすことにした。
僕は警察に捕まるわけにはいかない。理由は探偵さんとの約束の日が近いからだ。連続殺人事件のことも気にはなるがどちらかといえば母のメールの方が気になる。
だからそれまではなんとしても逃げ延びなくては――




