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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第五章 日高考 編

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10月11日

 約束通り学校が終わったあと待ち合わせ場所へと向かい米座さんと合流。そこから2人で近くのファミレスへと向かうことになった。


 夕方のファミレスはそれなりに混雑していたが僕たちの座る場所がないほどではなかった。店員に案内された席に向かい合って座り、早速米座さんに話題をふる。


「それで、昨日言っていた話したいことというのは……」


 米座さんが神妙な面持ちで口を開く。


「坊っちゃん。ここ最近上納市内で起きている連続殺人事件は知ってるかい?」


 当然知っている。テレビや新聞で嫌ってくらい報道されているし、巷の人たちの会話のタネにもなっていたりする。むしろこの近辺に住んでいる人間で知らないと答える人間などいるんですか? と言った感じだ。


「もちろん知っていますよ。あと、坊っちゃんはやめてください。特にこういった場所では……」


 どこで誰が聞いているかわからない。


「そうだったね気をつけるよ」と米座さんがは苦笑い。「――それで、連続殺人に関する話に戻るけど、じつはこれまでの5人の被害者の内4人がカムライ教の信者だったということに気がついたかい?」


「え?」


 寝耳に水だった。


「そうか……その反応だと、どうやら知らなかったみたいだね」


「ええ、まぁ」


 カムライ教は『来るもの拒まず、去る者追わず』の方針を取っている。それゆえに、熱心な人でもなければ名簿に登録されることはないし、記載されている人物であったとしても脱退した瞬間に削除される仕組みになっている。そのすべてを記憶するなど不可能に近い。しかも、米座さんはだったと過去形を使ったということは、今はもう名簿に記載されていない人物ということだ。


「どうしてそんな事がわかったのか……そういう顔をしているね。――俺はカムライ教幹部に在籍していた当時、信者の入信脱退の管理を任されていた。だから覚えているんだ」


 だとしてもすさまじい記憶力だ。


「杏奈さんに顔と名前は覚えてあげなくちゃダメだと散々言われていたからね。ちなみに杏奈さんもすべての信者の顔と名前は一致させていたよ」


「そうだったんですか……」


 さすが母だ。素直に誇らしく思う。きっとそういうところも信者からの信頼を集めていた要因のひとつなのだろう。


「で、ここからが本題なんだが……と、その前になんか注文していいかい?」


「構いませんよ」


 米座さんは軽くお腹を満たせるものを注文する。ついでにと言って僕はコーヒーを頼んだ。注文が終わると、米座さんは「それで……」と真剣表情で僕を見据える。


「俺は今起きている連続殺人事件はカムライ教の人間が起こしているんじゃないかと思うんだ」


 彼の態度からそれが冗談の類ではないことはわかる。


「理由……訊ねてもいいですよね?」


「もちろんだ。ちなみにカムライ教の人間と言ったが、厳密には幹部の中の誰かだと思っている」


「そうですか……」


 思わず声が漏れた。米座さんの考えは、昨日僕が思い至った考えと同じだったのだ。


 そして米座さんが僕にその話をするということは少なくとも僕は疑われていないということだろう。すると、残る幹部の人間は葛西さんだけなってしまうが……


「あくまで可能性だけどね。被害者の中にカムライ教と関係のない人物も含まれているし、これは俺の考えすぎかもしれない。けどね、どうしても気になってしまうことがあるんだ。それはね――」


 米座さんが続けようとしたタイミングで注文したものが届く。届いたのはパンケーキ。髭面で甘いものとは無縁そうな見た目に似合わず彼はこういったものが好きだ。

 目の前に置かれたそれをナイフで一口サイズにして口へ運ぶと、先程とは打って変わって幸せそうな顔になる。


 僕はというとコーヒーに砂糖とミルクを入れ、一口飲んで息をついた。


 米座さんが二口目を頬張る。


 ――まさか話の続きを忘れてるなんてことはないですよね……


「ところで、気になることというのは?」


 僕が訊くと、米座さんはそうだったと話を続ける。


「えっと、今年の4月の終わり頃に、杏奈さんが警察の人に予言をしたのを覚えているかい?」


「…………」


 思わず固まってしまう。


 ここで僕は実は自分もそういう考えを持っていたと明かした。


「ほんとかい!? さすが坊っちゃん! 杏奈さんの血を引くだけあって聡明だ!」


 僕は声のトーンを押さえるようにと坊っちゃんはやめてほしいことを伝えた。


「いやいや。面目ない」


 米座さんは照れ笑いを浮かべながらパンケーキを口に運ぶ。


 だがそうは言っても自分自身のこの考えに疑問がないわけではない


「でも、これまで人の生死に関する予言は実現してきませんでしたよね?」


「それは過去の話さ」


「ですが、何のためにですか?」


「もちろん警察に杏奈さんの予言が本物だとわからせるためにさ」


 それはあり得ないような気がした。そもそも母の予言は幹部の人間が再現していたにすぎず本物ではないのだ。仮に本物だとわからせるにしても、たった一人の人間のために連続殺人を犯すなんてバカなことをやるだろうか。いくらなんでもリスクが高すぎる。


「俺がまだ幹部をやっていれば目を光らせることもできたんだが」


 こんなことなら幹部を辞めるべきじゃなかったと米座さんが嘆く。


 目を光らせる……


 今の僕にでもそれをやることはできる。


 ――心苦しくはありますが、ここはひとつすべてを疑ってみるべき……なんでしょうか。


「それでね、俺はもう一度幹部に戻ろうかと考えているんだ」


「え!? そうなんですか!?」


 突然の宣言。


 米座さんが戻ってくる――それは頼もしい限りだった。


 …………


 ファミレスを出るとすぐに僕と米座さんは別れた。


「ん? あれは……」


 米座さんの背中を見送っているとき知っている人が視界に入った。同じ高校に通う隣のクラスの男子生徒、逸見(いつみ)君だ。

 休みの日なら街中で同じ学校の生徒を見かけることは珍しくない。ただし、今は平日の夕方だ。彼が上納市内に住んでいるのならまだわかるが、僕の記憶が確かなら彼は上ノ木町に住んでいたはずだ。

 そんな事を考えていると、彼は米座さんと同じ方向に歩いて行き、いつしか雑踏に紛れて見えなくなった。

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