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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第五章 日高考 編

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10月2日

 その日、僕のクラスに転校生がやってきた。ツインテールのニコニコした女の子で、犬塚真理絵という名前だった。

 僕の通う高校は2学期制が採用されており、今年は10月1日から後期の授業が開始された。なので、この時期の転校生というのは別に珍しくはない。

 ただ、こんな田舎の高校に転校してくるという意味では珍しいと言える。しかも以前通っていた学校が上納市にある万葉学園だというのだからさらに驚きだ。

 その貴重さからかクラスメイトたちは休み時間ごとに転校生の席を取り囲んでいた。隣のクラスやほかの学年の生徒までもが廊下に集まる始末。


 一方、僕は誰が母にメールを送っていたのかをずっと気にしていた。そのため、その日の学校の授業はほとんど身に入らなかった。


 警察に相談してみるかとも思ったけど、母は別に誰かに殺されたわけではない。病気で死んだことは事実であり、一から事情を説明してメールの送り主を特定してほしいと言ってもまったく相手にされないだろう。


 じゃあどうするべきなのかとずっと頭を悩ませていた。


 …………


 珍しく平日の放課後にカムライ教に足を運んだ。


「どうしたんですか!? 何かあったんですか坊っちゃん!?」


 僕の来訪に葛西さんが目を丸くしていた。


 僕は珍しくここに足を運んだ理由は例のメール。ひとりで考えてダメなら他人の知恵を借りようととそう思ったのだ。しかし恥ずかしながら、僕には悩みを打ち明けられるほど深い仲の友人がいなくて、頼れる人は葛西さんくらいしか思いつかなかったのだ。


 僕は葛西さんにそれとなく話を振る。ただしウソの話。母が僕にノートパソコンを託したことを考えると、他の人には真実を知られてはいけないと思ったからだ。だから、母のメールのことは言わずに、僕のパソコンに迷惑メールが届いて困っているという風な体で相談した。


「あー、わかりますよそれ。ああいうのって、拒否しても拒否してもアドレス変えてくるからたちが悪いんですよね」


「ええ。そうなんですよ。だからすごい困るんですよね」


 僕は葛西さんの反応に話を合わせる。


「やり返したいって気持ちはわからなくないですよ。でもそういうのって気にしないのが一番ですよ」


「そうですか……」


 僕が欲しい情報を得るためには、自分が迷惑メールを受け取っているという想定では無理があったのかもしれない。半ば諦めかけたそのとき、葛西さんがおほんとわざとらしく咳払いをした。


「坊っちゃん。ここだけの話、そんなに悩んでいるんらひとつだけ手がないこともないですよ」


 葛西さんが口元に手を当て声を潜める。


 ――ここには僕しかいないのだからそんなことをする必要はないのですが……


「どうです坊っちゃん。ここはひとつ探偵を頼ってみては?」


 探偵……


 その発想はなかった。


 それを聞いた僕はいてもたってもいられずすぐにカムライ教を後にして、大急ぎで自宅へ戻り母のノートパソコンを手に上納市へと向かうバスに乗り込んだ。


 僕がこれから向かう場所は上納駅の近くにある楡金探偵事務所という場所だ。


 今はもう夜の6時を回っている。時間が時間だけに駅から最も近い場所にある探偵事務所を選んだ。バスを降りてから15分ほど歩くと目的の場所にたどり着いた。


 呼び鈴を鳴らすと入り口から出ててきたのは、背が低くて胸の大きな髪の毛を栗色に染めた女の人だった。あまり賢そうには見えない人だった。


「依頼ですか?」


「ええ。そうですけど……」


 まさかこの人が探偵だろうか。


 ……ちょっとだけ不安を覚えた。


 中に入るとそこはこぢんまりとしたところで、僕は応接用のソファに案内された。テーブルを挟んで女性と向かい合うように座った。


「今日はどういった依頼ですか?」


 そう訊ねてくるということは、本当にこの人が探偵みたいだ。


 事務所内がそんなに広くないことから、ほかに職員がいないのかもしれない……と思っていたら、髪の長いスラッとした女性がお茶を運んできた。「どうぞ」と、僕の前にお茶を置く女性。メガネの似合う聡明な感じが、どちらかといえばこっちのほうが探偵に見える。お茶を配り終えた女性はパーティションの向こうへと消える。


「あの……依頼は?」


「あ、すいません!」


 去っていった女性に目を奪われていた僕は慌てて鞄からノートパソコンを取り出した。探偵さんはちょっと不機嫌な顔をしていた。


「これなんですけど」


 パソコンの電源を入れメールソフトを起動させ、両サイドから画面が見えるようにノートパソコンを横にしてテーブルに置いた。


 それから僕は深い事情は話さずに「このメールの送り主を特定できませんか?」と件名に『divination of the spirit』と書かれたメールを指さしながら言った。


「どれどれ?」


 探偵さんが一瞬だけ画面を覗きこんで「あー」と悩ましげな声を出した。


「わたしこういうの苦手かも。あはは」


 苦笑いして頭を掻く。僕の不安は見事に的中してしまったようだ。


「それって特定は不可能ということですか?」


「うーん。チョット待ってね」


 探偵さんがフォルダ内のメールをいくつか確認する。そして腕を組んで少しの間唸って、何かを思い立ったように再度パソコンを操作する。すると、画面に英数字や記号がたくさん書かれたテキストファイルが表示された。それを見ながらまたまた腕を組みうーんと唸り始める。


 何を真剣に考えているのかと女性の方に目を向けると、腕を組んだことで強調される大きな胸に目を奪われドキリとしてしまう。失礼にならないように僕は慌てて視線をそらす。


 すると、先程お茶を運んできた女性がこちらにやってきた。その女性はよろしいでしょうかと断りを入れ探偵さんの隣に座った。


「ソースファイルですか?」


 パソコンの画面を見た髪の長い女性が探偵さんに言う。


「うん。このメールの送り主を特定してほしいっていう依頼なんだけど、ここを見るに、どうやらこのメールはビューティプロテクト社のメールアカウントサービスを利用しているみたいなんだよね」


「え?」


 この適当な文字列を見ただけでそんな事がわかるのかと驚く。前言撤回。この人は結構すごいのかもしれない。


「なるほど。となると、かなり難しいですね」


「だよね」


 2人が何をそんなに難しがっているのかわからず、どういうことなのか訊ねた。


「えっと、このメールの送り主を特定する方法は2つあって、ひとつはプロバイダに開示請求するって方法。ただしこれは、こっちが何かしらの被害を受けている場合じゃないと基本的に申請が下りない。さっき適当にメールの内容見た感じだと殺害予告とかがあるわけじゃなさそうだからぶん無理。

 で、もうひとつはサーバーにハッキングを仕掛けて、このメールアドレスで登録されているアカウントの情報をぶっこ抜くって方法。けどこのアカウントはビュティープロテクト社っていうところのアカウントで、その会社は全国でもトップレベルのセキュリティを誇るIT関連の会社なんだよ。おそらくハッキングは不可能」


「つまり相手を知る方法はない。ということですか?」


「申し訳ないけどそうなっちゃうかな」


 探偵さんが言葉どおり申し訳なさそうに言う。


「――待ってください。できるかもしれません」


 すると、隣の女性が探偵さんを制止する。


「え?」「えぇ!?」


 僕と探偵さんが同時に驚く。


「いやでも、さすがに相手が悪いような」


「八重様に迷惑をかけるつもりはありません。やらせてください!」


 真顔で探偵さんを見つめる女性。しばらく見つめ合いが続き探偵さんのほうが折れる。


「わかった……わかったよ。それじゃあこの件は明里に任せるね」


「はい」


「というわけで――」探偵さんがこっちに向き直る。「この依頼受けることにします」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 勢いよく頭を下げると、「ただしいくつか条件をつけます」と髪の長い女性が注意してくる。


「まず、この依頼は時間がかかるということ。最低でも結果が出るまで2週間ほどかかります。それから、こちら側に危険が迫った場合調査は即打ち切らせてもらいます」


 2人の会話を聞いていた限りこの件は相当難易度が高いことが窺えたので、それは仕方なのないことだと割り切るしかない。


「問題ありません」


 ほかに頼る宛もない僕にとっては相手の条件を飲む以外にない。


「それじゃあ、契約書を作りますね」


 探偵さんが席を立つと、「あの、メールをコピーしても構いませんか?」と髪長の女性が話しかけてきた。

 このメールがなければ仕事に支障をきたすというのなら断る理由はない。僕は二つ返事で了承した。


 それから依頼の契約書にサインし、データのコピーが終わったノートパソコンを鞄にしまい探偵事務所を後にするのだった。


 …………


 事務所を出ると、駅周辺の夜の街が人工的な明かりに照らされていた。


 果たしてどんな結果になるのだろうか。


 期待に膨らむ2週間はきっと長く感じることだろう――


「にしても、依頼料って結構かかるんですね……」


 そんなことを思いながら帰途についた。

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