プロローグ
僕が初めてカムライ教に連れてこられたのは中学に上がったときです。父はどうしていきなり僕をこんなところに連れてこようと思ったのか不思議で仕方ありませんでした。それまで父がカムライ教の信者だという話は聞いていなかったし、僕自身宗教なんてものにまったく興味はありませんでしたから。
いったい何があるのかと思ってみれば、僕が連れて行かれた場所は信者たちが集うホール――ではなく事務所。そこには綺麗な女性がいました。その人は杏奈と名乗りカムライ教の教祖だと僕に告げました。
そして……、「あなたの母です」とも……
わけがわかりませんでした。これから僕の母になるという意味かとも思いましたがそうではありませんでした。彼女ははっきりと生みの親だと言ったんです。
何かの冗談かとも思いましたけど父も杏奈さんにも冗談を言っているような雰囲気ではありませんでした。
僕はこれまでずっと、母は僕を生むと同時に他界したと聞かされていたので、杏奈さんのその言葉を素直に受け入れることはできませんでした。
杏奈さんはそれでもいいと僕に言いました。ただ、知っておいてほしかったのだと……
――――
それから僕はカムライ教の幹部の人たちの手伝いをするようになりました。
杏奈さん……つまり母にやってみないかと誘われたんです。断ることもできたのですが、僕は母の申し出を素直に受けることにしました。なぜ彼女の申し出を受けようと思ったのか、その理由はもう覚えてません。
手伝いを始めて幾日か経つと、僕の中で杏奈さんが母親であるという事実を少しづつ受け止められるようになっていきました。
そして、手伝いを始めてから数日後に行われた母の『予言』には正直驚かされました。
なにせ、母が信者たちに向けて未来に起こることを発表すると、近い内に本当にそれが現実になったのですから。もし本当に僕と杏奈さんが母子なら、この僕にもその能力が……なんて思っていたのも束の間。僕はすぐにそのカラクリに気づいてしまったんです。
母の予言は実際には予言ではありませんでした。それはただ母の言った内容を幹部の人たちの手で再現していただけだったんです。しかも母には伏せた状態で。つまり母自身は自分の能力を信じて疑っていなかったというわけです。
残念な気持ち半分、現実なんてそんなものだという気持ちが半分――
――――
僕がカムライ教で手伝いをするようになってから1年ほど経ったある日、母がカムライ教に見知らぬ女の子を連れてきました。その子の名前は杏珠。母の養子だと紹介されました。
僕はこのとき初めて杏珠の存在を知ったのですが、母は以前から養子をとっていたんです。
実の息子である僕がいるのになぜ養子などとったのかと母の行動は理解に苦しみました。しかしその理由もすぐに判明します。
母がカムライ教の教祖になる以前は母の父、つまり僕の母方の祖父が教祖を務めていて、学生時代の母はそれが原因でイジメに近い行為を受けていたそうです。
味方になってくれる良き友人が2人ほどいて、その人たちが母を守ってくれていたらしいのですが、それでも結構な目に合っていたらしいです。
だから、そんな辛い思いを僕にさせたくないと考えた母は、実子である僕の存在を隠すことにしたのです。現に僕が教祖の息子だと知っている人間は、父と杏珠と幹部の3人だけです。ちなみに杏珠が養子だということを知っているのも僕を含めて6人――僕、父、杏珠、葛西さんに元幹部の2人――です(全員がほかの誰にも口外していない場合ですが……)
そうして、母は離婚して僕の存在を遠ざけることで僕が教祖の息子だということが露呈することを避けたわけです。しかしそうなると出てくるのが跡継ぎ問題です。子どもがいないまま母が亡くなると事実上カムライ教は終わってしまいます
そういった事態を避けたかった母が出した結論が養子を迎えるという案で、杏珠が迎え入れられることになったわけです。
杏珠が教祖の娘として育てられたら、今度は彼女が学校でいじめられてしまうんじゃないか――とも思いましたが、それは自分の子ども優先しようとする身勝手な親心なのだろうと勝手に解釈しています。結果的に万葉学園に通う杏珠がいじめられているという話は聞かないので良しとします。
そんなこんなでいろいろ複雑な事情を聞かされたわけですが、その後はごくごく普通の毎日が続いていきました。
3年後、母が自らの死を予言するまでは……




