蛛ス繧翫?蟷ウ遨
目が覚めると体がものすごくだるかった。ずぶ濡れになったせいで風を引いたのかもしれない。
「えっ!? あれっ!?」
どういうわけかベッドの脇に朝倉くんが立っていた。
――なんで? どうして? そもそも朝倉くんて私の家知ってたっけ……?
風邪を引いたときは少しでもなにか食べたほうがいいよと語る朝倉くん。そして朝倉くんが取り出したのはできたてのおかゆだった。
朝倉くんお手製の……。だったら食べないわけにはいかない。私がスプーンに手を伸ばそうとすると、朝倉くんが食べさせてあげるよと言い出した。温かなお粥を匙ですくってふーふーと冷ましてからこちらに向かって差し出してくる。
私はあーんと口を開けて朝倉くんの突き出したそれを頬張った。美味だった。
お粥を食べ終わると今度は朝倉くんが薬も飲んでおいたほうがいいよと言って私に錠剤を差し出した。
何の疑いも持たずにそれを受け取って、飲む――
そして彼は言う、
「戸浪さんを殺した記念に今度デートしよう!」
「で、デデデデデ、デート!?」
顔カッと熱くなる。これは熱のせいじゃない。
私は壊れたおもちゃみたいに首を何度も縦に振った。
「それじゃあ約束」
そう言って差し出される手。
――握手? 指切りじゃなくて?
でも、こういうチョット抜けているところも大好きだ。だから私はその手を握り返した。
でもなんだろう……
その手はザラザラでゴワゴワしていた。
…………
寝て起きたらデートの日になっていた。待ちに待った朝倉くんとの初デート。めいっぱいおめかしして、香水を使って大人な自分を演出する。歯も磨いて準備は万端。
「それじゃあ、レッツゴーだよ!」
待ち合わせ場所は上ノ木にある寂れた公園。私はそこで朝倉くんの到着を今か今かと待っていた。
いつになったら現れるのかそわそわしていたら、さっきからここにいるんだけどねと彼の声が聞こえてきた。
「どこ? どこ?」
私は彼の姿を捜した。すると、驚いたことに朝倉くんは私のカバンの中から現れたのだ。
「とんでもマジック!?」
そして2人で上納市へ向かった。
――――
朝倉くんと手をつないで街中を歩く。すれ違う人たちがみんな私たちに釘付けになる。
羨望の眼差しを受け、気分は悪くない。朝倉くんはちょっと照れているようだ。
――もう、シャイなんだから。でも、そういうとことも好き!
お昼は高級住宅街との境にあるちょっと小洒落た喫茶店。朝倉くんは結構無理しているみたいだった。
私はどのお店でもいいんだよ。高いとこ連れてけなんていう性格のネジ曲がった意地の悪い女じゃないもの。牛丼屋でもファミレスでもどこでも同じ。大切なのはどこで食べるかじゃない誰と食べるかだ。
でも、せっかく朝倉くんが連れてきてくれた場所だからね、今さら変更はしない。
お店の中はちょっぴり大人なん雰囲気な感じだった。メニューはそこまで高くない。言ってしまえばファミレスのメニューにちょっと足した程度。
朝倉くんの金銭感覚がまともでよかった。朝倉くんは将来いいパパになってくれそう……
――パパ!? キャー!! 私ってば気が早い!
ご飯がを食べ終わった後に運ばれてきたのはアイスクリーム。
朝倉くんが美味しそうだねって言いながら私を見つめる。
――だったら自分も頼めばよかったのにね?
え? これを2人で食べるの? そういうこと? それじゃあ……
「はい、あ~ん」
この前おかゆを食べさせてくれたお礼だよ!
私の差し出したアイスを美味しそうに食べる朝倉くん。その顔を見るだけで私は幸せだ。
――ああ、きっと私は世界一幸せな女の子なんだ……
…………
幸せな時間――
永遠ではないからこそ、その幸せに価値が生まれる。楽しかった1日はもうおしまい。
バスに乗って上ノ木町で降りて家路をゆく。
無言で歩く2人……
歩調は自然とゆっくりになる。
きっと……朝倉くんもこの幸せな時間を終わらせたくないと思ってるに違いない。だけど、どんない遅くても歩き続ければ家にへとたどり着く。
家の前で立ち止まる私と朝倉くん。
じっと私の顔を見つめる彼……
私はゆっくりと目を閉じた。
唇にザラリとした感触が押し当てられる。
初めてのキスはバニラの味がした――
唇の感触が離れる。私は目を開けることができなかった。
このままお別れなんて嫌だ……。なら朝倉くんを家に誘おう。そしてさらなる関係へとステップアップだ!
私は勇気を振り絞ることにした。
「あのっ――」
目を開けると……
彼の姿はどこにもなかった――
「もう……ほんとに照れ屋さんなんだから……」
…………
家に入ると、お母さんとばったり出くわした。
「あんた……その顔。何やって……んの?」
お母さんは恐怖と驚愕が入り混じったような顔で私を見る。虐められて汚れた姿で帰ってきても興味を示さないお母さんが珍しい反応を見せたことにこっちは少しだけ苛立ちを感じた。
大体、私の顔がどうしたって言うのか。
顔に手で触れてみると、ベッチョリとした感触があった。
手を離して見ると、私の手は白と赤と黒が混じったような色が付着していた。
「なに……これ……」
慌てて洗面所へ駆け込んだ。
鏡を見る。
「なによ……。なんなのよこれっ!!」
私の顔はぐちゃぐちゃだった。
顔に絵の具で落書きしてそれが汗で落ちて色が混ざったみたいになっていた。鏡に映る私の顔はまるでピカソの抽象画を水で濡らしてふやかしたような絵になっていた。
――なに? なんなの? どういうことなの!? 私はこの顔で朝倉くんとデートして街中を歩いてたの!?
バシャバシャと勢いよく顔を洗うと、いつもの私に戻った。
「何なのよ……もう……」
自分に起きたことの意味がわからず、その場にへたり込んだ。
「はぁ……」
朝倉くんに嫌われちゃったんだ……。だから彼は突然いなくなった……。彼は今日一日ずっと我慢して私に付き合ってくれていたんだ……。
ボロボロと涙があふれる。
私は延々と声を出して泣き続けた。




