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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第四章 磯山みなよ 編

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10月5日

 朝起きると、ものすごい吐き気に襲われトイレに駆け込んだ。原因は絶対にあのクスリだ。しばらく続く嘔吐。吐けるだけ吐いたけど気分は一向にすぐれない。


 その日は学校を休むことにした。休むことをお母さんに伝えると、「そう、わかったわ」とそっけない返事が返ってきた。

 

 ――もしかしたら勝手にサボっても何も言われなかったんじゃないだろうか……


「ごめんなさい」


 聞こえるか聞こえないかくらいの声で言って私は自室に戻った。私はもう一眠りすることにした。


 …………


 次に目が覚めたのは午前11時過ぎ。


 体の調子はだいぶよくなっていた。


 特にやることもないので、ベッドに寝転んだまま、ノートパソコンを引きよせ電源をつける。


 動画投稿サイトを開いて面白そうな動画がないかあさる。ふと、昨日のことを思い出す。


 ――メール……


 次に殺される人のメールが送られてくる。そのメールの中に戸浪さんの名前を書いたメールを紛れ込ませれば、仮に私が戸浪さんを殺しても、連続殺人事件の犯人が彼女を殺したと勘違いさせることができるんじゃないかって思った。

 あのときは、絶対やれると心の底から思っていたけれど、寝て起きたらやる気が完全に失せていた。

 冷静になって、自分はなんてバカなことをしてしまったんだろうと後悔の念に苛まれる。昨日の私はどうかしていたのだ。何もかもあのクスリのせいに違いない。


「ああ、どうしよう!」


 問題は朝倉くんに送ったメールだ。


 つい勢いであんなことをしでかしてしまったけど、今さらウソですなんて言えない。


 正義感にあふれる彼のことだから、きっとメールの件を戸浪さんに話しているに違いない。でも実際には彼女は死なないわけで、そしたら朝倉くんがどんな目に合うかわかったもんじゃない。


 ――だったら実行する?


 無理に決まってる。なにせ相手はあの戸浪さんだ。腕っぷしで敵う相手じゃない。


 ――そしたら朝倉くんはどうなるの? あのとき彼は私を守ってくれた。だったら今度は私が彼を守る番じゃないの?


 ああでもないこうでもないと考えながらパソコンの画面に視線を遣るとあなたへのおすすめ動画の中に『今、イジメを受けているキミへ』というタイトルの動画が表示される。


「なに……これ……」


 ――まさか、インターネットにまで私がイジメを受けていることがバレているの?


 サムネイルは、サングラスを掛けたアロハシャツの男性がこっちに向かって指をさしている。投稿日は昨日になっている。今は10月で季節感のズレを感じる格好だ。


「……見てみるだけなら」


 私はその動画をクリックした。


 …………


 イッツミー! イツミー! ようこそイツミチャンネルへ!


 今回の動画のテーマはタイトルの通り『イジメ』だ!


 この動画をクリックした人は、おそらく今現在イジメを受けている人だろう。そうでない場合は常連さんかな?

 ともかく、今からイジメを受けているキミのためになるアドバイスを送るとしよう! そのアドバイスとはズバリ!! 一発でイジメを解決する方法だ!!


 それは――


『今キミを虐めている奴を殺すことだっ!!』


 殺したら犯罪者になってしまう?


 チッチッチ――学校でイジメにあっている人間は基本的には未成年だ! 法がキミを守ってくれるから心配なんてない。


 さらに、学校も君を守ってくれるはずだ。


 ……どうしてそんな事がわかるのかって?


 今この動画を見ている人の中には学校に相談した人もいるんじゃないか? なのに何の進展もない、むしろ学校はイジメの事実を認めようとしない、そうだろう?


 だったら逆にそれを利用してやればいいのさっ!!


 キミが自分を虐めてくる人間を殺したとする。殺人事件になれば当然警察が介入するだろう。そうしたら真っ先に疑われるのはイジメを受けていたキミだ――


 だがしかぁし!!


 それが露呈した場合、芋づる式に学校がイジメの事実を隠していたことが明るみになってしまう。学校側はなんとしてもそれを阻止しようとするだろう。つまり学校側は警察の目がキミに行かないようにするはずなんだよ!


 どうだい? 少しはやる気になったかい?


 ――ん? まだ踏ん切りがつかないって?


 キミは何もせずこのままイジメを受け続けるつもりか!? イジメを受けていた者の末路は哀れと聞くぜ? 部屋に閉じこもって陽の光も浴びずに、細く青白いもやしのような体になって、外に出れば他人の目、顔色に怯えながら生活する日々。大人になってもそれは簡単に変わらない。きっと周囲の人間たちはキミのことをより気持ち悪がるだろうねぇ。そうして負の連鎖は続いていく……


 一方でイジメをやっていた者たちはキミをイジメていたことなんかとうに忘れ毎日充実した日々を送るだろう。それなりに出世してあたたかい家庭を築く。キミとは真逆の人生だ。


 いいのかそれで!? 悔しくはないのかそれで!? 何を恐れることがある!?


 ネットで特定されることを恐れているのか!? ネットの住民はイジメの被害者には比較的寛容だぞ。キミの顔が殺人者としてネットに拡散されても、その背景にイジメがあって、キミがその被害者とわかれば、彼ら手のひらを返したように「いじめられてたんなら仕方ないよね?」となるに決まっている。


 ――もう一度言う!! イジメを解決したければ殺せ!!


 誰もキミを助けてなどくれはしない。そういう人間がいたとしてもできるのはあくまでサポートが限界だ。

 真にイジメを解決するにはキミ自身が動かなければならない!! キミが現状を変えようと努力しなければならない!!


 もしも殺せないというのなら、相手の住所を特定して家に火でも点けてやればいい。


 そうやって、現状を打破することこそがイジメを解決するための最善の近道だということを肝に銘じておけ!!


 というわけで今日はイジメについての話をしたわけだが、最後にイジメを受けているキミに魔法の言葉を贈ろう。


 すべての責任はオレが取る!! 以上――


 …………


 ……結局最後まで見てしまった。


 ――バカみたい……そんなのできるわけない。


 そもそもそれができるなら最初からこんなことになってない。


 何が『責任はオレが取る』だ。どこの誰かもわからない人にそんなことを言われたって「うんわかった。やってみよう!」なんてなるわけない。もしそんな事ができる人がいるとしたら、その人はどうかしてる。


 このサイトは動画を閲覧している人の数で収入が得られる仕組みになっているということは知っている。きっとこの人は過激な発言をすることで再生数を稼ごうって魂胆なんだ。


 評価を示す部分は約7割の人が高評価を付けていた。信じられなかった。


 私は……


 ほんの少し考えて『高評価』のボタンを押した。


 ノートパソコンを閉じベッドの脇の台に置く。


「はぁ……」


 動画を見るのをやめた途端にさっきまでの憂鬱な気持ちがぶり返してくる。いくら現実逃避したって朝倉くんにメールを送ったことがなかったことになるわけじゃない。


 どうしよう……どうしよう……!?


 心が押しつぶされそうになってる。


 私は救いという名の現実逃避を行うためにサイドテーブルに追いやったノートパソコンにもう一度手をのばす。それを引き寄せる際にカサリとなにかが床に落ちた。


 それは更衣室で拾った例のクスリ。


 私はそれに手を伸ばした。


「はは、アッハハ――」


 イタいのはヤだけど、これなら苦しまずに死ねるのではないか?


 そんな考えが頭によぎる。


 ――朝倉くんごめんね……


 心のなかで彼に謝罪する。


 自分はどうしようもない人間だ。だから虐めらるんだ――


 私はこの世界にサヨナラを告げることにした。


 クスリを抜き出して口の中に放り込んで噛み砕いた。咀嚼すると甘い味が口いっぱいに広がった。細かくなってすぐに溶けたそれを唾液と一緒に嚥下した。


「ぐッ――ガ……げ」


 途端に息ができなくなった。


「――ッ、――ッ」


 水を吸ったスポンジを上から押さえるみたいに、全身から汗が滲み出す。


 こんなのおかしいよ!? 普通に苦しいじゃん!!


 酸素を求め口をパクパクしても息が吸えない。苦しくてベッドの上をのたうち回る。


 ――死ぬ! 死ぬ!! 死んじゃうよ!?


 散々暴れまわって、いつの間にか私の意識は途切れた。

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