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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第四章 磯山みなよ 編

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10月3日

 私が虐められるようになったのは学年が上がって戸浪さんと同じクラスになってから。私は特別悪いことをしたつもりもないし、戸浪さんを怒らせるようなこともしたつもりもない。だけど私が選ばれた。そうなってしまった。


 ――どうして私なんだろう……


 こんな事言いたくないけど、人間なんて私のほかにもいっぱいいるのに。


 ――ねぇ……どうして私なの……?


 …………


 お昼の時間。私は戸浪さんに髪の毛を引っ張られながらどこかに連行される。


「痛いです! 痛いです!!」


 私の言葉を無視してズンズンと進む。髪の毛がブチブチと抜ける感触が頭から伝わってくる。廊下にいるほかの生徒はみんな見て見ぬふり。目が合いそうになるとふいっと顔を逸らされる。


 そうして連れてこられたのはトイレだった。髪をつかむ戸浪さん手により一層力が込められると、私はうつ伏せに床に引き倒された。


「あだっ!?」


 顔面を勢いよく打ち付けてしまい、鼻にツンとした痛みが走る。


 頭を上げると床にポタポタ赤い点ができあがった。


「ぁ……」


 鼻血……


「玲香! 持ってきたよ!」


 背後から美守さんの明るい声が聞こえて来た。戸浪さんが私の頭の直ぐ側に立つ。


 蹴られる――!!


 歯を食いしばりきつく目を閉じ身構えると、ボトボトと何かが床を叩く音が聞こえてきた。そして最後にコンッと軽い音。


 ゆっくりと目を開ける。


 たまご……からあげ、ご飯粒に、プチトマトが散乱していた。


 そして……空になった私のお弁当箱。


「う、そ……」


「はい! 今日のアンタのお昼だよ!」


「むごっ!?」


 戸浪さんが私の髪の毛をつかむと、床に落ちてたからあげに向かって押し付けられる。


「ほらっ! アンタの弁当なんだから食べなよ! 食べないと午後からの授業つらいでしょ!?」


 トイレの床に落ちたものなんて食べられるわけない!


「お願い! もうやめて!」


 なんとか顔を上げて懇願する。


「それ食べたらやめるからさっさと食えよ!」


「うぐっ! ゲホッ――!」


 戸浪さんの足が脇腹にめり込んだ。


「さっさと食えって! こっちだってお昼まだなんだから!」


 そんなのこっちの知ったことじゃない。


 お昼がまだなら私のことなんか放っておいてさっさと食べに行けばいい――なんて口が裂けても言えなかった。


「だって……トイレの床に落ちてるのなんて……無理だよ」


「そんなん知るかよ! アンタが病気になろうが死のうがどうだっていいんだよこっちは! つぅか口答えするな!」


 また床に顔を押し付けられた。まるで私の顔で床を掃除するみたいに頭を擦り付ける。


 ここがトイレの床だってことを意識すると気分が悪くなってくる。


 グリグリ、グリグリ。


 なすがままになっていると、胃の奥から何かが込み上げてる感覚に襲われる。


 あ、マズい! ――って思ったときにはもう遅かった。


 私は嘔吐していた。


「うわっ!! こいつ吐いた!?」


 戸浪さんが瞬間的に飛び引く。


「はぁ……マジでシラけるわ、そういうの。もういいや。茜、行くよ」


 そう言って戸浪さんは美守さんと一緒にトイレの外へ出ていった。


「うっ……うぐぁ――」


 また吐いた。2度目はほとんど胃液だけだった。


「あ……」


 トイレの床には、鼻血とお弁当の残骸と吐瀉物……


 それを見て涙が出てきた。泣くことしかできなかった。


 ほかの生徒がトイレに入ってきて、目が合った。


 その人は引きつった表情で何も言わず出ていった……


 死にたい……けど死ねない……


 そんな勇気私にはないから。


 その後は気分が悪いからと言って早退することにした。先生はさして興味もなさそうにあっさりと認めてくれた。


 …………


 家路をトボトボと歩く。田舎町のお昼、外を歩く人の姿はない。家から学校までの途中に閑散とした商店街の中を歩く。上納市の都会化が進むにつれてこっちの商店街は寂れていく。現にほとんどの店がシャッターが降りている状態。そんな中でもやって行けているのは、近隣住民とのつながりが強い生鮮食品を扱う店と、学校の備品を卸している服屋や電気屋くらいだ。


 商店街の途中花屋の前を傍を通ると無意識に足を止めて眺める。そういえばここも私が子どもの頃からずっと続いている店のひとつだ。


 店先にいろいろな種類の花が並ぶのを見て、荒んだ気持ちが少しだけ穏やかになる。


 だけど私は知っている――その裏には花屋の並々ならぬ努力があるってことを……


 私のお母さんは一時期このお花屋さんで仕事をしていた事があった。当時小さかった私は時々お母さんの仕事場に付いていったことがった。

 お母さんの仕事はお客さんの対応だけじゃなくて、花の仕入れや手入れなど多岐にわたっていた。

 店に並べられた花を定期的にチェックして水をやったり、枯れた花や萎れた花はすぐに廃棄。ダメになった花を店先に陳列しておいたらお客さんの購買意欲が削がれるから。

 それから売れ筋のチェック。売れない花は置かない。端っから入荷もしない。そうやって洗練され、店先にはキレイな花、売れる花のみが並ぶ。


「いらっしゃいませ!」


 元気な挨拶とともに若い女性が顔を出す。視線が合い女性が私の身なりを見て渋い顔をした。


 彼女の目に映った私は萎れた花……社会から爪弾かれ、捨てられる存在。


 その視線から逃れるように、顔を伏せ一目散に走った。


 …………


 不自然に汚れた制服で帰ってきたのにお母さんはなにも言わなかった。ただ、汚物を見るように眉をひそめて私を見るだけ。

 私は自分が虐められてることを両親には話していない。でも、今のお母さんの反応を見ると、薄々感づかれているのかもしれない。そして、私はお母さんに嫌われているのかもしれない。


 イジメはよくない―― イジメはダメだ――


 そういった声はよく耳にするし、ネットとかでもそういった意見が多数派。でも実際にイジメをしている人を目の前にしてそれが言えるのかな?


 もちろんみんながウソを言っているとは思わないけれど、言うだけなのと実際に止めるのとではわけが違う。


 自室に入ると着替えてからベッドにうつ伏せになった。


 ベッドの側のサイドテーブルに置いたノートパソコンを引き寄せ電源をつける。


 動画サイトに投稿されている動画を適当にあさって再生する。


 このときだけが学校であった嫌なことを忘れられる時間。おしゃべりしながらゲームをする投稿者。たまに間抜けなことをしでかしてつられて笑うのが私の唯一の楽しみと言えた。


 でも今日は全然動画に集中できなかった。戸浪さんの虐めは日を増すごとに酷くなっている。


 ――もう……耐えられないかもしれない……


「!?」


 ベッドの上に座らせてたクマのぬいぐるみがコテンと倒れた。横向きに倒れたクマの手が私の腕にあたってちょっとビックリした。

 なんだか、私の腕に手を置いて「元気だしなよ」って言ってるみたいだった。


「お前だけだね。私を慰めてくれるの……」


 ちょっとだけ違った。


 きっとこの場に朝倉くんがいたら彼も同じようなことをしてくれたに違いない。


 つぶらな瞳のクマのぬいぐるみが朝倉くんの笑顔とがダブって見えた。


 ぬいぐるみをそっと寄せ胸に抱く。


「だれか……たすけて――」


 自然と涙がこぼれた……

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