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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第四章 磯山みなよ 編

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プロローグ

 夏休みの登校日。家に帰ろうとしたところで私は戸浪さんに呼び止められた。


 ――また、か……


 ちょっとついてきてと命令される。断れば何をされるかわからない。だから……従うしかなかった……


 ――まぁ、ついて行ったとしても結局は同じなんだけど……


 連れてこられたのは空き教室。私はそこに置かれていたイスに無理やり座らされた。


 それから後ろ手に縛られ、両足も縛られ、体を背もたれごとロープでぐるぐる巻きにされてしまった。


 ――これに何の意味があるかはわからない。


 ――これの何が楽しいのかもわからない。


 私はイスごと移動させられ、一番日当たりがいい場所で放置された。8月の強い日差しが窓越しに差し込み、私の体を容赦なく焦がすかのよう。窓が閉め切られた教室内の温度に加えて、夏の日差しをもろに受ける私……


「とりあえずさ、アタシが戻ってくるまでそのままでいてくんない?」


「あの、これに、何の……意味が?」


 言った瞬間。戸波さんがギロリと睨みつけてくる。


「あんたに質問する権利なんてないよ」


 そう言って、戸波さんは教室にある掃除用具入れの中から雑巾を持ち出してきて、それを私の口に突っ込んだ。


「いやぁ! うぐっ――!?」


 汚い。臭い。


「テープ!!」


「はいはーい」


 戸波さんが叫ぶと、一緒にいた美守さんがダクトテープを取り出し、それで雑巾ごと私の口をグルグル巻にする。髪の毛がテープにくっついてもお構いなしに引っ張る。


 どうしてこんな痛いくて汚くて辛い思いをしなければいけないのか。


 こっちの事情なんか知ったこっちゃないと言わんばかりに、美守さんはグルグルとテープを巻き続け、そのまま鼻まで覆われてしまった。


「んー、んー!!」


「ほんじゃねー」


 戸波さんは手をヒラヒラさせながら教室を出ていった。美守さんもそれに続いて外へ。


 私はひとり教室に取り残された――


 ロープを解こうと必死に手足を動かしたり身体を捩ったりした。だけど効果はない。僅かな隙間からかろうじて呼吸ができるものの、それをするたび雑巾の臭いが入ってくる。雑巾が口の中の水分を奪っていく。乾いていた雑巾が徐々に湿っていき臭いが増していく。


 強い日差しを受け続け、体中にじんわりと汗がにじむ。うまく呼吸ができなくて苦しい。頭もボーっとしてくる。それから喉の渇きも感じる。唾液を飲み込めば少しはマシかも知れない。だけどそれは雑巾の汁を飲むのと同じだ。


 ――それは……嫌だ……


 それから何分くらいが経ったのか、喉の渇きが限界になってくると、私は唾液を飲み込んでみた。


「――んぉ、んぐッ!?」


 苦いような辛いような変な味がした。その味に思わず吐き気が襲ってくる。胃酸が逆流し、喉が焼けるような痛みに襲われる。


 私はどうしてこんな事になっているのか……


 2人のイジメが日を増すことにエスカレートしていく……


 いつか私は……あの2人に殺されるんじゃないだろうか……


 さらに時間が経って、私は最大のピンチを迎えていた。


「んぁ……」


 尿意が私を襲う。


 水分もとってないし、汗もかいているのにどうしてこんなときに?


 暑さで体にうまく力が入らない。我慢できそうにない。


 ――早く戻ってきて!!


 この際お金取られてもいい、多少殴られてもいいから早く……


 この歳でお漏らしなんてヤダよ……しかも学校でなんて、こんなとこ誰かに見られら……


 特にあの2人に見られたら、また私が誂われる理由を与えてしまうだけだ。


 ――おねがい! はやく!


 そんな私の願いも虚しく……


 太ももの辺りがじわりと温かくなっていく。座部に広がって、ぼたぼたと床を打つ水音が聞こえてくる。


「んあ、ぁ……」


 最悪だった。けど、楽になった。


 これでもう……何もかもおしまいだ。


 2人が戻ってきたらさらなる仕打ちが待っているに違いない。写真に取られて校内にばらまかれるかもしれない。そうなったら私は学校中の笑いものだ。みんなから小便女と言われる日もそう遠くない。


 頬を涙が伝う。今の私の体のどこにそんな余分な水分があるんだと言いたくなる。だけど涙は止まらなかった


「磯山さん?」


 私を呼ぶ声がする。重い頭をゆっくりと上げるとそこにいたのは……


「…………」


 違った意味で最悪だった。そこにいたのは同じクラスの朝倉くんだった。


 私が密かに思いを寄せている男の子――


 好きな人にこんな姿を見られるなんて最悪だった。何よりも羞恥が勝り、どこかへ行ってと目で合図する。

 なのに朝倉くんは私に駆け寄り、何も言わずに手足と体を縛るロープを解いてくれる。


 私が戸波さんと美守さんからイジメを受けていることはクラスのみんなが知っている。だから、朝倉くんがこの状況を理解できていないわけがない。

 こんなことをすれば朝倉くんだってあの2人に何をされるかわからないのに、それでも彼は何も言わずにロープを解いてくれた。


 身体に力の入らない私がそのまま前に倒れそうになると、朝倉くんがちゃんと支えてくれる。


「大丈夫? ゆっくり立とう」


 朝倉くんは優しい言葉を掛けてくれながら、私の肩を両手で挟むようにつかみ体を持ち上げてくれる。そして教室の日の当たらない場所に移動してゆっくりと寝かせてくれた。


「痛いかもだけど我慢してね」


 そう言って、今度は顔の半分をぐるぐる巻きになってるテープを剥がしてくれる。後ろ頭の髪の毛が引っ張られてほんとに痛かった。


 雑巾が口から剥がれると、唾液が大量に溢れ出る。今の私にそれを飲み込む力はなく、だらしなく垂れ流すだけになった。


「あ、が……ト」


 お礼を言おうとしたけれど、うまく呂律が回らなかった。それから朝倉くんは無言で雑巾で濡れた床と私が座っていたイスを掃除しはじめる。


「あ……ぅあ……」


 ――それ……私のおしっこなのに……


 ――ただの水だと思ったのかな?


 そんなわけない、私のあの姿を見ればその液体が何かなんてすぐにわかるはず。


 ニオイだってそれなりにあるだろうし……


 彼は素手でそれを掃除していた。拭いて、水分を吸ったらバケツに絞ってを繰り返し、今度は水を汲んできて床とイスをキレイにする。


 普通できるかな、こんなこと……逆の立場なら絶対やらないと思う。例えそれが好きな男の子だっとしても……


 ――好きな……あ? もしかして……


 掃除を終えた朝倉くんが近くに来る


「先生呼ぶ? それとも保健室行く?」


「あ――」


 喋れなかった。


 伝えなくちゃいけなかったのに。


 すぐそこに戸浪さんたちが来てるよって――


 …………


 目の前で朝倉くんが戸波さんから暴行を受けていた。2人の興味が彼に向いたおかげで、私がお漏らししたことに気づかれてない。


 ――私のためにわざと殴られてくれているの?


「無視しろって言ったよな? なあっ!?」


 彼は何も言わず一方的殴られ続けた。少し離れたところで美守さんがニヤついている。私も同じように、床に倒れた状態でただその光景を見ているしかできなかった。そして、戸浪さんの足が朝倉くんの急所を思いっきり蹴り上げた。


 ヒ――ッ!?


 パァンというものすごく危険な破裂音が教室内に響いた。朝倉くんは声を発せずに急所を抑え床に倒れのたうち回る。そんな光景を見て、戸浪さんと美守さんはゲラゲラと笑う。


 2人はまるで悪魔のよう。


 ――ごめんね……私のせいで……


 涙で視界が滲む。

 

「やめろ!!」


 そのとき別の生徒が教室に入ってきて朝倉くんに駆け寄った。それが誰かは涙で滲んでよくわからなかったけど、男子生徒だということは理解できた。


 戸浪さんとその生徒が話を始め、最終的に「ちっ、うっざ。――行くよ茜」と、悪態つきながら戸浪さんと美守さんが教室を出ていった。


「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」


「うん。ちょっとビックリしただけ」


「ちょっとどころじゃねぇだろ!? めっちゃ冷や汗掻いてるじゃねぇか!!」


 朝倉くんがゆっくりと立ち上がって、こっちの方に来る。


「おい、もう無視しろって!」


 もうひとりの生徒の静止の声も聞かず、私の前でしゃがむ朝倉くん。そしてポケットから紐のついた布の袋みたいなのを取り出して床に置いた。


 ゆっくりと手を動かして目をこする。そこにあったのは紫色のお守りだった。そこには“神来”と刺繍されていた。


「ぼくは、もう助けてあげられないと思う。最低かもしれないけど……やっぱり、戸波さんは怖いから。でも、代わりって言ったらあれだけど、それあげるよ。気休めかもしれないけど……」


 言い終わると、朝倉くんは男子生徒と一緒にで教室を出ていった。手を動かしてお守りを握る。朝倉くんの温もりが伝わってくるような気がした。


 そして確信した。


 私たちは両思いなんだって……

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