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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第三章 早乙女聡 編

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10月14日 前編

 日高孝の話には納得がいった。そして合点がいった。


 朝倉勇から予言のメールの話を聞かされた段階で気がつくべきだったのだ。彼の携帯にメールを送ることができる人間は2人しかいないことに。日高孝の対応は署内の人間に任せ、自分と先輩は警察署を飛び出し急いで車に乗り込んだ。先輩は一度朝倉勇を自宅まで送っているので、家の場所はわかっている。目的地に向け深夜の道を駆ける――


 …………


「僕と朝倉君は同じ高校に通っているんです。田舎の小さな学校ですから、たとえ隣のクラスの生徒でも名字が変わったことくらいすぐに気づきますよ」


「生前の母は、ほぼ週に一度のペースで予言を行っていたんです。実際には母の予言ではなかったんですが……」


「幼い頃は僕も本当に母に予言の能力があるのだと信じていました。しかし、中学に入る頃に幹部見習いとして裏方の仕事をこなすようになったとき真実を知ったんです」


「実際は幹部の人間たちが母の予言を実行していただけだったんです。おかしいでしょう?」


「さすがに、誰かが死んだりとか、天変地異に関する予言は再現の仕様がありません。……ですから母の予言の的中率は八割弱に留まり続けたんです」


「それが却って真実味があるとかでますます信奉者を生む結果になったんです」


「半田さん――朝倉さんのことはよく覚えてますよ。彼女は古くからの母の友人のひとりだったそうです。ずっと側で母を支えてきたらしいですよ」


 以上が日高考が語った内容だった。


「つまり、先輩に予言した10月に起こる連続殺人を再現するために彼女は犯行を重ねていたということでしょうか?」


「さあな。だがそれは、本人に訊きゃわかることだ」


 朝倉紗耶子の家があるマンションに着くと、車を適当に止め階段を上っていく。303号室どうやらそれが彼女の家らしい。チャイムを鳴らす。家の中からドタドタと音がする。


「おい……」


 先輩が顎をしゃくる。


 もし彼女がこちらの動きに気づいているなら逃走の可能性がある。自分はマンションの裏に回り込むためその場を離れようとした、が――


 扉がガチャガチャと音を立て、


「はい?」


 パジャマ姿の女性が顔を覗かせた。朝倉勇に似てとても素朴な感じ。加えて薄幸そうな印象を受けた。


 彼女が朝倉紗耶子……


 警察手帳をかざし、任意同行を求める。彼女は素直に応じて、着替えをするから待ってくれと言う。その間自分はマンションの裏手に回り彼女が逃走を図ろうとしないかを見張った。しかし、そんなことをしなくても彼女はちゃんと玄関から出てきたようだ。


 日高孝の話を信じるならば、彼女が犯人である可能性はかなり高い。なのに彼女は日高孝同様かなり落ち着いた様子を見せていた。

 

 …………


 再び取調室。今回も先輩が話をする。日高孝のとき同様、最初にちょっとしたやり取りをして、被害者の死亡推定時刻と思われる時間帯に何をしていたのかを確認しようとすると――


「その必要はないです」


 朝倉紗耶子がピシャリと言ってのけた。


 まさか、言い訳せず素直に犯行を認める気なのか。


「おいおい、その必要があるかないかはこっちが決めることで――」


「そういう意味ではなくて、私のアリバイを証明してくれる人がいるんです」


「なん……だと?」


 証明してくれる――というのはどういう意味だろう。


 アリバイを証明する際、家族や友人などの証言は基本的にアリバイとして認められない。それとも、それを証明してくれる第三者がいるとでも言うのだろうか。だとしてもそれはあまりにも準備がよすぎではないか。


「――で、その人ってのは誰なんだ?」


 先輩が訊ねると彼女は自身に満ちた声でこう言った。


「楡金探偵事務所に行ってみてください。そこにいる彼女が私の無実を証明してくれます」


 その言葉を耳にした先輩が渋い顔を作った。


 …………


 楡金探偵事務所の呼び鈴を鳴らすと、顔を出したのは思いがけない人物であった。その人は、先週の土曜日だったか、歓楽街で聞き込みをしていた際に遭遇したあの女性だった。

 さらに驚いたのは事務所の職員と思われる女性もまた歓楽街ですれ違ったあの美人な女性だったのだ。


 自分と先輩は応接用のソファに座らされ、テーブルを挟んだ向かいに楡金さんが座る。卯佐美と名乗った女性は別の仕事があるらしく、自分たちにお茶を出した後姿が見えなくなった。


 結論から言えば朝倉紗耶子のアリバイは証明された。楡金さんからもたらされた情報もそうだったのだが、決め手となったのは先輩の携帯に掛かってきた一本の電話だった。


 それは美守茜の死を知らせる内容だった。


 朝倉紗耶子は現在署にて拘束中である。つまり彼女に犯行は不可能。最悪な形でのアリバイの証明となった……


 朝倉勇の予言によればメールが送られてきてから2日以内にそこに書かれていた人物が死ぬとのことだったが今日は3日目。だがこれはあくまで結果論。これまでが結果的にそうなっていただけで、これからもずっとそうであるという確証はなかったのだ。

 勝手な先入観にとらわれていた自分を恥じた。また、自分の中に朝倉紗耶子が犯人で間違いないという思い込みがあったことも反省しなければならない。


 …………


 電話受け、自分たちは一度署に戻り車を手配し現場に急行した。事件の現場となったのはカムライ教で、第一発見者は葛西さんだった。


 その彼は今事務所の椅子に座り、青ざめた表情で項垂れていた。最初に現場に駆けつけた警官によれば、葛西さんは電話の子機を握りしめたまま事務所で気を失っていたとのことだった。


「で、誰かに気絶させられたわけじゃないんだな?」


 先輩が確認すると、葛西さんは力なく頷いた。彼の話しによれば、宿泊用に設けられた部屋から白い仮面に黒いマントの人物が飛び出してきたとのことだった。その人物を追いかけるのも忘れ呆気にとられてしまっていた彼は、仮面の人物が出てきた部屋を覗いて美守茜の遺体を発見した。


「警察に通報している途中でその遺体の凄惨な状況を思い出し気を失ったと……」


「は、はい。恥ずかしながら……」


「いえ、無理もないと思いますよ」


 自分が現場に到着したときはすでに遺体は運ばれた後だったが、報告によればそれはもう凄まじい状況だった事は想像に難くない。


 両目が潰され、下腹部がくり抜かれて子宮が引きちぎるようにして取り出されていたというのだから。しかもそれは遺体の傍に落ちていて何度も踏みつけられていた痕跡があったという。これだけ聞けば嫌でもその異常さを認識できる。おおよそ常人の為せる所業とは思えない。

 そいて子宮を傷つける行為といえば戸浪玲香もそうだったはずだ。


「それで、昨日はその部屋に朝倉勇と美守茜が泊まってたんだな?」


「そうです」


 そうなると、俄然怪しくなるのは朝倉勇だが、その彼は連続殺人犯ではないとの結論が出ている。


「そういえば、現場にお守りって落ちてたんでしょうか?」


「はぁ? そんなもん必要ねぇだろ? なんせここには大量のお守りが保管されてんだから。なあ?」


 先輩の発言に対し「はい」と頷く葛西さん。


 ここはカムライ教の総本山。当然ここには販売前のお守りが保管されている。だが本当にそうなのだろうか……自分たちはとても大切な何かを見落としているような気がしてならなかった。


 …………


 現場となったカムライ教に続く坂道は完全に封鎖された。この道は脇道等が存在せず、登った先にあるのはカムライ教だけである。つまり封鎖してもほかに影響はない。この坂道が封鎖されたのには理由がある。

 坂道の脇の茂みから黒いマントと白い仮面、凶器の包丁が見つかったからだ。ここにきて、どうして犯人は証拠を残すようなことをしたのかが不可解であった。これ以上犯行を重ねるつもりはないという意志の現れなのか……。あるいは、また新しいものを買えばいいと思っているのか……


 その3点からはそれぞれ美守茜の血液が検出された。葛西さんの証言とも一致しており、犯人が身に着けていたもので間違いないということになった。

 そして重要なのはそのほかにも3人の人間の血痕が残されていたことだ。その3人の内のひとりは戸浪玲香のものとDNAが一致した。残りの2つの血痕はほかの被害者の誰かのものかと思われたが誰とも一致しなかった。

 被害者の中には一致する人物はいなかったのだが、データベースで照合した結果、ひとりの男性のものとDNAが一致した。


 その人物の名は磯山茂(いそやましげる)


 自分と先輩はその男に見覚えがあった。歓楽街で鳩場詩愛の聞き込みを行っていた際に楡金さんとトラブルを起こしていた男性だ。その後地面で伸びていたところを先輩に介助された男性。

 どうして彼の情報が警察のデータベースに存在していたのかというと、彼が歓楽街で未成年と淫行を働こうとしていたところ警邏(けいら)中の警官に捕まり、任意でDNAを採取していたとのことだった。

 当然ながら住所、年齢、電話番号などの個人情報も控えてある。自分と先輩を含めた数人の警官がその男性の家へと向かった。


 黒いマントにはその男性の血痕が付着していた――。こういうときの嫌な予感というものは得てして当たるものだ。

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