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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第三章 早乙女聡 編

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10月13日

 自分も先輩もかなり疲れが溜まっているようで、注意散漫なっていた。このまま張り込みを続けてもいても冷静な判断で対処できないと感じた自分たちは交代を呼び署に戻ることにした。自分と先輩は家には帰らず、署内で仮眠をとることにした。


 …………


「なんだって!? それは本当かい!?」


 課長の叫び声で目が覚めた。時刻は昼過ぎ、思っていた以上に長寝してしまったようだ。課長はどうやら電話にっ向かって声を荒げていたようだ。


「ああ、わかった。すぐに全員に通達する」


 その表情はいつになく真剣だった。


「あの、どうかしたんですか?」


「日高孝が見つかった――」


「ほんとですか!?」


 半分寝ぼけ状態だった頭が覚醒する。


「――んだが、見失ったそうだ」


「って、ええっ!? なんでですか!?」


「それが……日高孝を見つけたのは歓楽街の交番勤務の警官なんだけど、尾行中に、未成年の女の子を無理やりホテルに連れ込もうとしている男が現れてそっちを捕まえるのを優先したそうだ。」


「なんですかそれ!? 連続殺人事件の解決のほうが優先でしょう!?」


 いや、もちろん未成年淫行がどうでもいいと言っているわけではない。


「まあね。でも許してあげよう。彼の仕事はあくまで歓楽街の治安維持だ。連続殺人事件の解決に協力しても査定には響かないんだよ」


「そんな……」


「んで、日高孝は完全に見失ったのか? それともいなくなった方角はわかってるのか?」


 部屋に入ってくるなり先輩が言う。どうやら自分よりも早く起きて、外に出ていたようだ。


「応援要請を受けた警官が歓楽街中を捜し回ったらしいんだけど完全に見失ったらしい。ただ、女の子と一緒にいなくなったらしいね。それが彼を見つけるヒントになるかも」


「女の子、ですか?」


「ああ、さっきも言ったけど、ホテルに連れ込まれそうになっていた女の子と一緒にどこかに行ってしまったって話だよ。えっと……美守茜って言ってたかな女の子の名前」


「美守茜だとぉっ!?」


 先輩がものすごい声を上げる。


「どうしたんだい? そんな大声あげて?」


 先輩が携帯電話取り出しているのを見て、ピンときた自分は駆け寄った。


「まさか先輩!? 朝倉勇からのメールですか!?」


 携帯を覗き込む。


 そこには美守茜の文字。


 しかも――


「え!? 届いたのって11日じゃないですか!!」


 受信日を見て自分の目を疑った。


「ああ、米座吾郎に関する聞き込みしてた事あったろ? あのときな……」


 あのときは6人でバラバラに聞き込みをしていた。ちょうど先輩が一人になっていた時に受信していたようだ。


「ていうか、教えてくださいよ」


「言おうと思ってたんだが忘れてたんだよ。ほら、変な女の話で盛り上がっちまってたろ?」


 そういえばそんな事もあった。でもそれは完全に言いわけだった。


「でも、なんで交番勤務の警官は見ただけでその女の子が美守茜だってわかったんでしょう……」


 日高孝と一緒になって逃走しているのなら、名前を聞く余裕があったとは思えない。


「そうか……そういうことか」


「先輩どうかしたんですか?」


「いや、だいぶ前に予言のメールのことを教えてくれた女の子がいただろ? あの子“アカネ”って名前だったろ。んで、その娘はたしか『交番の人とも話した』って言ってたはずだ」


「つまりあの子が美守茜だったってことですか!?」


 交番の人とも話した。つまり交番勤務の人間は美守茜を知っていたということだ。


「う、うんん!!」


 課長の空咳が聞こえてくる。


「盛り上がってるところ悪いが事態は最悪じゃないかい?」


「え?」「ん?」


 ピンときていない自分たちに向けて課長が大きなため息をつく。


「いいかい? 杵島君の受けとった予言のメールに美守茜の名前が書かれてた。で、見失った日高孝はいま美守茜と一緒にいる。これがどういうことかわかるね?」


「あ――」


 加えてメールが来たのは11日。今はその2日後に当たる。予言のメールを信じるなら、美守茜は今日中に殺されてしまうということを示していた。自分と先輩は急いで日高孝の捜索に加わった。


 ――――


 日高孝を見失ったのは手痛い失態だった。


 必死の捜査にもかかわらずなかなか彼の足取りをつかめずにいた。日が暮れるに連れ、上納市に近づいているという台風の影響が色濃く現れると自ずと外を歩く人の数も少なくなってくる。


 完全に日が沈み辺りが暗くなると、街往く人の数がぐんと少なくなる。この状況は非常にまずい。人がいなくなるということは犯人にとって有利に働く。そう考えると気持ちばかり先走ってしまう。


 このまま美守茜は日高孝に殺されてしまうのか――


 そんなことを考えていたとき、先輩の携帯が音を鳴らした。


「俺だ。そうか……ああ、俺が着くまで引き止めておいてくれ。到着したらまた連絡する」


 電話を切った。


「葛西からだ。カムライ教に日高孝が現れたそうだ」


 日高孝がカムライ教に……


 長かった事件がようやく終りを迎える――


 自分たちはカムライ教へと急行した。


 …………


 カムライ教の駐車場に到着したのは夜の11時過ぎだった。


「なんですか……これ?」


 その光景を見て、驚かずにはいられなかった。カムライ教の駐車場がすべて埋まっていたのだ。


「わからん……が、自発的に避難しに来てるのかもな」


 先輩も唖然としている様子。


 現在、台風による避難勧告は出されていないが、ホールの窓から光が漏れていることから、中に人がいることは確実のようだ。裏口の方から誰かが歩いてくるのが見えた。先輩が車のライトを上向きにすると、その人物は光を遮るようにして腕で顔を覆った。


「あれが……日高孝」


 自分と先輩は車を降りて、両サイドから挟むようにして彼に近づく。強風に煽られながら、ゆっくりと、確実に地に足をつけて。会話の届く距離まで近づく。


 彼が顔を覆っていた腕を下ろすと、確かにその人物は監視カメラに映っていた少年だった。


「日高孝だな?」


「はい。そうです」


 少年はハッキリとした口調で言った。


「葛西さんから事情は聞いています。僕は逃げも隠れもしません」


 ヘッドライトの光を受ける彼の姿はとても凛々しい表情をしていた。


 …………


 日高孝の取り調べが始まったのは0時を目前に控えた頃だった。


 取調室内――


 朝倉勇のとき同様話を聞くのは先輩だ。先輩と机を挟んで向き合う日高孝はとても落ち着いていた。朝倉勇のように緊張した素振りを見せない。自分は先輩の後方に控え、ことの成り行きを見守った。


「君にここに来てもらったのはほかでもない。現在上納市内で起きている連続殺人事件について話を聞きたいからだ」


「はい。理解しています」


 日高孝は動揺するでもなく、冷静な言葉で返した。


「まず最初に。美守茜は今どこにいる?」


「彼女ならカムライ教にいますよ」


「カムライ教に? まさか美守茜はカムライ教の信者なのか?」


「いいえ、彼女に確認したわけではないのではっきりとはわかりませんが、違うと思いますよ」


「ならなぜカムライ教に?」


「僕が連れて行きました。連続殺人犯に殺されるかもしれないと言っていたので、人が大勢いるところなら安全だと考えたんです」


 美守茜は自分が殺されるかもしれないことを知っていた……

 考えられる可能性としては朝倉勇が彼女に伝えたということか。しかし、彼女から話を聞いたとき朝倉が犯人だと主張していたことを思えば、美守茜が朝倉勇の話に耳を貸すとは考えにくいが……


「確かに、最近にしては珍しいくらい車が止まってたしな。そんなところに犯人が突っ込んでいくとは考えにくいか」


 そして先輩は本題に切り込む。


「それじゃあ、これから君のアリバイを確認する」


「それはつまり僕が犯人だと思っているということですか?」


 相変わらず日高孝に動揺や焦り、狼狽している様子はない。


「今からする俺の質問の返答次第だ」


 先輩が、これまで殺された被害者の死亡推定時刻の間に、なにをしていたのかを質問する。最古のもので2週間前。その記憶を掘り起こすように、思い出しながら、日高孝はちゃんと受け答えする。


 「わからない」や「覚えていない」という言葉を一切使うことなくただ淡々とその時の事を語っていく様に、若干の恐怖にも似た感情を抱いた。それはまるで機械のような、でなければ予め答えを用意しておいたふうな印象。


 すべての質問が終わる。


 結論として、日高孝のアリバイを客観的に証明することは不可能であった。


「申し訳ないが、今のままだと君が犯人ではないと言い切ることは不可能だな」


「それは自分でもわかっています。ですが、僕が犯人ではないことを証明することはできます」


「え……!?」


 自分は思わず声を漏らしてしまった。


「まず、刑事さんにお聞きしたいんですが、どうして僕が犯人だと思ったんでしょうか?」


「言っておくが、まだ君が犯人だと断定したわけじゃない。あくまでその可能性があるというだけだ。間違えないでくれ」


「では、その可能性とは?」


 先輩は腕を組んで押し黙る。日高孝が犯人の可能性を示す証拠の中には、これまで公にされていない情報もある。それを話していいものかどうかを迷っているようだ。

 普通なら、警察がそれを口外することはない。ましてや相手は被疑者だ。その相手に情報を漏らすということは、今後証拠隠滅の機会を与えることにもなりかねない。


「わかった。話そう」


「え!? 本気ですかせんぱ――」


 先輩は振り向かずに手で制す。なにか考えがあるのだろうか、自分は先輩の制止を受け入れた。


「これは公表されていない情報なんだが、これまでの事件の現場にはカムライ教のお守りが残されていたんだ。身につけていたり、カバンの中にあったり、近くに落ちていたりと形はどうあれ、な」


「そうだったんですね。だから犯人はカムライ教の関係者、ということなんですね」


「ああ、葛西が言っていたんだが、お守りを一度に大量購入したことのある人間は見たことがないそうだ。つまり、カムライ教と無関係の人間を殺して現場にお守りを残すってのは、ちと無理がある」


「そうなると、被害に遭われた方たちがカムライ教の信者であることを知っていなくてはならない……ということですね?」


 日高孝――聡明な顔立ちのとおり、理解が早い。


「ああ。だから幹部の人間、あるいは教祖が犯人である可能性に行き着いた。――しかし、葛西と杏珠が犯人ではないことは裏が取れてるのでこの2人は犯人ではない」


「だから僕が疑われている」


「ああ。そして極めつけは朝倉勇の携帯に送られていた予言のメールだ」


 予言のメールと言う言葉を発した瞬間。日高孝の表情が変わる。真剣な顔つきだった表情が静かな笑みを伴う。それはまるで、その言葉を待っていたと言っているような感じだった。


「実は、僕も美守さんから聞いて初めてその予言のメールの存在を知りました」


 日高孝は初めての部分を強調する。


「本当にそのとき初めて?」


 先輩は軽い挑発に乗ることなく、冷静に探りを入れる。


「はい。そもそも考えてみてください。朝倉君の携帯にメールを送るには、彼の携帯のメールアドレスを知っていないと無理ですよね? 残念ですが、僕は彼のメールアドレスを知りません」


 日高孝は自身に満ちていた。


 一方自分は、朝倉勇の携帯のアドレスという言葉でふと思い出していた。


 ――朝倉勇の携帯電話に登録されていたアドレスはたった2つだけだった。


「そして、幹部の人間が犯人なら僕以外の人間にも犯行は可能なのではないですか?」


 ――朝倉勇の携帯のアドレス帳にあったのは……


「うん? 葛西と杏珠にはアリバイがあるんだぞ? それに、米座吾郎は君も知ってると思うがすでに遺体となって発見されている」


 ――『赤木くん』と、


「幹部の人間はもう一人いるのをご存知ですか? 正確には元幹部ですが」


 ――『お母さん』。


「ああ知ってる。葛西から聞いた。たしか……半田だったか?」


「半田……? ああ――」


 そして、彼の口から衝撃の事実が語られる……


「――それは以前の姓です。彼女は離婚して、今は“朝倉”ですよ」

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