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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第三章 早乙女聡 編

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10月12日

 連続殺人事件が発生してからもうすぐ2週間が経とうとしていた。自分たちの捜査の甲斐もなく、米座吾郎は遺体となって発見されてしまった。そして彼の所持品にはやはりカムライ教のお守り……


 これは完全に自分たちの失態であった。言い訳のしようもない


 米座五郎。年齢は42歳。彼が遺体となって発見された場所は上納市内郊外にあるアウトドア用品店。そこは彼が経営する小さな店で彼ひとりで切り盛りしていた。

 死亡推定時刻は12日の午前1時から4時までの間。昨日この店は臨時休業だったため来客はなし。しかし彼自身は夜遅くまで店で作業していたことがすでに判明している。犯人はその時を狙って彼を殺害した。

 遺体となって発見された彼の後頭部にはピッケルが根深くさ刺さっていた。そのほかには外傷がなかった。凶器となったそのピッケルは米座吾郎の店で取り扱っている商品でタグが付いたままになっていた。


 捜査は依然として進展を見せないままになるのかと思われたが今回はこれまでと違い新たな展開を見せることとなった。


 彼の店周辺で根気よく聞き込み調査を行っていた際に、駅前の近くの商店街のファミレスで米座吾郎を見たという若い男性が現れた。しかも男性はそのファミレスでバイトをしている店員だった。

 監視カメラの映像が見たいとお願いすると、男性は電話で勤務先に問い合わせてくれた。許可がもらえると、男性は今から出勤だということで、同行することとなった。その道すがら、男性からいろいろと情報を聞き出す。


「普段は客の顔なんかいちいち覚えてないんスけどね。まぁ、自分のタイプの女の子とかだったら別っスけど。ほら、米座……さん? スンげぇ特徴的な顔じゃないっスか? だから印象に残ってて」


「ただ、印象に残ってた理由って、それだけじゃないんスよ。昨日の夕方くらいに2人で店に来たんスけど、一緒にいた客が高校生くらいの割とイケメンの兄ちゃんだったんスよ。ンで、親子にしては似てなさすぎるしスゲぇミョーな組み合わせだなーって」


「しかもそれだけじゃないんスよ。いつもは客の会話なんか耳に入んないんスけど、そのときは違ったんスよね。その2人、《《カムライ教》》って言ってたんスよ。俺は全然違うんスけどじいちゃんがカムライ教の信者で……んで、気になったつうか……」


「内容っスか? さすがに仕事中っスから全部聞いてたわけじゃないっスけど。そっスね、『幹部を辞めたのは失敗だった』とかって言ってた気がするっス……たぶん……」


「ああそれと! スンげぇ奇妙に思ったことがあって。なんかその米座って人、連れのこと『坊っちゃん』て呼んでたんスよ」


 ――――


 店に着くと事前に連絡を入れていたのですぐに店長が現れ事務所へと案内される。そしてカメラの録画を確認する。


 昨日の夕方という話しだったので適当に当たりをつけ精査していくと、その2人はすぐに見つかった。


「確かに映ってますね」


 入り口からレジ付近を俯瞰に捉えた映像に米座吾郎は映っていた。カメラの解像度が高いこともあってハッキリと確認できる。さらに、先程の男性が言っていた高校生くらいの少年の姿もバッチリ映っている。その映像を見て彼の言う『妙な組み合わせ』というのを理解できた。


 米座吾郎が髭の濃い熊のような体型をしているのに対して学生の方はスラリとした体型で整った顔立をしていた。


 まるで似ていない。


 もちろん、世の中には似ていない親子だっているだろう。だが、この2人の場合はそういった次元を超えているように感じた。先輩は、男子生徒の顔が一番よく見える場面で一時停止して、食い入るようにその映像を凝視していた。


 ――まさか、先輩ってやっぱりそっちの趣味が……


 などとと穿った想像をしていると、


「似てる……」


 先輩がポツリと呟いた。


 似てる? ――どう考えてもこの映像の2人のことではない。


「似てるって、誰にですか?」


「うん? ああ……いやな、この学生が杏奈に似てるんだよ」


 杏奈と聞いて思い浮かぶのはカムライ教の前教組だ。


「え? それって……いや、でも、杏奈さんの子どもって杏珠さんだけですよね?」


「そのはずなんだが……」


 先輩は腕を組んで思考を巡らせる。


「隠し子……か?」


 自分たちが知らないだけで実は――というパターンだってある。


「まぁ、何にせよ、この少年に接触しない手はないな」


「はい」


 男子生徒が映っている場面をプリントアウトしてもらい、それを手に自分と先輩はファミレスをあとにした。


 カメラに映っていた少年を闇雲に捜しても見つからない。ファミレス店員の話の中で気になったのは以下の二点。


 ――幹部を辞めたのは失敗だった。


 ――坊っちゃん。


 カムライ教という言葉を出したことも考えると、米座吾郎はカムライ教の幹部だった。そして、一緒にいた少年は自分よりも立場が上の人間の子どもだったと考えられる。先輩が少年の顔が杏奈さんに似ているというのなら、その少年は杏奈さんの子どもだったと考えればすべての辻褄が合うように思えた。それを確かめるべく自分たちはカムライ教へ向かうことにした。


 カムライ教に向かう車の中で先輩は「どういうことだ……」と難しい顔をする。


 運転中の自分は前を見ながら先輩に訊く。


「何か気になることでも?」


「ああ、朝倉勇に事情聴取をしたあとでお前言ってただろ? 『divination of the spirit』はカムライ教の幹部しか知らない言葉だって。それで思い出したんだが、カムライ教の幹部は昔は数人いたはずなんだよ」


「え? そうなんですか!? ――ってことはあれじゃないですか!? 元幹部が犯人ってことじゃないですかそれ!」


「俺も最初はそう思ったんだが、そう考えると妙なことになる。その幹部の人間はなぜ朝倉勇にメールを送ってるかだ。朝倉勇は一信者に過ぎん。まして一介の高校生だ。そいつに犯行予告のメールを送る理由はなんだ?」


 そう言われるとそうだ。


「でもそれは――」


「ああ。すべてはカムライ教に繋がってる」


 …………


 カムライ教に着いた。駐車場に車を止め入り口へ向かおうとすると、先輩が裏口から行こうと言った。裏口があるなんて初耳だ。先輩が扉を激しく叩くと、中から慌てたように葛西さんが出てくる。


「いったいどうしたんですか!? ――って、え? 杵島さん?」


 慌てた様子の葛西さんが自分たちの姿を認め目を丸くする。


「今日も話があってここに来た」


 先輩がズカズカと中へ入る。扉の向こうは直接事務所になっていた。


「捜査ですか?」


 先輩が適当なイスに腰掛ける


「ああそうだ。単刀直入に聞く。米座五郎という男に心当たりはあるか?」


「よ、米座……って、事件で、なくなった人ですよね?」


 葛西さんが言葉に動揺を滲ませた。


「そうなんだが……ここの幹部だったて話は本当か?」


「えっと、それは……その、ですね……」


 言いよどむ葛西さんは何かに葛藤している様子。先輩は葛西さんの答えを待たずに続ける。


「しかも、カムライ教の前教祖杏奈には息子がいるんだってな?」


「え!? そんなことまで!?」


 先輩の話はあくまで自分たちで組み立てた推理だ。それが事実かどうかは定かではなかったが、この反応を見るに正解と見て間違いないだろう。


「その……杏奈さんは、来るもの拒まず、去る者追わずの精神でカムライ教を運営していました。だから、すでにカムライ教去っていった人に言及するのは教義に反するんです……」


 どうやら彼は根っからの杏奈の信奉者のようだ。


「だから話すのが嫌だってか? じゃあ一つ教えてやる。杏奈の息子が連続殺人事件の犯人だって言ったらどうする?」


 これも単なる当てずっぽう。葛西さんから話を聞き出すためのカマかけ。


「そっ、そんなことって!?」


「ない……ってか? 本当にそうじゃないかもしれないが、少なくとも警察はその線で動くだろうな。その可能性を示すだけの証拠が出てきちまってんだ。お前は止めるべきじゃないのか? もし違うと思うなら、杏奈の息子が犯人ではないと言う証拠が必要になる。――このまま放っておいて、犯行を重ねさせる。あるいは謂れのない嫌疑をかけられたままにするってのは、それこそ亡くなった杏奈に対する不義理じゃないか?」


 先輩の言葉は半ば脅しのようだった。


「そう……ですね。わかりました」


 先輩の言葉に堪えたのか、心に届いたのかはわからないが、葛西さんはこちらの質問に答えてくれるようだった。


 杏奈の実の息子の名前は日高孝ひだかこう。ちなみに杏珠さんは義理の娘だそうだ。


「実の息子がいたのに、どうして義理の娘に自分の後を継がせたんだ?」


 しかし葛西さんは首を横に振った。どうやら彼もその理由をらないらしい。


 それから、日高孝は時折この事務所に顔を出して仕事の手伝いをしていたようだ。正式に幹部としてではないらしいが、将来的にはそのポストに就くのだという。また、幹部は葛西さんを含め3人いたそうだが残りの2人は杏奈さんが亡くなると同時に辞めてしまったそうだ。

 その2人の内のひとりはすでに亡くなっている米座五郎。もうひとりは半田さんと言う名の女性で、今はどこで何をしているのかは知らないとのことだった。


 先輩が立ち上がり葛西さんの肩に手を置く。


「最後に俺から2つお願いがある。ここに日高孝が来たら俺に連絡してくれ。あと彼の家の住所を教えてくれ」


 葛西さんは力なく頷いた。


 教義に反した自分を攻めているのか、はたまた自分が信奉していた人の息子が犯人かもしれないという事実にショックを受けているのか……

 

 …………


 日高孝の家に行く前に一度署に戻った。プリントアウトした日高孝の画像のコピーを取って、すべての捜査員に配るよう課長に頼んだ。それから車で上ノ木町内にある日高孝の家に向かった。そこについたのは午後6時過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。

 家の呼び鈴を鳴らすと、出てきたのはメガネを掛けた男性。日高孝の父親だった。事情を説明し、日高孝はいるかと問うと、まだ家には帰ってきておらず、どこにいるかはわからないとのことだった。


 そして最後に先輩がこんな質問をした。


「――ちなみに奥さんは今どちらに?」と……


 男性は一瞬だけ不快な表情を見せ「なっ!」と小さく漏らしたのを自分は聞き逃さなかった。そして「離婚しているので、妻はいません」と返ってきた。


 先輩は「そうですか……」と言い残してその場から離れた。自分もその後に続いた。


 葛西さんの話を疑っていたわけではないのだろうが、裏を取らずにいられなかったのだろう。その後、家の近くに停めた車の中で彼の帰りを待つことにした。


 それから数時間――


 待てども待てども、日高孝が家に帰って来ることはなかった……

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