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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第三章 早乙女聡 編

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10月10日

 流尾寛平。年齢は35歳で会社員。遺体は心臓をナイフで一突きされた状態で、上納市駅近くにある公園の茂みの中で発見された。心臓に刺さったままになっていた凶器は普通に市販されている料理包丁。

 死亡推定時刻は、司法解剖の結果と近隣住民の情報と摺り合せた結果10月9日の午後9時から12時にかけて。前回と違って犯人を目撃したという情報は入っていない。

 

 ――白い仮面に黒のマントの人物……


 戸波玲香の事件のときに通報してくれた女性は犯人と目があったと言っていた。つまり犯人側も自分が目撃されたことを理解しているはずだ。にもかかわらず反抗重ねる大胆さ……


 もしかして自分たちは舐められているのかもしれない。現に5人もの被害者を出してしまっているのだから。


 …………


 自分は課長に予言のメールについての報告をした。そのついでに、次にメールが来たら事前にその人物を捜し出して保護してはどうかと提案した。


「確かに、そのメールが被害者が死亡する前に送られてきていることはわかるけど……無理だろうねぇ」


「なぜですか!? 被害者を出さずに済むんですよ!? 捜査に協力してもらえれば、犯人を捕まえることだってできるかもしれないんです!」


 詰め寄る自分に対して、課長はピッと指を立てた。


「この世に絶対はないんだよ。つまり次に来たメールに書かれている人物が殺されるという確証がないってことだ。確証がなければ上を説得するのは無理だよ。――私の一存だけで判断できる状況なら首を縦に振ってやれるが、今はそうじゃない。署全体の問題だからね。」


「そう……ですか」


 課長の言うことはもっともだ。予言のメールなんてオカルト的な理由を根拠に捜査を進めるってのはあまり褒められたものではない。


 その前例を許せば、今後は占いで犯人を当てましょうなんて暴論もまかり通ってしまう。


「――ただ、やれることはあるよ」


「え? やれること、ですか?」


「気がつかないかい? メールが送られてきたということは送り返すことができるってことだよ」


 課長がニヤリと笑った。


「なるほど! 気が付きませんでした! では早速――」


「あ、くれぐれも仕事用のアドレスは使わないように。いいね」


 メールの返信に取り掛かろうとする自分に課長の注意が飛んでくる。


 適当なパソコンを用意して、新規のメールアカウントを取得する。


 そして試しにメールを送ってみた……が、すぐにエラーメールが返って来てしまった。ほかもすべて結果は同じだった。つまり、すでにアカウントが削除されてしまっているということだ。


「ふむ。どうやら送れなかったみたいだねぇ」


 自分の落胆した態度を見た課長が、同じく気落ちしたように言う。


「仕方ない。ここはちょっと裏技を使おうかな」


 そう言って、課長は部屋を出ていった。


 …………


 自分と先輩は被害者の流尾寛平の勤務先に聞き込みに向かっていた。


「課長にお願いしたんだってな? 保護できないかって」


「え? ええ……。ですが、駄目でした」


「そうか……」


「ですが、課長が裏技がどうのと言っていました」


「ほぉ。なら、ことはいい方向に進むかもしれないな」


「――?」


 どうやら、そこには自分の知らないなにかがあるようだ。


「よし、着いたぞ」


 到着したのは、全国でもトップクラスのIT技術を誇るビューティープロテクトの本社だった。亡くなった流尾寛平はここの社員で、それは偶然にも、予言のメールのメールアドレスのドメインを提供している会社でもあった。


 ――――


 話を聞くために自分たちが通されたのは小会議室だった。単純な距離にすれば入り口からここまではさほど遠くはない。しかし、ここにたどり着くまでに多数のセキュリティを潜らなければならず、手続きがかなり面倒だった。それだけでかなりの時間を食った。余談だが、外の駐車場に車を止めるのですらかなり面倒だった。


「すごいですね……この会社」


「だな、正直すごいを通り越して息苦しいくらいだな」


 先輩がネクタイを緩めるジェスチャーをした。


「どうも。おまたせしました」


 会議室の扉が開くと、パリッとしたスーツにきれいな七三分けの眼鏡の男性が現れる。男性は失礼とこちらに頭を下げ、机の向かい側に座った。早速先輩が流尾寛平についての話をふった。


「流尾君は私の部下でして、とても優秀な人でした。正直惜しい人をなくしたと思っています」


 男性が伏し目がちに語る。


 先輩が立て続けに質問する。


「事件があった日の彼の行動ですか? その日は翌日にメンテナンスを控えていたので早めに帰らせたんですよ。帰宅前は普段どおり社内で仕事をこなしていました」


「メンテナンスというのは、高級住宅街にあるタワーマンションのセキュリティメンテナンスのことです。外部の警備システムも完備されていますが、一部のセキュリティはマンション内にあるコンピューターで管理しているんです。あのマンションにはうちの社長も住んでいますからね、流尾君もかなりプレッシャーを感じていたはずですよ」


「恨まれる? それに関してはなんとも言えませんね。流尾君はうちの部署でも有望株でしたからね、他の社員から疎まれていた可能性は否定できません」


「カムライ教……というと、上ノ木町のあれですか? ――そこに流尾君が? そういった話は聞いたことありませんが……」


 …………


 話が終わって、自分と先輩は会社の外に出た。入るときほどではないが、出るときもそれなりにセキュリティチェックに時間を要した。


 日が沈み始め、西の空が茜色に染まっている。


 正直な話、聞き込みをしている時間よりセキュリティチェックにかけた時間のほうが多かったなと錯覚してしまうほどだ。


 駐車場に向かう途中先輩が携帯を確認する。どうやら、朝倉勇からメールが届いていたらしい。本文には『米座吾郎(よねざごろう)』とだけ書かれていた。


 それが示すのは次のターゲットの名前。


 先輩は『ご協力どうも』と返信していた。


 …………


 署に戻るやいなや課長に声を掛けられた。今日の聞き込みの報告を要求されるのかと思いきや、


「裏技、うまくいったよ」


「裏技?」


 そう言えば、今朝課長がそのようなことをいっていたのを思い出す。


「ほぅ。で、どういう具合にうまくいったんだ?」


 先輩が訳知り顔で笑みを浮かべる。


「オカルトを根拠に、署内の人間すべてを動かすのは無理でも、一部の人間だけなら可能にする。――これが今回の落とし所だ」


「え? それってつまり……」


「まあそういうことだ。君と杵島くん他数名を僕の一存で動かせるようになった」


 それは願ってもないことだった。


「もちろん結果が出せなければ僕も君たちもタダでは済まないけどね」


 その言葉とは裏腹に、課長ちょっと嬉しそうだった。

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