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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第三章 早乙女聡 編

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10月6日

「またか……」


 先輩が落胆したような、それでいてどこか怒りを湛えたような声で言った。


 また――


 そう、また被害者が出てしまった。


 真っ先に、被害者が首からお守りを下げていたという情報が飛び込んできた。


 被害者はの名前は鳩場詩愛はとばしあ。年齢は21歳。発見された場所は歓楽街。彼女は同所にある店で働く女性だった。夜のお仕事、いわゆる水商売。


 死亡推定時刻は今日の朝4時から7時。


 水商売関係の仕事をしている人間は大なり小なり男女問わずトラブルがつきものだ。被害者が偶然カムライ教の信者だったという可能性もあるにはあるが、それは今後の捜査次第だ。


 遺体の外傷は、背後から刺されたと思われる脇腹の刺し傷と、胸部の刺し傷の計2箇所。どちらも鋭利な刃物で刺されていた。

 犯人はおそらく背後から鳩場詩愛を襲ったあと、止めに心臓をナイフで刺したものと思われる。彼女に抵抗した様子が見られないことから、最初の一撃はかなり効いていたと思われる。そして犯行に使われたそのナイフは現場に落ちていた。だが指紋は検出されなかった。


 また今回は、現場となった歓楽街には複数の監視カメラが設置されていたためすぐに検証が行われた。

 何らかの進展があるはずと、署内の人間は期待を膨らませたが、結果は芳しくない。


 鳩場詩愛の姿をカメラで確認することはできた。それにより死亡推定時刻の絞り込みが可能となったが、肝心の犯人の姿は映っていなかった。


 …………


 自分たちは情報を得るため被害者の家に向かった。そして母親から事情を聞いていたときにそれは起こった。


「まぁ!! なんですって!?」


 彼女がヒステリックに声を上げる。


「うちの詩愛があんな得体の知れない宗教に通っているはずないでしょう!!」


 この反応から、この人がカムライ教に対して良い感情を抱いていないのがわかる。加えて、娘が殺された直後とあってか、かなり気が立っているようだ。


「わ、わかりましたから。取り敢えず落ち着いてください!」


「わたくしは落ち着いていますよ!」


 その後しばらく時間を掛けて、なんとかまともに話ができる状態へと持っていった。しかし、あまり母娘間の仲がよくないのか、最近の娘の行動についてはよく把握できていないようだった。ただ一点、カムライ教に行っていたということは絶対にないと強く主張していた。

 だがそれも実際のところ本当かどうかはわからない。親に隠れてカムライ教に足を運んでいたという可能性だってないとは言い切れないのだから。つまるところ、ほとんど確かな情報は得られなかったということだ。

 

 …………


 自分たちが署に戻ったあとで行われた報告会議内で今後の方針が決まる。それは事件の現場にカムライ教のお守りが落ちていたことを公にしないというものだった。

 これは模倣犯が出て捜査が撹乱されるのを防ぐためと、連続殺人に宗教団体が絡んでいるかもしれないということを表に出したくはないという2つの理由からだ。

 過去にも、こういった事件で宗教団体の関与を発表した際、無関係だと言い張る信者の一部が暴徒化して警察と衝突したことがあった。その際、警官に負傷者を出すという苦い経験があるので、より慎重に対応しようということだった。


 それを踏まえた上で以下のような意見が出た。


 ――犯人はカムライ教の人間なのではないか?


 確かにこれまでに殺されている3人の人間はカムライ教のお守りを所持していた。そこから考えれば犯人は被害者がカムライ教の信者であることを知っていた可能性が極めて高い。

 これまでの聞き込みで被害者が自身がカムライ教の信者であることを口外していた事実はないので、それを知ることができる人物となると、自然とカムライ教関係者に的が絞られる。

 また葛西さんから、ひとりの人間がたくさんのお守りを購入している事実はないとの証言が得られているので、この話を真とするならば、被害者を殺した後犯人が現場にお守りを残したという可能性はなくなる。


 だがそれでも疑問を挟まずにはいられなかった。もしも犯人がカムライ教の関係者で、カムライ教の信者を狙って犯行を行っているのなら、カムライ教に疑いがかからないように逆にお守りを持ち去るような気がするのだ。

 なにせ、現場にカムライ教のお守りがあったからこそ自分たちは今カムライ教に疑いの目を向けているのだから、これがなかったらカムライ教にたどり着くことができなかった可能性まである。


 すると課長からこのような案が提出された。


「カムライ教の人間に監視をつけてみようか?」と――


 もしも連続殺人が今後もまだ続くのであれば、監視をつけておいて損はないだろうと。


 次の事件が起きたとき監視対象のアリバイを警察自身が証明することになればこれほど完璧なアリバイはない。もちろん、次の被害者が出る前に犯人見つけ出すことも忘れてはいけない。


 そこで、捜査員から数名の人間が選出され、カムライ教関係者を監視することになった。


 で、誰の監視をするのか……


 候補に上がったのは幹部である葛西さんと教祖の杏珠さんだった。


 信者の情報を知っているだろうという点では犯人である可能性が最も高いのはこの2人だ。異論はない。もちろん信者の中の誰かが犯人であることも否定できないが、少なくとも彼らが犯人ではないことの確証が得られれば、2人に疑いの目を向けなくて済むというのは自分自身ありがたい話ではある。


 こうして、2人に監視が付けられることとなった。


 …………


 会議が終わると、自分と先輩は夜の歓楽街での聞き込みを行うことを命じられた。


 昼間は学生などで賑わい、夜は大人の色に染まる場所。メインストリートは端から端までは徒歩でおよそ5分程度と短い距離だが、ちょっと路地を入ると隠れ家的な店があったりもするので意外な発見があったりする場所だ。


 時刻は夜の8時過ぎ、昼間はやっていなかった店も始まり、それにつられて新たな顔ぶれが集う。


 自分たちは早速聞き込みを開始した。


 ――――


 聞き込みを開始してからおよそ2時間。


 任された範囲内はあらかた話を聞き終え、得られた情報の中にちょっとだけ気になる情報があった。

 鳩場詩愛がこの歓楽街内の店で働いていることはすでに調べ済みだったのだが、働き始めたのはここ半年ほど前からで、仕事がうまくいっていなかったらしい。しかも、何度かお客さんとトラブルを起こしていたそうだ。

 証言してくれた女性の話しによれば、そのトラブルの内の2回はたまたま通りかかった高校生に助けてもらったと話していたそうだ。


「あんまり関係なさそうだけどな」


「そうでしょうか?」


「だってそうだろ? トラブルの相手は複数。その内の誰かが犯人だとして、そいつには甲斐夏男と菅瑠実音を殺す動機があったってことか? そんでたまたま3人ともカムライ教のお守りを持ってたって? できすぎだろ?」


「確かに偶然の要素が強すぎますが、お守りに関しては犯人が現場に置いた可能性だってありますよね?」


 先輩がやれやれと呆れながら頭をかく。


「あのなあ、昼の会議のとき俺は『葛西はお守りを複数購入した人間に心当たりはないって言ってた』って報告したよな?」


「嘘の可能性だってあるじゃないですか」


「それ言い出したらきりないだろ」


「それは……そうですけど……」


「ま、俺たちの仕事は疑うことだ。お前は間違ってない。――話変わって悪いが、ちょっとションベン行ってくる」


「う、せめてトイレって言ってくださいよ……」


 先輩は後ろ手を振りながら、近くのコンビニへと向かって行く。そして、先輩が店の中に消えた瞬間――


「ぎいいぃぃぃやああああぁぁっぁぁぁ!!!!!」


「うわぁぁっ!」


 突然、歓楽街を覆うほどの悲鳴が上がり驚いてしまった。


 しかし身についた習慣というのは恐ろしいもので、驚いたのは一瞬で、体が即座に反応し悲鳴のした方へと駆け出していた。


 ――――


 雄叫びの発生源と思われる場所には人の集まりができていた。


「すいません! 通してください!」


 形成された人の輪を割って進み、中心へと出る。


 そこには、薄茶のコート羽織った背の低い女性とスーツ姿の頭髪の薄い男性がいた。男性の方は地面に尻餅をついている。


 自分は2人の間に入る。


「悲鳴が聞こえたんですけど、何があったんですか?」


「なんだお前は! お前には関係ないだろう!」


 尻餅をついたまま男性が自分を指差して言う。顔を真っ赤にしているが、それは怒りによるものと酒によるものだと思われる。


「えっと、自分はこういうものです」


 警察手帳を取り出し、2人それぞれ確認してもらう。


 その瞬間男性の態度が一変した。


「そ、そいつが俺を突き飛ばしたんだ。これは傷害事件だ! 今すぐ逮捕してくれ!」


「んなっ――違うでしょ! そっちが先に変なことしてきたんでしょうが!」


「つまり、変なことをされたから突き飛ばしたってことですか?」


 女性の方に確認する。


「はい、そうです……」


「ちなみにその変なことってうのは?」


「え……えっと、それは……」


 女性はなぜか言い淀み、心なしか頬を紅潮させる。


「騙されるな! その女は嘘つきだだから何も言えないんだよ!」


「違う! 先に変なことしてきたのは事実です!」


 互いの意見は平行線。


 先輩に何も言わずここに来てしまった以上長引かせるのは得策ではない。となれば、


「2人の言い分はわかりました。幸いにも、どちらの言い分が正しいかを証明することができるので確認しましょうか?」


 説明しながら自分は近くの鉄柱の上方を指さしてみせた。


 2人の視線がそこに向かう。


 そこにはあるのは監視カメラ。


「――おっと、急に用事を思い出したぞ」


 言うが早いか、男性がすっと立ち上がり野次馬の間を無理やり分け入って逃げていった。


 結構酒を飲んでいたようで、少々心許ない走り方であった。


 しかしこれで真相がはっきりした。


 だからといって、


「いいですか? 今回はたまたま事がうまく運んだに過ぎません。見たところ一人のようですし、ここがどういうところか知らないような歳でもないでしょう? トラブルに巻き込まれたくなかったらすぐにここを立ち去ることを勧めます」


 自分は女性に注意を促す。


「は、はあ……」


 なんとも歯切れの悪い返事だった。


 ふと、女性の身なりが気になった。羽織っているコートはほつれかけた箇所があるかなり年季の入ったもので、しかも男物のようだ。それに、首にはストラップでデジタルカメラを下げていた。


 彼女がここで何をしていたのかかなり謎であった。かといって、用もないのにこれ以上の追求をするのは憚られる。


「それじゃあ自分はこれで」


 自分はさっきの場所へと戻ることにした。


 駆け足で戻る途中、目の前から歩いてくる一人の女性に目を奪われた。自分は思わず立ち止まって女性を凝視してしまう。

 背は165くらいで、黒縁のオーバルタイプのメガネを掛けていた。利発そうな整った顔立ちで、後ろで結った黒く長い髪は腰まで伸びている。

 目を奪われたのは、その女性が美人だから思わず見とれてしまったというのもあるが、それ以外にも妙な既視感を覚えたからだ。


 どこかで見た……直接見たというよりも写真か何かで見たというニュアンスに近い。


 ――新聞か? それとも雑誌……?


「……って」


 今はそんなことをしている場合ではない。


 先輩のところに向かって再び走り出した。女性とすれ違う際に、ふわりと白桃の香りがした。


 ――――


 元いた場所の近くまで来ると、先輩が地面にしゃがんでなにかしているのが目に入った。


「――先輩、なにやって……って、この人!」


 駆け寄って先輩に声を掛けると同時に、地面に倒れている人物が目に飛び込んでくる。


 その人物は、先程トラブルを起こしていた頭髪の薄い男性だった。


 走って逃げたと思ったらこんなところで伸びているとは……


「ん? なんだ、知り合いか?」


「いえ、特にそういうわけでは……」


 自分は先輩がトイレに行ったあと何が起こっていたかを説明した。


「なるほどな。酔っ払っててつまずいたってわけでもなさそうだしな」


 男性の左頬が真っ赤に腫れている。誰かに殴られて気絶したのだろう。


「だがまぁ、さすがにこのままってわけにはいかんしな」


 先輩が面倒くさそうに頭を掻いた。


 周囲の明るさで忘れてしまいがちだが、すでに夜10時を過ぎており、風が冷たくなっている。このままここに寝かせておけば体に障ることは容易に想像できる。

 でなくとも、自分たちは警察であるわけで、どんな場面に置いても気を失っている人を放って置くという選択肢はない。


「抱えられるか?」


 先輩に言われ、自分は男性を抱えた。その瞬間男から酒の臭いが漂ってきた。


「近くに知り合いの店があるんだ。そこで休ませよう」


 先輩の案内でたどり着いた店はメインストリートから外れた場所にある店だった。中に入ると出迎えてくれたのは燕尾服のボーイで、先輩が事情を説明して「キャサリンを呼んでくれ」とお願いする。


 キャサリン……どんな女性が出てくるのかと思っていると奥から一人の男性(?)が顔を出した。


「あらぁ道生ちゃん、久しぶりじゃなぁい。何か用事あるそうだけどどうかしのぉん?」


 独特のしゃべり方をする男性。筋肉質な体だが着ている服は女性物で厚めの化粧をしている。


 いわゆる女装だ。


 そして、この男性(女性?)がキャサリン……


「実はな、こいつが道で倒れててな、ここで休ませておいてくれないか?」


「あらそうなの? でも、あとしばらくでお店閉めちゃうわよぉん?」


「大丈夫だ。ここに来るまでに男のポケットを検めさせてもらってな。家族に連絡済みだ。この店の場所も教えてあるからすぐ来るそうだ。上ノ木に住んでるって言ってたから時間は掛かりそうだが、店が終わる前には来るだろう」


「そうなのぉん? それならいいけど、今度はお金落としていってちょうだいねぇん。」


「あぁ、わかったよ」


「それから――」


 キャサリンと目が合う。


「そっちの可愛い坊やもいっしょにねぇん」


 キャサリンにウインクされた。


「だそうだ」


 先輩が自分の肩に手を置いた。


 自分は、できることならそちら側の世界には行きたくないと心の中で強く思った。

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