プロローグ
「本日付でこちらに配属となりました早乙女聡です。よろしくおねがいします!」
挨拶を終えると室内が拍手に湧く。
「そういうわけで、今日からここに配属になった早乙女君だ。みんな、よろしく頼む」
課長が自分の肩を叩いて――
「君も、これからよろしく頼むよ」
期待の眼差しを向けた。
自分が上納警察署の捜査一課に出向という形で配属となったのはその年の8月のことだった。
「それじゃあ、捜査の際には早乙女君は杵島君と一緒に行動してもらおうかな」
課長が言うと、「俺が?」と声が上がる。その人物は50代後半に見える人物で、気だるそうな雰囲気をまとっていた。
「階級も経験も杵島くんのほうが上だからね、いろんなことを学べるはずだよ」
自分は先輩に歩み寄り、「よろしくおねがいします」と頭を下げた。
先輩は照れているのか「ん、まぁ」と短く言ってほんの少し視線をそらすのだった……
自分は警視庁内に組織されている特殊捜査班『TROY』に属している。このTROYの存在は極々限られた人間にしか存在が教えられていない。
その理由は、自分たちの任務が『警察の人間が関与している可能性のある犯罪の捜査』だからだ。
公安警察が同じような役割を担うこともあるが、あっちが光の当たる存在なら、こっちは影の存在と言ったところだ。
さて、今回自分が上納署に派遣された理由は、最近この界隈で出回っているという噂の“アセンブル”という名の薬物の調査のためだ。
事の発端は今から約14年前、元警察官の男が殺害された事件で、被害者となったその男性の遺体からよくわからない謎の成分が検出されたのだ。
当時、警察はアセンブルに関する成分のデータを所持していなかった。後に別の事件が切っ掛けでそれがアセンブルだったと判明するわけだが、それが判明したときには、この地域一帯からアセンブルのアの字も情報を得ることができなくなっていた。
しかし今、この時期になって再びこの地でアセンブルが噂されるようになったという。もちろん本当にただの噂の可能性だってある。その噂の真偽を確かめるのが自分の仕事というわけだ。
重要なのは、自分がここに派遣されたということは今回のアセンブルの件には警察の人間が絡んでいる可能性があるということだ。なので、可能ならば警察内部で関与している人間がいないかも調べてくれというのが上からのお達しだ。
そんなわけで……
仕事を任された以上は必ず成果を上げてみせる……と意気込んだのはいいものの、実際問題ほとんど進展はなし。あくまで警察官としての仕事をこなしながらの秘密裏な調査になるため捜査が捗らないのもまた事実。
そして10月――
忙しさに輪をかけるように、自分は謎の連続殺人事件の捜査に当たることになった。




