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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第二章 美守茜 編

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10月13日 前編

 ウチはイスから落ちそうになって目が覚めた。いつの間にか眠ってたみたいだ。窓の外は灰色の空で、辺りは薄っすらと白んでいた。夜が明けて、時刻は朝の8時だった。


 土曜の朝の店内はお客さん数が少なかった。


「ウチは……生きてる……」


 寝ている間に殺されなかったことに、内心ほっと胸をなでおろす。


 今日一日……今日一日さえ乗り切れればそれでいい。


 ウチは隣で寝ている転校生の肩を揺すって起こした。


「んー。あさー?」


「そう、朝。とりあえずなんか食べる?」


 ここはちょうどファストフード店。お金さえあればご飯は手に入る。


「うーん。そだねー」


「よし、じゃあ……」


 と、立ち上がって注文のカウンターへ行こうとすると、目の前からひとりの男性が近づいてきた。その人は、逆立てた茶色の髪で、黄色のレンズのサングラスを若干下げ気味にかけていた。ところどころ色の褪せた部分があるジーパンのポケトに手を突っ込んで歩く姿は、ひと目でアブないお兄さんだとわかる。


 ――まさか! この人が犯人!?


 自然と身構える。


 すると、寝ぼけ眼だった転校生が、「あー! お兄ちゃんだー!」と、イスから立ち上がって近づいていき、周囲の目も気にせず抱きついた。


 おにいちゃん……?


「――って、お兄ちゃん!?」


 ウチが叫ぶと店員さんが何事かとこちらに視線を向けてきた。


「っつか何やってんだお前? 電話繋がんねぇし」


「ゲームしてたら電池なくなったー!」


「あほか、それじゃ携帯の意味ねぇだろ」


 お兄さんが転校生の頭を小突いた。転校生は嫌がる様子はなく、てへへと笑っている。


 兄妹……?


 顔はまったくと言っていいほど似てない。でも、転校生が言うんだからホントなんだろう。ゲスな勘ぐりかもだけど片方しか血が繋がってない兄妹の可能性だってあるんだし。


「あのねー、お友だちと一緒にいたの。茜ちゃんだよー」


 転校生が自然な流れでお兄さんにウチを紹介していた。


「ども」


「こ、こちらこそ」


 自分で言うのも何だけどぎこちなかった。いくら転校生のお兄さんと言ってもアブない系に見えることに変わりはない。玲香とはベクトルの違う危険なニオイを纏っていた。


「とりあえずまぁ、なにしてたのかだけ教えてくんない?」


「は、はい!」


 ウチに拒否権なんかなかった……


 …………


「なるほどねぇ」


 店内のテーブル席に移動し、3人で朝食を取りながら事情を説明した。


「つまりアカネっちゃんは真理絵を用心棒にしたかったってわけか……」


「はい……」


 目を合わせられず俯いたまま返事をする。


「目の付け所は悪くないかも知んないけど、オヤジが心配しててさ。申し訳ないけど連れ帰んないワケにはいかんのよね」


 オヤジ……その言い方がそっち系の人を指すときのイントネーションだった。


「っつーわけで、このあとはほか当たってくれるかな?」


「はい……」


 ウチはそう答えるしかなかった。2人はウチの元を去っていく。事情をよく理解できてないのか、転校生はこっちに向かって「ばいばーい」と手を振ってくる。


 ウチは作り笑いで小さく手を振って返した。


 2人が見えなくなった。


「――くそっ!! っざけんな!!」


 思いっきり拳をテーブルに叩きつけた。


 店内にいる客がギョッとしてこっちを見る。店員が露骨に嫌な顔をしていた。


 でも関係ない。


「クソックソックソ――!!」


 怒りに任せ何度もテーブルを叩きつけた。テーブルの上のコップが倒れの見かけのコーラが溢れる。ポテトが散乱しテーブルの上をはねて床に落ちる。


「あの、お客様」


 見かねた店員に声をかけられた。


「あぁん!?」


 怒りの収まらないウチは店員を睨みつけるように顔を上げる。相手はこういうシチュエーションに慣れているのか動じた様子はない。


 店員はやんわりとした言い回しで退店を勧めてきた。結局のところは出てけってことだ。


 悪いのはウチだ。そんなのはこっちだってわかってる。でもこのままだとウチは今日中に死ぬかもしれなんだ。


 ――空気読めよクソ店員!!


 ウチは内心で悪態ついて店を出てやった。


 店を出て時計を見る。時間はもうすぐ10時。今日が終わるまでまだ14時間もある。でもウチにはもうほかに頼れる者がいない。


「ダメだ。とにかく安全そうな場所を探さないと!」


 とにかくひとりになることだけは避けなければいけない。まわりに人がいればさすがの犯人だって襲ってこれないはずだから。だからなるべく人が多そうな場所へ行くことにした。


 …………


 台風が近づいているせいか徐々に風が強くなっていた。空は雲に覆われているけど、今のところ雨が降る気配はない。


 この状況で雨に降られたら最悪だ。その最悪の自体に備えて、カバンの中の着替えは雨に振られたとき用にして制服のままでいることにした。


 ウチはとにかく人の流れに乗って歩いた。その流れは駅の東に向かっていて、このままだと歓楽街方面に行くことになる。


 土曜日の歓楽街はそれなりに賑わっているだろうけど、未成年がそこにいられるのは夜の7時までだ。それを考えると、そこに行くのは得策ではないのかもしれない。


 ――どうすれば……どうすれば!?


 考え事をしながら歩いていたせいか、目の前に人がいるのに気がつかずにぶつかってしまった。


 なんかこの前もこんな事があったような――


「すいません」


 謝罪しながら頭を上げると、


「ん? ――お前は!?」


「うゲっ!」


 最悪だった。


 ぶつかった相手はバーコード頭のおっさん。会うのはこれで3度目だった。何が最悪かって、前回このおっさんを騙して財布を盗むということをやっている。やったのは玲香だけど相手にとってはそんなの関係ない。慌てて逃げようと思ったけど、腕をつかまれてしまう。


「見つけたぞ! 犯罪者め!」


 おっさんがすごく怖い顔で睨んでくる。


「だれ――か……」


 まわりにいる誰か助けを求めようと思って叫び声をあげようとして、はたと気づく。


 ――もしもこの中に殺人犯が紛れていたら?


 その場合、自分で自分の居場所を相手に教えることになってしまう。いや、もっと考えないといけないのは助けるフリをして人気のないところに連れて行かれて……ってのもあるかもしれないのだ。


 ――ダメだ。それはダメだ。


「あの怖い女はいないみたいだしな。よし、こっちへ来い!」


 ニュースを見てないのか玲香が死んだことを知らないらしい。


 おっさんがウチの腕を引っ張って歓楽街の方へ歩いていく。


 よくよく考えたら、このおっさんと行けばウチは安全なんじゃ……?


 しかし……


 しばらくの間おっさんに引っ張られて歩くと、だんだんとこの人がどこへ行こうとしているのか理解する。こっちには確かホテルが……


「ひぇっ!」


 殺されるのとはまた違った最悪の想像が頭をよぎる。羞恥で自分の顔が熱を帯びる。


 ウチはバカだ……殺人犯からは逃げられるかもしれないけど、こっちはこっちで別の意味でキケンだ。いや、キケンなんてもんじゃない。一生消えない心の傷を負う羽目になるのは確実だ。


「ムリ! やだ、放して! は、な、せ!」


 ブレーキを掛けて腕を振りほどこうとする。だけど無理だった。


 玲香はいとも簡単におっさんをのしていたけど、あれは玲香が特別だっただけで、決してこのおっさんが弱かったわけではないんだと、いま気付かされた。腐っても大人の男ってことだ。


「なにが放せだ! お前たちのせいで俺がどれだけひどい目にあったと思ってるんだ!!」


 おっさんが立ち止まり、振り返って声を荒げると汚いツバが顔にかかった。


「汚いから! やめてよ!」


「汚いだと!? だったらお前は何だ!? 人のものを盗むお前の性根は汚くないのか!? 綺麗なのか!? どうなんだ!」


「ウチは盗んでない! やったのは玲香だから!」


「止めなかったお前も同罪だ! 取られた分はきっちり体で返してもらう!」


 ウチの腕を引くおっさんの力が増した。その力に抗えず、ウチは引かれるままに歩みを進めてしまう。


「やだ!! やだやだやだ!! お願い許して!!」


 泣きながら叫ぶと周囲の人たちがこっちに注目しだす。この中に殺人犯がいたらウチはもう助からないだろう。でも、誰も助けてくれなかったらそれはそれでウチは別の意味で助からない。


「やだよぉ……謝るから許してよ……」


 ……あれ? でもどっちが正解なんだろう?


 ――死ぬよりも、おっさんにいいようにされてもいいから生き伸びる可能性にかけたほうがいいの?


 でもまって――


 よく考えたらこのおっさんが殺人犯って可能性ない? だって、この人には玲香と鳩場さんとウチを殺す動機あるよね?


「ははっ……もう……わかんないや……」


 頭が混乱していた。叫びすぎたせいか頭に酸素がいってないのかもしれない。


 抵抗する力を失い、ウチははおっさんに連れられてホテルの中へ――


「なにやってるんですか?」


 誰かがウチらを呼び止めた。顔を上げる気力もないのでただ会話に耳を傾ける。


「うん? なんだ?」


「その子。上ノ木の制服着てるってことは未成年ですよね? 犯罪ですよ?」


「これはコスプレだ! お前には関係ないだろう!」


「ありますよ。だってその子、僕の知り合いですから」


「え?」


 知り合いという言葉で思わず顔を上げた。そこにいたのは隣のクラスの日高だった。

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